第143話
両軍が対峙する草原で最初に動いたのはガルファスだった。ガルファスが剣を掲げてその剣を振り降ろした。すると、ゴーレムの大軍がガルファスの部隊の前方に現れたのだ。
「やっぱり、ゴーレムの魔石は確保していたか。あれは帝国との戦いに必要な物なのに……」
ラントは僕の側で苦々しく言う。
「というか、何でラントは僕と同じ最前線にいるの? 総大将だから後ろにいいないとダメじゃない?」
「ファールン王国では国王や王族は最前線で戦わないと臆病者呼ばわりされるからな。まあ、俺は冒険者として鍛えているから大丈夫だ。後、俺のパーティーメンバーのセイルは守るのが得意だからな。何があっても大丈夫だ」
ラントの隣にいた大きな盾を持ち大きな斧を持っている男が力こぶを作る。
「ウチのカルラの様なタイプって事だね。盾使いで壁役が出来る」
「さて、最初の予定通りゴーレムが出て来たな。まずは魔法で数を減らそう」
ラントは後ろで控えている魔法使い達に合図を送る。その合図により後方から火の魔法が放たれる。それは何百と降り注ぐがゴーレムには余り効いていなかった。
「そこは水の魔法じゃ無いと余り意味ないよ。元々が土だからね。もしくは核の魔石を打ち抜ける位の威力が無いとダメじゃないかな」
僕は冷静に分析する。
「そうなんだけどな、基本的に貴族の部隊の魔法使いは火が多いんだよな。人が相手だと一番有効だからな。鎧来てても熱で火傷とか負わせられるし、ま、次の騎馬兵の突撃で数は減らせるだろう」
そして、今度は騎馬兵が槍を構えて整列していて、隊長のかけ声と共に突撃をする。
ゴーレムが密集しているところに突撃する。ゴーレムも攻撃しようとしているが騎馬兵の方が速いためにその空振りしている。騎馬兵は槍でゴーレムの核を打ち抜いていくがそれでも半数ぐらいしか倒すことは出来ていない。
「じゃあ、今度は俺達の出番だな」
しばらくすると後方より魔法が打ち上がりそれと同時に騎馬兵は引いていく。騎馬兵と変わるように僕達戦士部隊が、前へと出る。
「突っ込めー!」
ラントの号令で戦士部隊が走り出す。僕とフィーナはラント達よりも先に前へ出てゴーレム達を倒していく。ゴーレムはオーガやリザードマン等の魔石を使っているらしいが僕とフィーナの敵では無くゴーレムを倒して行く。そして、追いついて来たラント達とゴーレムの数を減らしているときに騎馬が近づく音が聞こえてきた。
「まだ、倒し切れていないときに来たか。戦士部隊は盾部隊の後方へと下がれ」
ラントの命令で戦士部隊は急いで下がる。僕とフィーナは殿として一番後方にいた。騎馬部隊は動きが速いが神剣や聖武具を持つ僕達よりも遅く近づく者から倒して行くが数が居るために全ては倒せない。そのために逃げ遅れた戦士部隊が犠牲となる。ラントは無事に盾部隊の後方に逃げる事が出来たがそれでも少なくない数の戦士部隊が犠牲となっていた。
騎馬部隊の後からまたゴーレムとガルファス部隊の戦士部隊が向かって来る。
「愚かな弟よ。聖武具ガラティーンがある限り我等に敗北はない」
先頭を第二王子であるガルファスが向かって来る。
「ガルファスは僕が相手をするから他の相手をフィーナはラントを守りつつ倒す。まあ、数はこっちが多いから大丈夫だと思うけどね」
僕はフィーナに向かってそう言うと先頭を走ってくるガルファスに向かって走り出した。
「弱い奴は出てくるな。ガーラントの奴を出せ!」
ガルファスが剣を振りかぶり向かって来た。ガルファスからしてみては僕は手柄ほしさに向かって来る冒険者に見えただろう。しかし、その認識は直ぐに塗り変わった。
僕の持つ神剣がガルファスが振り降ろした剣とぶつかる。そして、拮抗する。拮抗しているのを見てガルファスが目を見開く。
普通の剣であれば聖武具とぶつかり合えば壊れる。壊れなくともヒビが入るのが普通である。力を逸らして刃に掛る負担を減らしたのでもないのに壊れもし無かったことにガルファスは驚いたのだ。
「何だ、その剣は! そんな剣でこの聖武具とまともに打ち合えるというのか!」
「そんな剣とは失礼だね。この世界に一つしか無い神具なのに」
「な、何、神具だと……」
つばぜり合いをしながらもガルファスの目が大きく見開かれる。
「ラントが何故僕の到着を待っていたと思う? 貴方に対抗できるのが僕ぐらいしかいなかったからだよ」
「くっ」
ガルファスが力込めて僕を突き放そうとするので、その反動を利用して僕は離れる。距離の離れたガルファスはそんな僕を睨み付けていた。
「さて、じゃあ、今度は僕から行くよ」
僕が剣を構えて向かおうとすると、突然ガルファスが背を向けて走り出した。その姿に僕は呆気にとられる。
「お、お前達、俺が砦に逃げ込むまでの時間を稼げ!!! ゴーレムは全部あの男を狙え!」
ガルファスの叫び声を聞いて、残っていたゴーレムが僕に殺到する。それ以外にもガルファスの部隊の魔法使いが僕一人に向かって魔法を放つ。何十と言う火の魔法が僕に向かって来る。
「《地魔法アースウォール》」
土の壁を作り火の魔法を防ぐ。ゴーレムが僕に向かって来るが神剣で核である魔石を壊しながら数を減らす。そうして、魔法が来なくなったので土の壁を解除する。すると、魔法使い達と戦士達の一部が砦へと向かっているのが見えた。流石に今から追いかけても砦に入るのを阻止できないので残っている兵を相手にすることにする。
決戦はガルファスが早々に砦に逃げてしまったおかげでこちらが勝利することになった。砦に逃げたのは総勢で八百人程らしい。ガルファスが逃げたことでこちらに寝返る者がかなりいたらしい。
「直ぐに逃げ出すような指揮官には誰も着いていかないだろうさ。着いていったのはガルファスが領地で雇っていた者たちぐらいだな。貴族達は早々に見切りを付けてこちらへと寝返った。まあ、貴族はその辺の見切りは早いからな、気をつけないとな」
「砦の攻略はどうするの? 結構面倒そうだけど」
「もちろんやる。ここで、放置して王都に向うなんて弱気の態度を見せれば寝返った貴族達ばかりで無く、協力してくれた貴族も領地に帰ってしまう可能性もあるからな」
「ファールン王国の貴族もバルドラント王国とは別の意味で面倒だね」
「この国では国王は一番強くないといけない。だから、聖武具も基本王が持つ。王が聖武具を持って前面に立ち、味方を鼓舞して敵を討つ。殆どの貴族は今回の王や王太子の暗殺を良しとしない。もし、ガルファスが正々堂々と兄貴と決闘でもして勝っていたのなら貴族も認めていたんだろうがな」
この国では王は強くないと貴族すら見向きもしなくなると言う。初代国王が聖武具を持ち切り開いた国で、その後も矢面に立ち侵略してくる敵国とも戦った為に貴族達も国王はそうあるべきと言う意識があるというのである。
「さて、明日は砦の攻略をしなければいけないからな、フレイは休んでおいてくれ。攻略会議などは俺達でやっておくからな。前回は顔合わせもあったから出席させたが、貴族達もフレイとフィーナの実力を見たからもう大丈夫だろう、フレイならどんな作戦であっても合わせられるだろうからな」
「まあ、言われたことはやるよ。それじゃあ、僕はテントで休ませて貰うよ」
僕はラントのテントを出て借りているテントへと向かう。兵達は決戦での疲れを取るために砦の包囲をしている者以外は早々に休んでいた。
僕もテントに戻り明日の砦攻略に備えて身体を休める事にするのだった。