第152話
朝、起きて食事を取ってから冒険者ギルドへと向かう。冒険者ギルドは朝なのに余り人が居なかった。話を聞くと、国の依頼により帝国に一番近い砦に派遣されているらしい。しかし、帝国も前回の魔道具の攻撃でかなりの痛手を受けているために今のところ、一度も姿を見せてはいないとの事だった。
「国からの依頼で半年間、冒険者の人達に協力して欲しいとの事だったんです。それ以降は各領地から集めた兵達を当てるそうです。今はその兵達を訓練中らしいですね。それで、王城の方からは連絡はありましたか?」
「はい、昨日のうちに連絡があり、答えをもらっています」
僕の言葉を聞き受け付けのお姉さんが嬉しそうな顔をする。
「冒険者の方の先触れでは無視されることも多いですからね。最近は第二王子の反乱もあって王城側も慎重になっていたと思うので良かったです。それで本日はどういった事でしょうか?」
「聖霊のダンジョンに向かおうと思っていまして、その報告です」
「聖霊のダンジョンですか? どのくらいの階層迄行かれる予定ですか?」
「そうですね、最後の二十階層迄行こうかなと思っています」
僕の言葉に受け付けのお姉さんが驚き疑いの目を向けてくる。
「攻略されるのですか? 確かに二つの冒険者パーティーが攻略しています。それを、昨日来られた冒険者の皆さんが攻略出来るとは思わないのですが」
「大丈夫ですよ。これでも、バルドラント王国の聖霊のダンジョンを攻略していますから」
受け付けのお姉さんがさらに驚いた顔をした。
「えっ、バルドラントの聖霊のダンジョンはここのよりも強い魔物が出ると聞きましたよ。それを攻略したんですか。あ、まあ、確かにそれならここのダンジョンも攻略出来るかも……」
「ところで、ここの聖霊のダンジョンを攻略した二つのパーティーの内一つはラントっていう人がリーダーでした?」
「ラントですか? いえ、違いますね。パーティーの一つはカインさんがリーダーの“王国の翼“、もう一つがシャイナさんがリーダーの“天女の鉄槌”という女性だけのパーティーですね。どちらも、Aランクの冒険者パーティーですね。今は砦の方に行っていますので王都には居ませんけどね」
「そうなんですね」
シルビアが聖霊のダンジョンは王族の男なら必ず行かされると言っていた。その時も聖武具を持つ皇太子等と一緒に行っていたみたいなのでパーティーでは行っていなかったんだろう。
「それで、えっと、お願いがあるんですけど、聞いて貰えますか?」
受け付けのお姉さんが恐る恐る聞いてくる。
「内容に寄りますけど、どういった事でしょうか?」
「はい、実は王城の方から入っている依頼がありまして、聖霊のダンジョンの十五階層から二十階層に出てくる魔物の魔石の買い取るという物があります。しかし、今はそこまで行ける冒険者が砦に向かってしまっているので納品が出来ていないんですよ。王城の方は戦争のことがあったので何時でも良いとは言っていただいていますけど、それでも、ギルドのプライドもありまして一ヶ月以上納品できていないというのはそれはそれで問題なんです」
「なるほど、分かりました。では、いくつかは僕も欲しいのでそれ以外はギルドに卸させてもらいますね」
「ありがとうございます。本当に助かります」
そして、僕達は冒険者ギルドを出て聖霊のダンジョンへと向かう。
15階層迄は問題なく進むことが出来た。出てくる魔物もバルドラント王国の聖霊のダンジョンとそう変わることは無かった。ただ、違ったのは十五階層のボスだった。十五階層のボスの部屋にいたのはハイオーガを引き連れたオーガキングだった。
「じゃあ、オーガキングが僕がやろうかな」
「お兄ちゃん、たまには私にさせて欲しいんだけど、初めて見る魔物と最初に戦いたいよ」
そう言ってフィーナはオーガキングに向かって行った。僕は仕方なくその取り巻きであったハイオーガに向かう。それを見てセシリアとファルナが苦笑する。
「フィーナさん、育ちは良さそうなのに何でそこまで魔物と戦いたいのか私には分かりません。フレイ様も」
「フィーナは元々ハイメルン王国の姫だから育ちは良いけど、ご主人様の奴隷になってからは脳迄筋肉なってきていますね」
「フィーナさんってハイメルン王国の姫だったんですね。そっか、お義姉様の妹さんだったんですね」
「フィーナさんのお姉さんを知っているの? 国が落ちてから分かれて逃げたから何処に行ったのかも分からないと言っていたと思うけど」
「お義姉様はハイメルン王国が落ちて逃げたときに運良くファールン王国の者が見つけてこの国に連れてきたそうです。それで、元々婚約者出会ったガージェス兄様と結婚されたんですよ」
「へえ、そうだったんですね」
「ねえ、楽しく談笑している所悪いけど、今がどういう状況下は分かってる? 一応、戦っている最中だよ」
仲良く話していたセシリアとファルナに話しかける。二人が話している間に僕はハイオーガを四体倒していた。フィーナの方はオーガキングを相手に遊んでいるようだった。
「すいません、ご主人様。でも、余裕があったのでは無いですか? フィーナさんは遊んでいるみたいですが」
「流石はフレイ様です。今度は私にも戦わせて欲しいです。あ、でも、流石に一人では厳しいと思いますのでフレイ様と一緒が助かります」
「流石に、まだ一人でハイオーガはさせないよ。けど、次の階層から出てくるトロールは戦って貰うつもりだよ。トロールは力が強いぐらいで速さはそこまでだからね。今のファルナなら十分に戦えるだろうからね」
「ありがとうございます。お役に立てることを証明しないと行けませんから」
「いや、十分役に立っているんじゃ無いかな。ここに来るまでもちゃんと戦えていたからね。バーサークベアや空から来るアサシンイーグルにも対処できた。リザードマンとコボルトの群れが出て来ても慌てること無く戦えてる。解体も出来るようになった。十分冒険者として役に立っているよ」
「そう言って貰えると嬉しいです」
「カルラも、二人の方の守りに残ってくれてありがとう」
「まあ、ご主人とフィーナなら大丈夫だと思ったからね」
話していると大きな身体が倒れる音が聞こえた。そちらを見るとフィーナがオーガキングを倒し終えていた。笑顔でこちらと向かって来る。
「うん、大きいし速いけどそれだけだね。グングニルが凄いっていうのもあるけどね。多分この武器じゃなかったら結構苦戦していたかも」
「それでも、皆で戦えば勝てたとは思うけどね。でも、そう考えるとここを攻略したっていうパーティーはかなり強いよね。とりあえず、この先の宝箱を開けたらそこで野営をして、その後に十六階層に向かおうか」
野営をして身体を休めてから十六階層に向かう。そして、十六階層に来て驚いた。十六階層はバルドラント王国の聖霊ダンジョンの六階層にあった様な草原が広がっていたのだ。そして、その草原を大きな巨人、トロールが闊歩していた。