第172話
土の壁に隠れてこの後のハイエルフ達の動きに注意する。すると、魔法を使う声が聞こえてきた。
「《地魔法アーススパイク》」
僕は魔法が唱えられた時には地面を蹴り土の壁の上へと登る。すると、先程までいた場所に土の槍が現れる。僕の作った土の壁からは生み出せなかった様だった。
(まあ、僕の魔力を超えてないと干渉は無理だし。ソルテール様、ありがとうございます)
ソルテール様の加護によって僕の魔力は上がっている。そのお陰で僕の魔力はハイエルフ族よりも多くなっているようだった。
「《風魔法ウィンドカッター》」
僕が土の壁の上に立つと今度は風の刃が襲ってくる。風の刃は無色では無く、緑色をしているのでどのように来るのかが分かる。風の刃は僕の前方と左右から襲ってきた。
「《風魔法ウィンドシールド》」
風の盾を作り出す。この風の盾は三十秒ほどであるが僕の周りを廻るように壁を作り出す。そして、向かって来ていた風の刃を逸らしたのだった。僕はもう一度、壁の内側に飛び降りる。
(一人だと、結構面倒だ。最近はパーティー戦が普通だったからな。まあ、だからといって僕の有利は変わらないけどね)
僕は魔法袋からアースドラゴンとベへモスの魔石を取り出す。
「これ以上やるなら、このハイエルフの村は無くなっちゃうけど良いのかな?」
「其方こそ、防戦一方では無いか。これだけのハイエルフ族を相手に勝てると思っておるのか!」
「もちろん、勝てると思っているけどね。《神魔法インカネーション》」
僕は魔法を唱えると魔石が輝きだした。
「む、なんじゃ?」
長老や他のハイエルフ達が聞いたことが無い魔法を聞き、呆気に取られる。
光が収まるとそこには死の森にいるアースドラゴンとベへモスが現れた。
「魔物を召喚したじゃと?」
ハイエルフ達がざわめく。僕は微笑みながら言う。
「別に召喚したわけじゃ無いよ。これはフォルティナ様の力を借りて顕現させているだけ」
「フォルティナ様の力を借りて顕現じゃと、そんな事は不可能じゃ。其方、その力を一体何処で……」
「もちろん、死の森でだよ。あそこには試練のダンジョンがあるから。そこで、僕はフォルティナ様の加護を授かったんだ。さあ、アースドラゴンとベへモスよ、あそこのハイエルフを蹴散らしてしまえ!」
僕の言葉にアースドラゴンは吠える。ベへモスはゆっくりと口を開ける。それは人によっては欠伸をしているように見えるだろう。しかし、それはベへモスの攻撃するための動きである。
ベへモスが口を開けて動きを止めると、その顔が霞んだ。その顔がまた現れると口は閉じられ、その口からハイエルフと思われる者の足が飛び出してた。その光景にハイエルフ達が驚きで目を疑う。
「お、おい、さ、さっきまでいた、サイラスの姿がな、無いんだが、あの足はサイラスのじゃ……」
「ま、まさか、あれはベへモスか。目にも停まらぬ速さで捕食するという伝説級の魔物じゃないか」
ベへモスの攻撃に驚いている中で今度はアースドラゴンが大きく息を吸い込んだ。それを見たハイエルフ達は急いで壁の向こう側へと隠れる。しかし、アースドラゴンが吐いたブレスによって魔法で作られた壁は簡単に壊されたのだ。
「うん、流石にベへモスやアースドラゴンじゃあ、相手にならなかったか。基本的に村の近くにでる動物相手の狩りしかしてないからハイエルフって弱いんだよね。魔力はあるから魔法の威力はあるけど、力は弱くて状況判断力も低い。さて、どうするのかな? このまま全滅するまで戦うなんて事は無いと思うけど」
ベへモスとアースドラゴンの二体を顕現したことにより一方的な戦いになり始めていた。ハイエルフは状況を好転させようと魔法で攻撃しているが、その攻撃はベへモスとアースドラゴンにはかすり傷程度しか与えられていなかった。
「長老、このままだと……」
「長老……」
ハイエルフ達が長老に語りかける。このままでは全滅どころか村が滅ぶと言っているのだ。
「う、うむ、仕方が無い。仕方が無いが、フレイがそれを許してくれるか。戦いを挑んだのはこちら側じゃ」
ハイエルフはベへモスとアースドラゴンの攻撃を壁を作り続ける事で何とか防いでいた。ハイエルフの攻撃は意味は余りなく。姿を見せればベへモスによって食べられてしまう。そのために、防ぐことしか出来なくなっていた。長老がセイルの方へと顔を向ける。それにセイルが頷いた。
「フ、フレイ、すまないがこいつらの攻撃を中止してくれ」
叔父であるセイルが攻撃をやめるように言ってきた。
「ベへモス、アースドラゴン、攻撃中止、そのまま待機」
僕が命令するとベへモスもアースドラゴンも動きを止めた。
それを確認して、長老と叔父が壁の向こうから姿を現してきた。そして、長老と叔父が揃って土下座をする。
「虫が良いのは重々承知している。其方の要求は受け入れるのでここで手打ちにしてほしい。もし、それでも許せないのなら儂の命だけで許して欲しい。其方を殺すようにセイルに命じたのは儂なのじゃから」
「長老、それを受け入れて殺そうとしたのは自分です。長老の命令だけでは無く、妹の為と思い、自分の意思でフレイを殺そうとしたのです。だから、フレイ殺すなら私にしろ。いや、してほしい。頼む」
長老と叔父が自分を殺すように言ってくる。
「別に命なんかいりませんよ。僕は、ただ母に聞きたいことがあるから来ただけですから」
「そ、そうか、分かった。では、長老の家にセリシャを連れて行く。だから、長老の家で待っておいて欲しい」
「分かりました」
僕は長老と叔父と一緒に村へと入る。それを、他のハイエルフ達は苦々しい表情で見送る。長老が負けを認めて村に入れる事を決めたのでハイエルフ達は手を出して来なかった。
「所で、フレイ、その今でも、疑問なんだが、どうやってマインドクラッシュを防いだんだ? 魔法は確かに効果を及ぼしたはず」
叔父はどうしてマインドクラッシュを受けても無事でいられるのか不思議で仕方が無いみたいだった。
「ああ、確かにマインドクラッシュによって僕の心は壊れましたよ。けど、それはもう一人の自分ですけどね」
「もう一人の自分だと?」
「ええ、誰にも知られないように隠していましたけどね。実は僕の中にはもう一人の自分がいたんですよ。昼間はもう一人の自分に任せていました。マインドクラッシュを受けた時に僕の意識は強制的に表に出させられましたけどね」
「そ、そうか。それはすまなかったな」
叔父はよく分からないみたいだった。もう一つの人格があるというのは普通は無いので分からなくても仕方が無い。叔父との会話を見て今なら話せると思ったのか長老が話しかけてきた。
「所で、其方はフォルティナ様の加護を授かっておるのじゃったか?」
「ええ、そうですね。僕の持っている剣も神具ですし」
「そ、そうじゃったのか。その加護は何処で授けられたんじゃ? 神の加護は試練のダンジョンでしか授けられぬ事は知っておる」
「僕は死の森の中心にある試練のダンジョンで神の加護を授けられましたよ。だから、叔父には逆に感謝の気持ちもありますよ。死の森に落として貰えないと試練のダンジョンにも行けませんでしたから」
「死の森に中心……か」
長老の家に着くと叔父は母を呼びに行った。
(さてさて、母は僕の姿を見て正気を保ってくれるかな。それだけが心配だね)
僕は長老宅で出されたお茶を飲みながら母が来るのを待つのだった。