第169話
盗賊が去った後の町はかなりのお祭り騒ぎになっていた。盗賊団は町を襲った後には瓦礫しか残らないと言われていたからである。怪我を負っていた自警団の団長と思われる人が人に支えられながら僕の所にやって来た。
「先程、町の住人に聞いたんだが、お前さんが盗賊団のリーダーをやったんだってな。ありがとう、助かった。お陰でこの町は救われた」
団長と自警団の人に頭を下げられる。
「門も閉めたとのことだし、今宵はもう大丈夫だろう。明日になれば代官様よりお礼と謝礼が特別に渡されると思う。なので、今日は宿に戻ってゆっくり休んで欲しい」
団長に言われて、僕は宿へと向かう。幸い、宿は盗賊達の被害を受けていなかった。宿に残っていた商人の護衛達が、やって来た盗賊達を撃退していたらしい。
「おお、お客さん、大活躍だったらしいですな。町の中ですでに噂になっておりますよ」
「噂になるの早いですね」
「まあ、町とはいえ中心都市のように広いわけではないですからな。噂は早く広がります。良い噂も、悪い噂もね。どうやら、町の自警団の中に盗賊の仲間が潜んでいたらしいですな。そいつらが門を開けたみたいです。町の中に盗賊が入ってきたときにもうダメかと思いますが、一斉に引いていきましたからな。その時に、お客様が盗賊団のリーダーを倒されたんでしょう。最初にも言いましたが宿代はお返しします。それと、明日の朝食代金も無料にします」
「いいのですか?」
僕は驚いて聞くと。
「もちろんです。お客様がいなかったら私も他のお客様も盗賊に殺されていたでしょう。命の恩人なのですからそれ位はさせて下さい」
そう言われては僕も断ることは出来ないので、宿の主人の言ったようにお金を返して貰い、部屋で休む事にした。
次の日になると、自警団の団長が僕の泊まっている宿へやって来た。
「ああ、すまない。改めて礼をさせてくれ、昨日は本当に助かった。あの後、自警団がずっと見回っていたが盗賊は来ることはなかったそうだ。まあ、俺は怪我をしてしまったので休まされたがな。そんな事よりこれから代官のところに行こうと思うんだがいいか?」
「はい、大丈夫です。」
そして、団長と一緒に代官の屋敷へと向かう。代官の屋敷は町の中心にある。話によると、代官を警護する部隊が町の中で盗賊と戦っていたので、町の住民には被害はなかったらしい。
町の代官の書斎へと案内された。代官はしていた書類仕事を辞めて僕の方へと向かって来る。
「貴殿があの盗賊団のリーダーを仕留めたという冒険者か。ありがとう、この街の代表として礼を言わせて頂きたい。貴殿のお陰でこの街の被害は最小限で抑えられた」
町の代官が一冒険者の僕に頭を下げた。代官はこの地域を治める貴族からこの町の統治の為に派遣されている者である。町の住民にとっては貴族に等しい位の者だ。そんな代官が頭を下げたのだ。それに慌てたのが自警団の団長だった。
「代官様、軽々しく頭を下げるのはやめて下さい。伯爵に知られたら解任されますよ」
団長が近寄って頭を下げるのをやめさせようとしたのを代官は手でせいする。
「今回の盗賊団の襲撃で、町は壊滅的な被害が出ていたのかもしれない。それなのに町の代表の私がそれを止めてくれた英雄に頭を下げないなど、人としてもダメであろう。本当にありがとう。報酬はもちろん色を付けてギルドに渡してある。ギルドで受け取って欲しい」
「分かりました」
「それで、貴殿は冒険者だと言っていたな。しばらく、この町にいて欲しいとは思うのだが、どうだろう? 盗賊達もまたリーダーを代えて動き出すだろう。貴殿がいてくれたら、また襲ってきたとしても撃退できるとは思うのだが」
「すいません、元々行く場所があって、そこに向かうために寄っただけですので。それに、早くそこに行って家に帰らないと、待っている家族もいますから」
僕の言葉に代官は少し悲しそうな顔をするが直ぐに笑顔になる。
「いや、そうだな。その通りだ。冒険者だものな。いや、すまない。今のは忘れてくれ。何、これまでも大丈夫だったんだ。これからも大丈夫さ。団長、分かっているとは思うが今一度自警団の者を調査してくれ」
「分かっています」
「うむ、それでは私はまだ仕事があるので、今回は本当に助かった。ありがとう」
「いえ、それでは、失礼します」
僕と団長は代官の書斎を出る。
「そう言えば、自警団に盗賊団の仲間がいたと聞いたんですけど」
「ああ、それか、確かにいたな。そのせいで門が開けられたからな。どうも三人程いたらしいな。そのせいで北門以外を開けられたからな。ただ、その三人は一月前にこの町に住み始めた奴でな。今回の事から一年以上住んだ者の中からしか自警団には入れないことになったな」
「盗賊団はどうしてこの町を狙ったんでしょう?」
「その理由には心当たりがあるな。この辺は昔オルベルク子爵って奴が治めていたんだ。そいつが話によるとエルフの集団に襲われたらしくてな、それで死んだんだ。で、代わりにセルシュ公国の貴族が新しく任命されてここを治めたんだ。でも、それを快く思わないのが元バルドラント王国の貴族だな。いまじゃあ、セルシュ公国に併合されているっていうのに不満があるらしい。だからといって面と向かってセルシュ大公には言えないだろうがな。盗賊団に襲われる町はこの領と元々セルシュ公国の貴族が治めていた領の町だけなのさ。元バルドラント王国の貴族の領地の町は襲われていない。村は関係無いみたいだけどな。そうなると関係があると思うだろう?」
どうやら、盗賊団は襲う町もある程度決まっているらしい。団長が言うには裏には元バルドラント王国の公爵がいるんじゃ無いかとの話だった。盗賊団は噂ではバルドラント王国の貴族の子飼いの私兵が解雇された為に出来たという話だったが、団長の話を聞くと元バルドラント王国の貴族が裏で糸を引いているように思えた。
「その盗賊団、かなりしぶとそうですね」
「そうだな。また襲ってくるかもしれないな。その前に自警団を鍛えるとするさ。さて、今回は本当に助かった。代官様じゃないがこのままこの町にいてくれると助かるがそうはいかないだろうな。それじゃあ、お前さんの冒険の無事を祈っている」
団長に挨拶をして代官の屋敷を出る。そして、その足でギルドへと向かう。ギルドで今回の報酬を受け取るとそのまま町を出る事にした。今回の盗賊団のリーダーは懸賞金が出ていたらしい。今回は町の防衛の依頼で受けたときに達成になったのでお金は町と僕との半分ずつ貰えたのだが、その報奨金は町に寄付することにした。報酬が思ったよりも良かったので盗賊に掛っていた懸賞金は町に寄付することにした。
「さて、ベルン伯爵領に行かないとね。あれ、そう言えば、ベルン伯爵って僕が殺したような? まあ、大丈夫と思って行くか。せっかくだからガウン村に寄ってから死の森かな」
そして、ベルン伯爵領に向かって僕は走り出すのだった。