第170話
盗賊団に襲われた町からベルン伯爵領へと向かう。途中、オルベルク領の中心都市を通った。最後は住民が反乱を起こし自由都市にするのだと叫んでいたが今では新しく領主となった貴族の元で平穏に暮らしているようだった。
町の宿屋にある食堂で話を聞くと、今度来た貴族はセルシュ公国の中央で法衣貴族をしていた者で、内政官としての実力も認められていた。そのために、空白となったこの地を与えられたらしい。そして、その貴族は驚くほど真面目でバルドラント王国の貴族とは違い無茶な要求も女性達を襲うようなこともないとの事だった。
しかし、内政官としては優秀なのだが、盗賊団の対処に関しては後手後手に回ってしまっている事が領内の民に不満にはなっているらしい。貴族の方も何とか手を打とうとしているのだが周りの貴族は元バルドラント王国の者ばかりで協力をしようともしない。逆に邪魔をしてくるとのことだった。
セルシュ大公に連絡を入れても、盗賊団の規模が大きくなりすぎていて手が出しにくくなっているらしい。下手に部隊を動かしてたら、不満に思っている元バルドラント王国の貴族が反乱を起こすかも知れないので動けないのだ。
「つい先日に盗賊団のリーダーが死んだらしいけどな。それで、いなくなれば良いが無理だろうな。誰か、早くその盗賊団を潰して欲しいぜ」
そんな事を言いながら冒険者だというその男は酒を飲んでいた。
他の客に聞いたところ、以前にその盗賊団に、護衛していた商人を殺されたので恨みがあるらしい。
そんな愚痴を行く町々で聞きながらベルン伯爵領を進んで行く。そして、死の森を出て初めてお世話になったガウン村に到着する。
記憶を頼りにたどり着いたガウン村はすでに無くなっていた。村を覆っていた木の柵位がそこに村があったことを教えてくれる。その村の中に入る。村はすでに草が生い茂っていた。しかし、所々に人と思われる骨が転がっていた。
「これは、滅ぼされたって事かな。そう言えば、領主が僕の事を他国のスパイとか言っていたよね。もしかして、その事が関係している? そういえば、アンソニーさんも最後の方は何か僕との接し方がおかしかった。誰かに僕がスパイだと言われたのかな? 村の人は全滅した? それとも少しは逃げ出したのかな?」
流石に建物も無いのでここにはすでに住んでいないだろう。それでも、世話になった村がこんな事になっているのには胸が痛む。そこで、人骨を集めて簡単ではあるがお墓を作る事にした。人骨は村にいた人数よりも明らかに少なかったので逃げた人がいたことに少し安堵する。
「もしかして、フレイじゃないのか?」
墓を作り終えてガウン村を出ようとしたところで声をかけられた。そちらの方へ振り向くとそこにはお世話になったアンソニーがいた。
「アンソニーさんお久しぶりですね」
「ああ、フレイも元気そうだな。代官がフレイは他国のスパイだとか言っていたからな。すでに殺されているのかと思っていた」
「町を出て直ぐに貴族の人にそんな事言われましたね。でも、『違います』とはっきり言いましたので大丈夫ですよ」
「それ位で貴族が許すとは思わないんだがな」
実際はその貴族と兵は殺しているのだが、その事はアンソニーには言わなかった。
「それで、この村なんだが、代官の兵にやられたんだ。フレイと分かれてから村に戻って来て数日したら奴らがやって来た。フレイがスパイだと確定したと言っていたな。それで、そのスパイを匿っていたとして村人を全員捕まえようとしやがった。俺や他の男達で女や子供を逃がす時間稼ぎをして、かなり逃がしたんだがな。村長を始め老人達は逃げずに戦って皆死んじまった。俺は村長に言われて途中で女子供の護衛の為に逃がされたんだ」
「それで、逃げた人達はどうなったんですか? 他の村に行っても歓迎されないと思いますが」
他国のスパイを匿った村の村民等、面倒ごとにしかならない。そんな村民を他の村が受け入れるとは思えなかった。
「ああ、このベルン伯爵領の隣にある村に世話になっている。住民として受け入れて貰っているな。どうやら、フレイが他国のスパイだとか言っていたのはベルン伯爵だけらしくてな。その村ではそんな話聞いたことなど無いと言っていたそれで、受け入れられたんだ。それよりも、フレイは冒険者としてはどうなんだ。生活できているのか?」
「十分生活できていますよ。今はファールン王国にあるマルンという都市に家を買っています。今回はちょっと、里帰りの為にここに寄ったのです」
「そうか、都市に家を買えるぐらいの冒険者になっているんだな。冒険者は宿暮らしがほとんどだと聞いたことがある。それに比べてフレイは凄いんだな。その年齢で家まで買っているなんてな。ということはもう奥さんがいるのか」
「そうですね。何人かいますよ」
「マジか、それだけ儲けているってわけか。金持ちは複数の奥さんを持つのが普通らしいからな。フレイはそれだけ稼いでいるんだな。羨ましい……」
最後の言葉は小声だったので僕には聞こえなかった。
「さて、それでは僕はここで失礼しますね。この後、森の奥に行かないといけないので」
「そうか、でも無理はするなよ。奥さんを貰ったなら勝手に死ぬことは許されないぞ」
「分かっていますよ」
そして、アンソニーと分かれて森の奥へと入って行く。
途中で魔物を倒しながら死の森を見下ろせる崖の上へとやって来た。
「さて、たどり着いてから気付いたけど、ここから降りるのは古代文明の時代の人が作っていた道があるけど、反対側の崖にはどうやって登ればいいんだろう?」
最初の時は叔父から突き落とされた。今度は登らないといけないのだが、崖をゆっくり登っていてはグリフォンに見つかって襲われるだろう。
「地魔法で足場を作りながら進むしかないかな。時間がかかりそうだなあ」
仕方が無いと、道を進んでいく。そして、途中でベへモス、アースドラゴン等を倒しながら反対側の崖へと到着した。魔法で足場を作る前に何処かに道がないか探ってみる。以前、塩水が出ていた洞穴に行ってみたが上へと続くような道はなかった。
「仕方ない。《地魔法グランドコントロール》」
僕が魔法を唱えると地面が盛り上がり大きな山が崖に添うように出来上がった。
「あ、ダメ、これは思った以上に魔力消費量が多い。一週間ぐらいかけて作らないときつい」
それから一週間かけて崖の上へと続く山を作り上げた。そして、崖の上へとたどり着いた。
「さて、お母さんは僕の姿を見て正気を保っていられるかな? 保ってくれていないと話を聞けないんだけど。それよりも、村には許可が無い者は入れない結界があったような気がするけど、僕はまだ許可はあるのかな?」
ハイエルフの村は人に見つからないように森の結界と言われる守りがある。許可が有る者ならば大丈夫なのだが、無い者が入ろうとしても同じような景色と道で惑わせ、迷わせる。そうして、同じ所を廻って結局は村へとたどり着けないのだ。その結界のお陰で今まで一千年以上人間を近づくのを防いでいた。僕が村に住んでいたときは許可があったので大丈夫だったのだが、今はどうなっているのか分からない。
「それでも、ここまで来たんだから行くしかないよね」
僕はハイエルフの村へと続く森の中へと足を踏み入れるのだった。