第176話
建物外で待っていた冒険者達は大きな声で歓声を上げていた。無事に盗賊団を壊滅させる事が出来て、さらにはリーダーと思われる者も捕らえることが出来たので皆が喜んでいた。
僕は捕らえたリーダーと思われる男をレイルズに引き渡す。
「フレイさん、ありがとうございました。想定よりも少ない犠牲で盗賊団を潰せました。この建物周辺にいた盗賊がどうも実力があったらしく、その盗賊が次々と倒されるのを見て浮き足だったみたいで、抵抗が弱くなったんです」
「ご主人が盗賊を一振りで切っていくから相手は本当に怯えていたよ」
どうやら、僕が盗賊を一刀の下に倒して行く様子を見て盗賊達は戦意を無くしていったらしい。最後の方は投降する者達も出たみたいだった。
「しかし、この男がリーダーですか? 元バルドラント王国の貴族、フェルムント侯爵ですね。王国が滅んだときにセルシュ公国側に付いた貴族ですね」
「セルシュ公国の貴族になるのが気に入らなかったからこんな事をした?」
「流石にそこまでは分かりませんね。それはこれから調べてみて分かるでしょう」
そう言って、他の冒険者の人にその侯爵を預けていた。そして、ファールン王国の冒険者が集められた。
「皆さんのおかげで、この国を脅かしていた盗賊団も壊滅しました。実は少数ですが逃げだした者がいます。そちらは少ないので盗賊団になるまではならないでしょう。そちらは我々セルシュ公国の冒険者だけで対処します。さて、目的の盗賊団の壊滅も達成出来ました。我々セルシュ公国の冒険者はここで盗賊達の死体の処理をします。皆さんは来るときに来た町に向かって下さい。そこの領主にささやかな食事の準備をして貰っていますので向かって下さい。依頼料はギルドで受け取って下さい」
レイルズの言葉にファールン王国から来た冒険者が移動を開始する。僕はレイルズに近づいて少し話をする。
「レイルズさん、少し気になったことがあるんですけど」
「どうしました、フレイさん?」
「建物の中にいた盗賊が全身鎧を着ていたんですけどね。そんな鎧を着ていたのにかなりの速さで動くことが出来ていたんです。心当たりってありますか?」
「全身鎧で早く動いたんですか? 歩くならまだ何とか出来るでしょうけど、早く動けたんですよね。魔道具ですかね? しかし、今までそんな魔道具があるなんて聞いたことは無いですね。魔道具……その鎧には魔石はありましたか?」
魔道具には魔力を供給する魔石が必要である。町にある街灯も魔道具でゴブリン等の魔石が使われている。その鎧が魔道具であるならば魔石があるはずである。
「ああ、すいません。倒すのに夢中で魔石があるかどうかは見ていないですね」
「魔道具だったとして、身体強化の魔法を付与するとしたらオーク位の魔石では無理な気がしますね。……しかし、今、考えても仕方ありませんね。ギルドに鎧を渡して調べて貰います」
鎧のことをレイルズに託して僕とカルラはファールン王国の冒険者の後を追った。
町に向かう道中にカルラが聞いてきた。
「ご主人、その盗賊が着ていたっていう鎧はそんなに脅威なのかい? ご主人は簡単に倒せたんだろう?」
「僕が簡単に倒せたのは神剣だったからよ。流石に神剣に切れ無い物はあまり無いだろうね。あっても、フィーナが持っているような聖武具だけだろうね」
「じゃあ、あたいが戦っていたら負けていた?」
「負けていただろうね。カルラの剣はミスリルの剣だけど、それでも、魔鋼製の鎧を切り裂けるほどじゃない。しかも、かなりの厚めに作られていたからね。折れることは無いだろうけど、打ち負けていただろうね」
しかも、相手の動きは速かった。本来、重い鎧を着けると動きが鈍くなる。それをあの盗賊は普通以上に動いていた。それこそ、身体強化の《地魔法ストレングスアップ》を使ったカルラぐらいの動きだった。僕は神剣に最初から付いている効果で身体強化が出来ていたが、他の人は魔法が使え無くされていたので対処出来なかったであろう。
「それだけ重い鎧を着てあたいと同じくらい動けるなんておかしいね。絶対に何か裏があるね。それよりも、盗賊はそんな鎧を何処で手に入れたんだろう」
「そこが問題だね。もし、その鎧が沢山あって、かなりの数の盗賊が身につけていたら今回の壊滅作戦も失敗していただろうね」
「それこそ国が手に入れて量産なんてされたら、かなり強い部隊が出来上がるだろうね。まあ、魔鋼もかなりの量の必要だし、その鎧にどのような錬金術で作れば良いのか、さっぱり分からないし、しばらくは大丈夫だろうね」
「でも、一つだけは作れたんだよね。なら、作ろうと思えば作れるって事じゃ無いのかい?」
「まあ、そうだろうね。でも、作ったのはバルドラント王国だろうからね。直ぐには無理じゃ無いかな」
僕の言葉にカルラが驚いた。
「どうして、バルドラント王国があの鎧を作ったと分かるの?」
「あの盗賊団がバルドラント王国の元貴族の私兵だからね。で、あのリーダーと思われる男は侯爵だったでしょ。ということは、あの盗賊団はバルドラント王国の元貴族の支援を受けていた。その中に、あの鎧があったんだろうね。ただ、一つしか無かったところを見るに、失敗作か、それとも一つしか作れなかったか……」
「もしくは、どれくらいの性能を発揮したのか実験っていう事もあるんじゃないかな?」
「ああ、なるほど、まだ試作の段階で実践でどれくらい使えるのか調べている段階か。それで、戦闘をよくしている盗賊団に渡されたのか。うん、可能性はあるね」
ここが、ファールン王国なら何とか持ち帰っていたかも知れないが、ここはセルシュ公国だ。勝手に持ち帰ることは止めた方がよいと思ってレイルズに渡したが、持って帰っていればラントに良いお土産になっただろうか。
「まあ、過ぎたことだしどうしようも無いのではないです? それに、ギルドに渡したのならファールン王国のギルドでも結果は聞けると思いますけどね。所で、魔物の死体は魔法袋に入りますけど、人間の死体って魔法袋に入れられるんです?」
カルラの言葉に僕はハッとする。魔法袋は魔物死体なら入れる事が出来る。しかし、生き物は入れる事が出来ない。では、人間の死体はどうだろうか? 魔物や動物の死体は入れられるので入るのでは無いだろうか。しかし、今までそんな事をしたことが無いので分からない。
「もし、入らなかったらあの鎧を死体から脱がさないと行けないのか。それはそれで面倒だね。重そうだったし……。まあ、今回はレイルズさんに任せたし気にしないようにしよう」
鎧の事を忘れてその日は町で行われた宴に参加して、そのままファールン王国へと向かった。全員は町の宿に泊まる事が出来なかった為である。
僕は久しぶりにマルンへと帰って来た。そして、家に帰ったとき、僕は驚愕するのだった。