第160話
ラント達と食事をした次の日、セシリア達と今後の予定を決めるために食堂に集まる。
「一ヶ月後のラントとシルビアの結婚を祝う宴に参加するために、王都に残ることになったんだけど、どうしようか。流石に精霊のダンジョンはもう行かなくてもいいかなって思ってる。王都の冒険者も戻ってきたみたいだからこれからはトロール等の魔石も入るだろうからね」
「この王都の近くに他のダンジョンは無いのですか?」
「この王都には後は生活用の塩が出るダンジョンがありますがそちらは商人専用で冒険者は入らないように言われておりますね」
セシリアの質問にファルナが答えてくれる。
「ああ、それとメイア達に帰るのが思った以上に遅くなることを伝えないとね。誰か帰らないといけないかな?」
「それだったら手紙を冒険者ギルドにお願いしたらいいじゃないかな。マルンの冒険者ギルドに家の住所は教えてあるから届くよ。その日暮らしの宿生活なら無理だけど、ちゃんとギルドに住所を届けていたら届けて貰えるんだよ。あたいも昔は家族に手紙を送ってたことがあるよ。まあ、奴隷になっちまってからは送らなくなってしまったけどね」
カルラが冒険者ギルドには住所がはっきりしている相手に対しては手紙を届けるサービスをしていることを教えてくれた。
「そういったサービスがあることを知らなかったな。今までは手紙を送る相手なんて居なかったからね。じゃあ、冒険者ギルドでメイア達に手紙は送っておこう」
「他には何をするのお兄ちゃん? ダンジョンには行かないんだよね?」
「そうだね、この王都の近くで楽しめるような場所ってあるのかな? 後は景色が綺麗な場所とか?」
「そうですね、私も聞いただけで行ったことが無いのですが、王都より西に三日ほど行ったところに海があるらしく、貴族等がバカンスによく行くそうです。ただ、命がけでもあるそうですが……」
「何で命がけなの?」
「海には魚だけで無く、魔物もいますから。ただ、その海の魔物も美味しいらしいですね。貴族は見栄を重要視しまして、そんな魔物がいる海で泳いだり、海の魔物を食べたりするのは強さの象徴にもなるみたいです。このファールン王国の貴族は強さも求められていますから」
「王族が前線で武器を振るうから、貴族も同じように前線で振るうのが当たり前になっているんだね。で、そのためには強さが必要であり、その強さの証明に使われているわけだね。面白そうだし行ってみようか。海の魚やその魔物も食べられるお店などもあるだろうし」
そして、宿に一ヶ月分の料金を払った上でギルドに行きメイア達への手紙を送って貰う。
「宿代を一ヶ月分払っているのは何か理由があるのですか?」
貴族達のバカンス地があるという場所に向かっているときにセシリアが聞いてきた。
「ラントの宴の詳細を届けて貰う必要があるからね。流石に宿代も払っていない様な客の手紙なんて残しておかないと思ったんだよ」
「なるほど」
三日かけてファルナの言っていた貴族達もバカンスに来るという海辺へと到着する。そこは白い砂浜が広がっており、海辺から少し離れた所にかなり大きな街があった。
「帝国はこの海から攻め込んでは来なかったのかな?」
砂浜が広がっているが船でもあれば帝国からも来ることは可能であろう。それなのに、町の人に聞いた話ではここに帝国の兵が来たという話は聞かなかった。
「フレイ様、海は繋がっておりますが海には魔物がいます。特に海岸から離れた所ではかなり大きく凶暴な蛇みたいな魔物が出ると聞きます。帝国からこちらに来るにもその魔物の領域まで来ないと無理らしいので海からは攻めてこないんですよ」
「へえ、手前ならそれ程強い魔物はいないのかな? ダンジョンで出て来たスピードアリゲーターみたいなのは居るのかな?」
「ご主人様、スピードアリゲーターは川に出てくる魔物ですから海には出てこないですよ。それよりも、ここには休むために来たのですから魔物の話はしなくてもいいのではないですか?」
「いや、まあ、そうだね。確かにそうだね。それじゃあ、せっかくだから宿を取って美味しい物を見つけに行こうか」
宿を取り町を散策する。海辺の町である為に他の町と違い魚が多かった。
「これは、何て魚ですか?」
「これはイワシだね。焼いて食べるのが一般的かな。塩とかでもいいんだがこの町にある魚醤を試して見てくれよ。人によって好みは分かれるんだがな。お貴族様の中には気に入って買い込んでいく方もいるんだぜ」
「なるほど、魚醤ですか。それは試してみようと思います。それでは、このイワシという魚と、こちらの魚は何ですか?」
「これはアジだな。こっちも塩振って焼いて食べたら上手いぞ」
「それでは、このアジも下さい」
セシリアが店主に聞きながら魚を買う。
「ご主人様、魚醤を売っているお店に行ってみたいのですが」
セシリアが店主に聞いた魚醤を見たいと言ってくるので皆でその魚醤を扱っているお店へと向かう。その店は干した魚などを売っていて、その中で魚醤も売っていた。
「いらっしゃい、魚醤が欲しいのかい。それなら、こっちの棚に並んでいるのがそうだよ」
「いくつか種類があるんですね」
「ああ、魚醤は魚を塩等と一緒につけ込んで発酵させた物でね。つけ込んだ魚の種類によって風味や味が変わる。味見してみて気に入ったのがあったら買ってくれよ」
店主が店にあるいくつかの魚醤を小皿にとって渡してくれる。それを皆で味見をして気に入った物を二種類購入した。
その夜に宿の厨房を借りる。そして、セシリアが宿の主人に教わりながら魚料理を作ってくれた。イワシを買ってきた魚醤使って作った煮付けというのは美味しかった。
「いくつか新しい調理方法を教えて貰いましたので、家に帰っても出来ます。しかし、マルンでは魚醤は売っていないみたいなので、明日にでも買い足しておきたいですね」
「どうして、マルンでは売ってないんだろうね?」
「余り日持ちがしないみたいです。魔法袋があるのでマルンでも持って行くことは出来ますが、何分癖があるために売れるか分からないので商人も取り扱わないみたいですね。それに、貴族が買っていくので無理にマルンまで売りに行く必要が無いのでしょう」
「今は違うけど、マルンはファールン王国の一番端にある町だったからね。行くまでにかなり日にちもかかるし、売れるかどうか分からないものね。しかも、貴族が買ってくれんだから無理に遠くまで行って売る必要はないか。残念だね」
「買ってくれる人が居るなら商人も届けてくれるとは思うぞ。まあ、輸送代も掛るからここで買った値段というわけにもいかないけどな」
宿の主人が僕達の話を聞いていてそういうこと言ってきた。聞くと、マルンからも商人は来ているらしく、魚醤は買っていっているというのだ。ただし、その商人は自分で使うために買っているのでマルンでは売ってはいないらしい。
「ああ、今日はマルンからの商人が来ていたな。ほら、あそこで食事をしている人だ」
そこにはマルンで武器屋の店員をしていたライトが食事を取っていた。