第166話
マルンに戻ってからメイア達に王都に行ってからのことの報告する。
「それで、こちらの魚醤を買われたのですね。癖のある感じですが、隠し味などに使ってみると良さそうですね。セシリアさんが教えてくれた魚料理の他にも肉料理にも使えるかもしれませんね」
メイアは聖霊のダンジョンでは無く海辺の街で手に入れた魚醤の方が気になったらしい。
「旦那様は凄いですね。聖霊のダンジョンは昔行ったことがありますが十層迄しかいけませんでしたから。聖霊のダンジョンには精霊様がいらっしゃったのですよね? どのような姿をしているのでしょうか?」
アンナは元々冒険者をしていたので聖霊のダンジョンが気になったらしい。
「ファールン王国の聖霊のダンジョンでは二つの頭を持つ大きな犬がいたね。あれは犬というよりも狼だったのかな? 名前はオルトロス様て言っていたね」
「バルドラント王国の聖霊ダンジョンにいたのは大きな狼のフェンリル様だったんだよね」
「フィーナさんも精霊のダンジョンに行っているのですか!?」
「もちろん言っているよ。私は冒険者でお兄ちゃんのパーティーメンバーだからね。それに、私の使っている武器は聖武具のグングニルだよ」
フィーナの言葉にアンナは驚く。
「それって、バルドラント王国の所有していた聖武具ですよね。どうして、フィーナさんが持っているのですか?」
「バルドラント王国が滅んだのは知っているよね?」
「はい、メイアさんに教えて貰いました。すでにバルドラント王国が滅んでいるということを。町の人にも聞きましたらすでにバルドラント王国の王都も制圧していると聞いています」
「バルドラント王国が滅んだ原因が僕達だということだよ。その時に聖武具も貰ったというわけだね。精霊のダンジョンを攻略していたから使えるし」
「その聖武具を使うのは何故フィーナさんなのですか? カルラさんは前衛で皆を守るので強い武器を持った方が良いような気がしますが……」
アンナは前衛として一番敵と相対するカルラが持った方が良いのではと聞いてくる。アンナは元冒険者だったので前で皆の盾役をこなす者が大事なのを分かっているのだろう。
「まあ、槍の扱いに関してはあたいよりもフィーナの方が上手いからね。あたいは剣でずっと戦って来たからそっちの方がいいかな。あたいの剣もミスリルだから弱くはないし。まあご主人のお下がりだけどさ」
カルラがアンナに聖武具を使ってない理由を説明する。
「ミスリルの武器ですか。それは凄いですね。冒険者にとって憧れですよね。私も欲しかったですけど高すぎて手に届きませんでした」
「あたいもそうだったよ。やっぱり冒険者にとっては憧れの武器だよね。結局、買うだけのお金はあたいも稼げなかったけどね」
「そういえば、ミスリル製の武器ってどれくらいの値段がするの?」
「「家が買えるね(買えます)」」
ミスリル製の武器は家が買えるぐらいの値段がするという。いや、買える冒険者の方が少なくないかな?
「冒険者だったら一流の人ぐらいしか買えないね」
「だからこそ憧れの武器なんですよ。まあ、生活もしなければならないのでお金は貯まりませんでしたけどね。しかも、戦いで判断を間違えて片腕を無くしてしまって、結局奴隷になってしまいました」
「でも、ご主人と出会えたのは良かったんじゃない。腕も治ったことだし、住むところもお世話して貰えるし」
「そうですね。ご主人様にはとても感謝しています」
アンナとカルラは二人して僕に出会えた事を喜び合い、他の皆もうなずき合うのだった。
「ところで、これからの事を決めようと思うけどいい?」
「はい、大丈夫です」
「僕は一人で母親のところに行ってくるから。帰ってくるのにどれくらい掛るか分からない。まあ、二、三ヶ月以内に戻ってくる予定でいる」
「私達は一緒に行かなくてもいいのですか?」
「死の森が何処にあるか分かってる? 崖の下だよ。そこから反対側の帝国がある方の崖を上らないといけないんだけど、セシリアはまだ大丈夫かもしれないけどカルラ達には無理だと思う」
「行き方はその方法なんですね」
セシリアが頭を抱えた。メイア達は死の森に行くという僕に驚いて絶句していた。
「僕は死の森でかなり長いこと生活していたからね。それこそ、僕の神剣はその死の森にあるダンジョンで手に入れた物だから」
「旦那様は本当に何者なんでしょうか? フォルティナ様の使徒と言われても、今では納得してしまいます」
「お兄ちゃん、それで私達はどうすればいいの? マルンのダンジョンに行けばいい?」
「セシリア達はマルンのダンジョンを二〇階層迄なら行っていいよ。ただし、行くなら皆でね。流石に一人で行くことはしないようにね。後、フィーナはメイアに仕事を教えて貰うようにね。料理や洗濯などの家事を一通り熟せるようになっておくこと。あ、ファルナも一緒に習っておくようにね」
「うぇ、私が料理を作るの? 今までそんな事したことないよぅ」
心底嫌そうにフィーナが言う。
「一応、マリアがいたときに教えて貰うようには言っておいたはずなんだけどね。まあ、教えて貰ってないだろうなというのは分かってたけど。でも、今回はファルナと一緒に習っておくようにね。僕が帰ってくるまでに何かしら作れるようにしておくこと」
「フィーナ、ご主人様も料理を作れますからね。初めての時はご主人様が私にスープを作ってくれましたから」
セシリアを奴隷商から買った時に直ぐに街を出て野営をした。その時に料理を作ったのは僕だったので、その時のことを言ったのだろう。
「冒険者なら野営もあるし、料理は作れるようになっておいた方がいいよ。あたいも作れないわけじゃない。まあ、大雑把な味とは言われるけどね」
「分かりました。それではフィーナさん私と勝負ですね。私も作ったことがありませんので一緒ですよ」
ファルナがフィーナに向かって言う。
「うぅ、頑張る。作って見る」
フィーナは嫌そうにしながらも作る事を決める。
「というわけで、メイアには悪いけどフィーナとファルナに色々と教えて欲しい。今までやってこなかったから要領は悪いかもしれないけどそこは我慢してあげて、アンナ達もフィーナ達に教えてあげてね」
「分かりました」
メイア達が揃って言う。
「ダンジョンは無理して行かなくてもいいからね。セシリアには後で魔石を渡すからそれがあれば一年は過ごせると思う。それじゃあ、明日からはそういうことでお願いね」
その夜にセシリアに部屋に来て貰い残っていたドラゴンの魔石を全て渡しておく。
「ご主人様、これはそのどうすればよいのでしょうか?」
「もし僕が戻ってくるのが遅くなったら、それを売って生活資金にして欲しい。直ぐに戻ってくるつもりだけど、どうなるか分からないからね」
「もしラントさんが売って欲しいと言ってきたときはどうしますか?」
「その時は売っちゃって良いよ。裁量は全てセシリアに任せるから」
「分かりました。お預かりします。それではご主人様お休みなさいませ」
セシリアが部屋を出ようとするが、僕はその手をそっと握るのだった。
「えっ」
セシリアは驚いて僕の顔を見た。
「しばらく会えなくなるから」
僕は驚くセシリアを優しく抱き寄せる。そして、そっとキスをするのだった。