第144話
ガルファスの部隊を砦に追い込んで包囲して一日が経過した。
その間に何度か突撃したのだが跳ね返される。(因みに、初日は僕のパーティーメンバーは不参加だった)この砦は王都を守る最後の砦なのでかなり強固になっているらしい。魔法はかなり高価な魔道具が設置されていて無効化されている。ただし、これは門が閉じていることが条件になっていて、門が開いたら魔法無効化は解除される様になっている。
「で、破城槌を使って門を破ろうにも、思った以上に敵兵がいるからそれも難しい。梯子を使って登ろうにも蹴落とされて難しい。砦攻略って厳しいね。唯一の救いは魔道具の魔法無効化が相手にも作用するせいで相手からも魔法攻撃が来ないことかな」
僕が今日の戦いの状況を見て言う。僕が参戦しなかったのはこういう砦の攻略を今までしたことが無いためであった。
「そうなんだよな。だから、出来れば決戦で勝負を付けたかったんだがな」
「それは、ごめんって。直ぐに砦に逃げるなんて思わなかったんだよ」
「まあ、俺も見ていたが、まさかあそこまであっさり逃げ出すとは思わなかったな。あれには俺も予想外だった」
ラントが頭を掻きながら言う。ファールン王国の聖武具を持つ王族は前線で戦うことを誉れとし、その姿を兵に見せて士気を上げる。それをあのガルファスは逃げたためにかなりの貴族や兵がこちらへと寝返ったのだ。それでも、八百人程の敵兵がいるので落とすのにかなり苦労しそうである。
「ガルファスは指揮を頑張っていたな。破城槌も一つ燃やされたからな」
「破城槌はいいけど、部隊を二つに分けてたね。その部隊は何処に行ったの?」
「ああ、もう一つはシルビアに任せて王都と北にある砦の確保に向かって貰ってる。帝国を追い返したといっても、何時攻めてくるか分からないからな。確保して守りを固めないと……。貴族の中で一番信用できるシルビアが適任だ。ダンジョンにいけるぐらい強いし、フレイのおかげで魔法も使えるようになったからな」
聖霊のダンジョンで会った時にシルビア達に魔法の手ほどきをしたことがあるのでその事を言っているのだろう。
「そういえば、シルビアさんは公爵令嬢だったっけ?」
「聞いていたのか? ああ、そうだ、だから貴族達も文句は言えない」
「ラントの婚約者だっけ?」
ラントは恥ずかしそうに頬をかく。
「そこまで聞いてるのかよ。ん、まあ、そうだな。改めて確認すると恥ずかしいな」
「そういうもの? 所で、僕はどう動けばいい?」
「神具で門は壊せそうか?」
「かなり時間は掛るかな。流石に剣であそこまで大きな門を壊すのは現実的じゃ無いよ。フィーナが加わっても同じかな。魔法が使えれば土魔法で何とか出来たんだけどね」
「まあ、そうだよな。フレイのパーティーは弓で城壁の弓兵を倒してくれ。数が減れば破城槌で門か壁を壊しやすくなる」
ラントの言葉に僕は頷き、テントを出る。そして、セシリア達のいるテントへと向かう。
「弓による攻撃で城壁の上の弓兵を倒すですか。魔法が効果無いのでしたらそれ位しか出来ないですね」
「なら、あたいがご主人やセシリア姉を守るよ」
「私は弓なんて使ったこと無いよ」
フィーナが口を尖らせながら言う。
「それは仕方ないよ。明日は僕達の側に居て、飛んでくる矢をカルラと一緒に打ち落として。グングニルを使えば簡単だと思うから」
「うん、分かった」
次の日、僕達は味方の弓兵と一緒に配置につく。破城槌が門と壁の方へ向かって進んで行くのを見て相手の弓兵も配置に着いていた。
相手が破城槌に向かい火矢を打ちこんでくる。破城槌には濡れた布が被せてあるのでそう簡単に燃えることは無かった。
「魔法なら簡単に燃やせるのに、この魔法を無効化する魔道具はどっちにとっても厄介だね」
そんな事を呟いていると隣で声が聞こえた。
「だが、時間は稼げる。本来であれば援軍を期待して籠城をするからな。援軍が来るまで時間が稼げれば良い」
ラントがいつの間にやら来ていて僕の呟きを聞いていたらしい。
「まあ、今回は援軍は無いだろうがな。王都に残っている兵が少ないのは確認してある。砦は帝国との戦いで壊れているから放棄されている。ガルファスの領地にも民がいるが、それを徴兵して戦えるようになるまでには決着はつくだろうしな」
「なら、砦を制圧するだけだね」
そうして、戦いが始まった。僕とセシリアは弓で城壁の上の弓兵を倒していく。しかし、壁もあるために中々難しかった。
「試しに魔法を使ってみるかな」
「ご主人様、魔法は無効化されるのでは無いですか? 魔力が勿体ないと思います」
「だから、試しだよ。《風魔法エンチャントウインド》」
矢に風の魔力を込める。そして、城壁の兵へと弓を放つ。矢は風の魔力を纏いものすごい速さで飛んでいく。砦の近くになり纏っていた風の魔力は消えるが矢はその勢いを失わず敵兵の頭に刺さった。
「風の魔力が最後まで効力があれば頭を吹き飛ばすことも出来るんだけどね。でも、矢の速度は落ちなかったから隠れる前に倒すことは出来るかも。セシリアは風魔法を使ってやろうか。魔力が厳しくなったら休む事」
「分かりました。《風魔法エンチャントウインド》」
セシリアは僕に言われたとおりにやり敵兵を倒している。相手はそれを見てこちらへも攻撃してくるがカルラとフィーナによって矢が落とされた。
「フレイ、一体何をしたんだ?」
ラントが僕の近くに来て、どうやって矢の速度を上げたのか聞いてきた。
「風魔法のエンチャントウインドだよ。風の効果を付けて矢を放ったら、速くなるからね。城壁に近くなったら魔法の効果は消える。だけど、それまでに速度が出ているから効果が消えても速度が落ちることは無いんだよ」
「ああ、なるほどな。魔法の効果が打ち消されても、それまでの勢いまでは消せないって事か。相手は砦の城壁にいるから効果を乗せようとしても打ち消される。けど、こちらは近くに寄らない限りは打ち消されない。それなら、遠くからでも狙えそうだな。よし、今から弓部隊に風魔法が使える奴を側に付けてさせてみる」
「魔力の消費だけは注意だよ」
「分かっている」
そう言って、ラントは下がっていく。その後、こちらの弓部隊の矢の速度が上がった。早速実行に移したらしい。相手の弓兵は対処しようとするがこちらの弓兵の矢が速くて対処できずに倒れていく。そうしている内に、梯子を登った兵達が増えていき城壁の上を制圧していく。
「じゃあ、僕も中に行こうかな。流石に第二王子のガルファスは他の人には厳しいだろうからね」
「あ、じゃあ、私も行くよ」
フィーナが僕に着いてくると言う。
「そうだね、セシリアはこのまま弓で攻撃しよう。城壁の上にこちらの兵が登ったらこちらの弓兵も攻撃できなくなる。でも、セシリアなら大丈夫だろうからね。カルラはセシリアの守りをお願い」
「分かりました」
「ああ、分かった」
僕とフィーナは梯子を登り城壁の上へと向かう。城壁の上からこちらの兵を倒そうと相手も頑張っているが、人数でこちらの方が勝っているためにそれも出来ないでいた。僕とフィーナが城壁のお上に着いた頃には戦場は砦の中庭になっていた。
しかし、そこで第二王子であるガルファスが先頭に立ち剣を振るいこちらの兵を倒していた。中庭では魔法が使えるみたいで、相手の魔法使いによってもこちらの兵がやられていく。
「流石に、数が居ても聖武具使いには勝てないよね。僕は魔法使い達を倒すからフィーナはガルファスの相手をお願いできる? 別に倒す必要は無いから」
「はーい」
そうして、僕とフィーナは中庭へと向かう。
「来たか、神具使い。俺は逃げない、逃げるわけにはいかない。勝負だ! 神具使い!」
「神具使いって連呼しないでほしい。それに、しばらくはこっちの子が相手だよ」
僕はフィーナの肩を叩いて言う。
「な、何だと! そのような小娘が俺の相手だと!」
「油断したら直ぐに負けるよ」
僕はそう言うと、ガルファスの後ろにいた魔法使い達を攻撃する。
「くっ、こんな小娘に俺が負けるはずが無かろうが」
ガルファスが剣を構えてフィーナへと突進する。それに対してフィーナはグングニルを構えた。何合かぶつかり合ったときにガルファスは気付く。
「まさか、それは聖武具グングニルか。バルドラント王国の聖武具の……」
「そうだよ。じゃなかったらお兄ちゃんが私に相手にしろなんて言わないよ」
ガルファスは聖武具ガラティーンと振るっていくがフィーナは冷静にそれを流して行く。フィーナは前に出ずに冷静にさばいていく。周りにいた兵達も僕と、門を破ってやって来た兵達に寄って倒されて行く。そんな状況が見えたのか、ガルファスの剣に焦りが見えた。
そして、ガルファスが大きく振りかぶった剣は地面を打ち、フィーナの槍がガルファスの心臓を打ち抜いた。
「何で、あいつばかり……」
そう言って、ガルファスは地面に倒れた。
倒れたガルファスが動かないのを見て、フィーナは槍を大きく掲げた。それを見た兵達は歓喜の声を上げるのだった。