第142話
ラントを追いかけてマルンを出発してから二週間経って、ファールン王国の王都へ三日の所で合流した。ラントはこの位置で僕達の到着を待っていたらしい。テントにいるというラントの元にシルビアと一緒に向かう。
「フレイ、いきなりこんな事を頼んでしまってすまない。流石に、聖武具を持つガルファスに勝つにはフレイに頼るしか無かった。来てくれて本当に助かった」
「友達を助けるのは当たり前でしょ。もしかして、僕の方だけが友達だと思っていたのかな? それだと、ちょっと、悲しいんだけど」
僕の言葉にラントは笑う。
「いや、俺も友達だと思っているよ。何だろうな、他の冒険者と違って一緒にいて気が休まるんだよな。まあ、他の連中は俺が王子というのを知っているっていうのもあるけどな」
「他の人はラントが王子だって知っているの?」
「ああ、別に隠しているわけじゃ無いからな。言い触らしてもいないけどな。俺が何者かマルンの冒険者に聞いていたら答えてた思うぞ。流石に勝手に言い触らすような人はいないだろうけどな」
どうやら、マルンではラントがファールン王国の王子というのは周知の事だったらしい。
「それでラント、状況はどうなっているのですか?」
シルビアが話を切り替えるためか大きな声で聞く。
「相手はここからここから一日の所で陣取っているのが斥候に寄って確認が取れている。魔道具に関しては持って来ては無いみたいだがな。まあ、あんな馬鹿でかい魔道具は流石に移動は無理だろうな」
「そんなに大きいの?」
「ああ、元々それが取り付けられているのは王都の防壁の上でな。防壁の上なら車輪があって何人かいたら動かせるんだが、あれを他の所に持ち運ぼうとしたら二十人でも無理だろうな」
「では、問題は第二王子であるガルファスだけですね」
シルビアの言葉にラントが頷く。シルビアから依然聞いた話では前王が持っていた聖武具ガラティーンを殺して奪っている。そして、王族であるためにその聖武具を第二王子は扱うことが出来る。対して、ラント側には聖武具が無い。人数では倍ぐらい勝っていても勝つのは難しいだろう。それ位に聖武具があると無いでは差が出るのである。
「ああ、だが、フレイが来てくれたことで状況は逆転した。フレイと神具とフィーナの聖武具があればこちらが勝つ。相手に近衛が居ようと変わらないな。こっちの状況を知って王城まで逃げられると厳しいがな。流石にあの魔道具の相手は神具だろうと聖武具だろうと厳しいと思う」
「そんなに厳しいの?」
「帝国は厳しいと判断して撤退していったそうだ。聞いた話によれば帝国の兵の三割位を消失させたらしい。ま、流石にそれだけに被害が出たんだ。しばらくは帝国がファールン王国に攻めてくることは無いだろうな。ただ、マルンに来た上の兄貴の部下に寄れば、打てて後一発位だ、との話だったな。威力もかなり落ちるみたいだ」
ホワイトドラゴンの魔石一つではそれ位しか撃てないらしい。以前にアースドラゴンの魔石でも撃てるらしいがそれ程の威力は無かったらしい。
「でも、威力が弱っているなら僕が前面に出て防げば良いかもね。最悪、避けられるとは思う」
「そうだな、フレイならそれが出来るかもな。ただ、他の者には無理だからな。お前は良くても他が巻き込まれる。出来れば王城では無く決戦で決めたい」
「決戦場所は決まっているのかな?」
「ああ、相手が陣取っているのがイースター砦だな。東から王城に向かってくる敵軍があった場合はここで相手をすることになっているからな」
「相手は砦の籠るのかな?」
「いや、流石に今居る人数全ては砦に入れないだろうから、最初はその前にある草原で決戦だろうな」
第二王子側の人数は四千人位居るらしい。砦の収容人数は一千人であり、それ以上居ると物資や武器が足りずに籠城してもそれ程長くは保たないとの事だった。そのために第二王子側は砦の前に広がる草原でまず決戦に及ぶだろうとの事だった。
僕達が着いたことで明日進軍して決戦することに決まった。その日はラントが用意してくれたテントで休む事になった。夜に作戦会議をするというので一番大きなテントに呼び出された。
そこにはテントにはラントと部隊をそれぞれ纏める部隊長と思われる人達とラントに賛同した貴族達とシルビアがいた。
「今日、やっと待ち望んでいた冒険者が来てくれた。まず、紹介しよう。俺の友人のフレイだ。実力は高いのは保証する。なんせ、バルドラント王国の騎士団長に勝つぐらいだからな」
ラントの言葉に周りがザワつく。
「まさか、あの聖武具グングニルを持つ騎士団長に勝ったというのか」
「あの騎士団長がいるためにバルドラント王国には手を出せなかった。それを倒すとは……」
「話によると王都は瓦礫の山になっていたとか」
「それは、魔物群れがやったらしい。いや、それどころかドラゴンが飛来したとも聞いたぞ」
ラントが手を叩く。すると、貴族や部隊長達は静かになった。
「お前達、落ち着け騎士団長を倒したというのは本当だ。魔物やドラゴンの話もな。魔物群れについては何故王都で発生したかは分かってないけどな。噂ではハイメルン王国の呪いとか言われていたが、流石に真実までは分からん。まあ、それはどうでも良いじゃないか。ただ、それだけ強い冒険者が味方してくれるって事だ」
「では第二王子側ガルファスは、そのフレイ殿に任せると言うことで良いですかな?」
「ああ、そのつもりだ。フレイもそれで良いか?」
「もちろん、構わないよ。流石にフィーナには荷が重いだろうし」
僕は了承する。フィーナでも勝てるとは思うが確実性を取るなら僕がやった方が良いだろう。
「ああ、フィーナは聖武具グングニルを使っているんだったか」
「何ですと!」
ラントの言葉にまたざわめきが起こる。
「そうだよ、フレイ達はバルドラント王国にあった聖霊のダンジョンを攻略している。さて、今回ガルファスと決戦することになるが、ゴーレムがまず出てくるだろうな。王都には今回の帝国で使用していたゴーレム用の魔石が沢山残っていただろうからな」
「残念ですが、こちらにゴーレム用の魔石は確保していません。今から調達は難しいです」
「流石に僕もゴーレム用の魔石は用意してないよ」
「それらは兵達で対処しよう。まずは壁役の後ろから魔法でゴーレムに一斉攻撃、その後に騎馬兵で突進してゴーレムを粗方倒して残りを接近戦で倒すしかないな。その途中で相手の騎士達が仕掛けてくるだろうから壁役の盾持ちは騎士の後の接近戦に移行したときに一緒に前進しよう。その後は乱戦になりそうだからな、できるだけ早くガルファスを討ち取る」
「分かりました」
ラントの言葉に貴族の人達が賛同し部隊の人達も頷く。
「フレイは出来れば正面にいて欲しい。ガルファスも先頭で突っ込んで来るだろうからな。あいつは自分の腕に絶対の自信を持っているからな。まあ、模擬戦では俺は負けているからな」
「そうなんだ、正面って事は騎馬兵の人達が突っ込んだ後の接近戦の時に前に出れば良いのかな?」
「そうだ、危ないかも知れないが頼めるか」
「大丈夫、フィーナと僕は正面で受け持つよ。魔法部隊にセシリアを入れてその護衛にカルラを付けないけど良いかな?」
「ああ、それで構わない」
ラントが頷く。
「皆、明日は決戦だ。必ず勝って王位を取り戻すぞ!」
「「「おう!」」」
全員で用意されたワインを飲む。これは、ファールン王国で昔からされてきた戦争をするときの儀式らしい。僕もそれに倣いワインを飲む。そして、テントに戻り明日の作戦を伝えてその日は休む。
そして翌日、ラントがイースター砦へ進軍する。ガルファスの部隊は砦の前の草原で部隊を展開していた。ラントも部隊を展開する。ファールン王国の王位を巡り二人の王子は相対するのだった。