第146話
宴をした次の日にラントに連れられて王宮にある一室に向かう。そこにはドレス姿の女性と商人がいた。商人は王都の奴隷商らしく契約をするために来たらしい。一緒にいたドレス姿の女性が声をかけてくる。
「ガーラント兄様、そちらの方が私のご主人様になられる方ですか?」
「そうだ、俺の友達のフレイだ。俺の知っている中で一番強い男だ」
「あら、それはガル兄様よりも強いのですか?」
「もちろんだ、まあ、最もガルファスを倒したのはフレイの奴隷の一人なんだがな」
ラントの言葉にファルナは驚く。ガルファスは聖武具を持っていたので普通は無理だからな。
「フレイの奴隷はバルドラント王国の聖武具を持っていたからな。仕方ないだろう」
「そうなのですね、それにしても奴隷の者に聖武具を使わせるなんて余程の大物か、それとも愚か者か分かりませんわね」
「その辺は自分で判断してくれ、ただし、その奴隷よりもフレイは強いからな。ファルナも退屈はしないだろう。前から言っていただろう、ダンジョンに行きたいってな」
「あら、私がダンジョンに行っても良いのですか? ガーラント兄様も反対しておられたのではなくて?」
「王族の女がダンジョンなんて行くのは世間的にも良くないからな。嫁のもらい手もなくなるし。帝国との仲が破綻したからな、それがなかったらまだ良かったんだがな。でも、もうファルナは奴隷になってしまう。そうなったら、俺からは何も言えないさ」
ラントの寄ると、元々ファルナは帝国の王族の一人との婚姻が決まっていたらしい。しかし、帝国によりファールン王国への侵攻が起こったために立ち消えになったとの事である。
帝国は昔は接する国々とは仲は悪くなかった。ファールン王国とはそれこそお互いに婚姻を結ぶということすらしてきていた。帝国は侵攻する二年前にはファールン王国側のガルファス王子と帝国の姫との婚姻がなされ、帝国の王子とファルナ王女の婚姻も約束されていた。しかし、そんな中、いきなり帝国がファールン王国に侵攻を開始したのであった。その理由が、ある占い師が帝国がこの大陸の全てを支配するという予言をしてしまったために帝国は方針を一気に変えたのだった。
帝国の中にはかつて大陸の全てを支配していたのに今は、その半分位しか支配できていない。それを不満に持っている者はかなりいたらしい。今までの皇帝は友好の方針だった。しかし、占い師のその予言により一気に侵略して大陸を支配するべしという意見が優勢になった。そして、それを為すという王子を皇帝へと代替わりするように大臣達が直談判をしたのだ。それを大臣がしたことで帝国民も同調し皇帝はその王子へ帝位を譲ることになってしまったのであった。
「そんな事が帝国で起こっていたことが諜報員によって知らされてな。こちらも十分に対策を取っていたから帝国とまともに戦えたわけだ。もし、知らずに対策も取れなかったらあっさり王都は陥落していただろうな。ガルファスも帝国に寝返っていた可能性もあるからな」
「ガル兄様は寝返っていたでしょうね。さて、ガーラント兄様、そろそろ奴隷契約をして頂けないですか? 奴隷商の方も忙しいでしょうから」
「ああ、そうだったな、それじゃあ、奴隷の主はこのフレイで頼む」
「かしこまりました」
奴隷商の手により僕とファルナの奴隷契約が終了した。奴隷商は仕事を終えると部屋を出て行く。
「それではフレイ様、ふつつか者でございますが、これからよろしくお願いいたします」
奴隷契約を終えたファルナが頭を下げて挨拶をする。
「フレイ、ファルナをよろしく頼む。それと、ファルナの着替えなどは用意させているから持って行ってくれ。残していても売るぐらいしか出来ないからな。それなら、そのまま持って行って貰えると助かる。マルンに戻るまではこの王城の部屋を使ってくれて構わない」
「ありがとう、とりあえずこの後のことは皆と話し合ってから決めるよ」
ラントにお礼を言ってファルナと一緒にセシリア達が待っている部屋へと向かう。ラントはこの後は戻ってくる王太子の奥方を迎える準備をしないといけないと先に部屋を出て行った。
部屋へと向かう途中、不思議の思っていたことをファルナに聞いてみる事にした。
「これから、よろしくね。ところで、僕の奴隷でよかったの?」
「何がですか?」
不思議そうにファルナが聞き返してきた。
「君のお兄さんを殺したのは僕達だけど、普通はそんな僕達の奴隷になりたいと思わないでしょ」
「ああ、その事ですか。別にガル兄様とそれ程仲が良かったわけでもありませんから大丈夫ですよ。お義姉さまと結婚してからは帝国贔屓になっていましたね。今回の侵攻の時も抵抗するのでは無く帝国の一部になって大陸統一をするのべしと言っていましたから。母は流石にそれには反対でしたけどね」
「ファルナはお兄さんのその考えには賛成だったの?」
「私は反対でした。私の婚約者の方も帝国の王族の一人だったみたいですが、一度も会ったことはありませんし、侵攻によって話もなくなりましたので帝国は敵対国としか見ていませんね。私は王都で淑女の教育をしていたせいか、領地を持っていたガル兄様とは余り会えなかったのです。それよりは王太子であった、ガージェス兄様と一緒に居ることが多かったのです。なので、兄が父上とガージェス兄様を殺したと聞いたときはガル兄様を恨みましたね」
その後にファルナはガルファスによって自室に軟禁されていたらしい。因みに、この時ガルファスは実の母には王と王太子は帝国の暗殺者によって殺されたと言っていたというのである。
ガルファスの奥方であった帝国の姫は、侵攻する前に子供を父親に見せるために帝国に戻っていたために捕らえられて居なかったらしい。
そうして、用意して貰った部屋に着いたのでファルナと一緒に入る。
「お帰りなさいまで、ご主人様」
「お帰りー、その人がラントお兄ちゃんの妹?」
フィーナがファルナの方へ近づきながら聞いてくる。
「ええ、そうです。ファルナです、よろしくお願いします」
ファルナがセシリア達に挨拶をする。
「私はセシリアです」
「あたいはカルラだよ、あ、いや、です」
「私はフィーナだよ。お姉ちゃんはガルファスって言う人の妹でもあるんだよね?」
「セシリアさん、カルラさん、フィーナさんよろしくお願いしますね。それからカルラさん、敬語は必要ありませんよ。私も皆さんと同じ奴隷なんですから。フィーナさんの言われたように私はガルファスの実の妹ですよ」
「ごめんね、そのガルファスっていう人、私が倒しちゃった」
フィーナの言葉にファルナは驚いていた。セシリア達の中で一番若いと思われるフィーナが倒しているとは思わなかったからだろう。
「フィーナさんは凄いんですね。それと、大丈夫ですよ。ガルファス兄さんとは仲が良くなかったわ。父やガージェス兄様を殺したと聞いたときは私がガルファス兄さんを殺したいと思ったもの」
ファルナはかなりガルファスを憎んでいたらしい。ラントはファルナはガルファスの事が嫌いだと言っていたが、王と王太子を殺されたことで憎しみに変わったみたいであった。
その夜は食事をした後に女性達だけで夜遅くまで話をしていたみたいだった。セシリアによれば女性陣だけでの大切な話し合いらしく、僕は別室に追いやられていた。
そして、一週間が経ち、王太子の奥方が王都に入城するという前日に僕達はマルンへと向けて帰るのだった。