第141話
シルビアと一緒にラントの元へ向かうために急ぐ。マルンに着いたときにシルビアが王太子の奥方に会うとの事で一日泊まることになった。
僕達も帰って来たので家に向かう。完成には半年掛ると言っていたのでまだ建設途中であった。工房の頭のドントさんがいたので話を聞く。
「ここんところ、天気が良かったから思ったよりも早くは出来そうだけどな。それでも、後三ヶ月は掛るだろう。家に住むだけなら二ヶ月ぐらいでいけるけどな。流石に、庭園までとなるそれだけ掛るな」
僕達はそれに頷く。別に急いでいるわけでは無いので丁寧に作って欲しい、とお願いして家を後にする。そして、取っていた宿に戻る。
「シルビアさんの話ではラントがマルンを出たのが十日前だね。僕達がセレティグトに着いたのが七日前だね。ただ、僕達がセレティグトに着いたときにシルビアさんがラントに連絡を入れているからペースは遅れているだろうって事だったね」
「シルビアさんの話によれば、味方する貴族は六割ぐらいでは無いかとの話でしたね?」
「そうみたいだね、全ての貴族が前の王様や王太子が好きだったわけじゃ無いだろうからね。第二王子は元々二割位の貴族と派閥を作っていたみたいだね。で、今王都を制圧しているのがその貴族達と第二王子って事だ」
「人数的にはラントの方が多いですよね? それで、第二王子は勝てるんですか?」
メイアが不思議に思ったのか聞いてくる。
「第二王子は古代文明時代の魔道具と聖武具ガラティーンを持っているからね。普通にやれば第二王子側が勝てるだろうね」
「旦那様がいらっしゃればラント様が勝てるでしょうか?」
「その魔道具がどのような物かに依るんじゃ無いかな。それを実際に見てないから何とも言えないね。聖武具の方は僕かフィーナであれば何とかなるね」
「旦那様は分かりますが、フィーナさんですか?」
メイアは首を傾げる。
「私も聖武具持っているからね。バルドラント王国の聖武具グングニルを持ってるよ」
「えっ、バルドラント王国の聖武具を持っているんですか? それよりも、聖武具は聖霊様に選ばれた人しか持てなかったはずでは無いですか?」
「セシリアもカルラもだけど、聖霊の加護を持っているよ。僕達はバルドラント王国の聖霊のダンジョンを攻略しているからね。いずれはこの大陸にある聖霊のダンジョンを制覇してみたいよね。まあ、僕には関係無いんだけどね」
「旦那様には関係無いんですか? しかし、旦那様も聖霊のダンジョンを攻略されているんですよんね。それでしたら、旦那様も聖霊の加護を持っているのでは無いですか?」
「いやあ、僕にはフォルティナ様の加護があるから、聖霊様の加護は授かれないんだよね」
「なるほど、フォルティナ様の加護があれば無理なんですね」
メイアが納得したのか頷いている。
「話を戻すと、その魔道具のことはラントに会ってから聞こう。明日は朝には出るからこの街でしたいことがあるなら今日中にしないといけないよ」
「あの、すいません、私、ガントンさんに会ってみたいです」
恐る恐ると言った感じにニルが言う。
「ああ、あたいも行きたいね。ご主人に借りているこの剣を研いで貰わないとね」
カルラが王都で貸していたミスリルの剣を取りだして言う。
「その剣はこれからもカルラが使えば良いよ。僕は神剣を使うようにする。神剣の魔力も回復させないといけないからね。流石にあれだけの人数の再生をしたからかかなり消費しているみたいだし」
「確かに、ご主人も気絶したぐらいだから、かなり消耗しているだろうね」
神剣の魔力は自然に回復するのを待つしか無い。しかし、魔法袋に入れていたら回復しない。なので、もう一つ武器を持つのは邪魔になる。使わないのも勿体ないのでこのままカルラが使う方が良いと思ったのだ。
ニルとカルラが武器屋に行くというので僕もそれに同行する。セシリアとフィーナにはメイアを連れて街を案内して貰う。ついでに、遠出するために必要な物を買いに行って貰う事にした。
武器屋に着くとライトさんが僕を見つけて近寄って来た。
「お久しぶりですね、フレイさん。色々と活躍であると聞いていますよ」
「それを誰に聞いたのかは聞かない方が良いかな?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。ラントさんから聞いていますよ。かなり懇意にして頂いております。つい先日も沢山の武器や防具を注文して頂きました。その殆どがファールン王国の騎士団で採用されている物と同じ型でしたね。それを何に使ったのかは私達は知りませんけどね」
実はシルビアから道中に話を聞いていた。ラントがマルンにいる冒険者達に騎士団の格好をさせて、王都よりやって来た騎士団と一緒にバルドラント王国に侵攻させたのだ。ファールン王国は帝国との戦いで騎士団の人数がかなり少なくなっていたために冒険者にその穴埋めをさせたのだった。
因みに、その時の冒険者の中にはバルドラント王国出身の冒険者もいたという話である。バルドラント王国は自分の国の冒険者にも嫌われていたらしい。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こちらのカルラが使っているミスリルの剣を研いで欲しいんですよ。後、こちらのニルがガントンさんい会いたいらしくて」
「ふむ、ミスリルの剣の研ぐのは大丈夫ですが、ガントンに会いたいですか? 失礼ですが、お嬢さんは以前にガントンに会ったことがあるのですかな?」
ニルはライトの言葉に首を横に振る。どうやら、会ったことは無いらしい。
「私の父が昔、ガントンさんの弟子をしていたと言っていたのです。そして、もし見られるなら一度見ておいた方が良いと」
「ふむ、分かりました。では貴方のお父上の名前を教えて貰えますか?」
「バルザントと言います。母はニーナです」
「バルザントさんですね。しばらくお待ち下さい。ガントンに聞いてきますので」
ライトは店の奥へと入って行った。そして、しばらくするとガントンが走ってやって来た。
「はあはあ……、お嬢ちゃんか、バルの娘って言うのは」
息を切らしながらガントンが聞いてきた。余程、急いできたらしい。
「え、はい、そうです」
「それで、バルはどこにいるんだ。今でも鍛冶の仕事をしているのか?」
「あ、そ、その、父は人族に襲われたときに、死にました」
「何、バルの奴は死んだって言うのか。そうか、そうなのか」
ニルよりニルの父が死んだと聞かされてガントンは項垂れるのだった。
「あいつは、いずれ儂を越えるだろうと思っていた。今までで教えてきた奴でバルは飲み込みも早くやる気も人一倍高かった。いずれは、聖武具を越える武器を作るんだって言っていたな。そうか、死んじまったのか。それで、お前さんはどうして儂に会いたかったんだ」
「私は父から技術を学んでいる最中でした。そんな時に、村が襲われて奴隷になって、ご主人様に救って頂きました。今度は私が鍛冶で手助けできればと思いました。この街に、父の師匠のガントンさんいるということで鍛冶を教えてもらないかと思ったのです」
「ふむ、なあ、フレイよ。このお嬢ちゃんを少しの間、貸して貰えないか。鍛冶の腕を見てみたい。もし、見込みがありそうなら鍛えたい」
僕は考える。これから、ラントの方へ合流して戦わないといけない。それを、今まで戦った経験の無いニルやメイアを連れていてはどうなるか分からない。
「すいません、お願いできますか? ただ、家がまだ建築中でして住む場所が用意できてないのですが」
「それなら、儂の家に住めば良い。儂には子供が三人いる。一人ぐらい増えても大丈夫だ」
「ありがとうございます。それじゃあ、ニルしばらくはガントンさんのところでお世話になると言うことでいいかな?」
「はい、ありがとうございます!」
ニルは勢いよく頭を下げる。
「話がまとまって良かったですね。ニルさんと仰いましたか。もし、良ければウチで鍛冶士として働いてくれても良いんですからね。優秀な鍛冶士は沢山いて困ることはありません」
ライトが優秀な鍛冶士を確保しようと口を挟む。
「一応、そういう話は主人である僕に言って頂かないと、まあ、ニルがそうしたいなら僕は反対しないよ」
「フレイさんの許可も出ましたし、考えておいて下さいね、ニルさん」
「あ、はい、分かりました」
そして、カルラのミスリルの剣を研いで貰う。その時にガントンさんはニルにそれをやらせたみたいでその腕前を褒めていた。ニルは明日からガントンさんのところでお世話になることに決まった。
宿に戻るとセシリア達も戻って来ていた。宿でセシリア達はシルビアと一緒に話していた。
「すいません、ちょうど出かけていた時に会ったのでお邪魔させて貰いました」
「それは、構わないけどね。ああ、そうだ、シルビアさんにちょっとお願いがあるんだけど」
「何でしょうか?」
「シルビアさんはラントの家に住んでいるんだよね?」
「そうですね、今日はラントの家に泊まります。というよりかはあそこはクランハウスですからね。複数のパーティーで借りた物です。その内の一つに私達のパーティー“女神の翼”も入っていますから私達の家でもあるんですよ」
ラントの借りていた家がクランハウスということを僕は忘れていた。どうやら、あそこは四つのパーティーで借りているらしい。
「ラントの加勢に行くわけだけど、ニルとメイアは今まで戦う練習をしてないんだよ。だから今回の第二王子との戦いには連れて行きたくないんだよね。ニルは武器屋のガントンさんが鍛冶を教えてくれるついでに世話をしてくれるみたいなんだ。だけど、メイアの方は決まっていなくてね。僕の家はまだ建築中だから使えない。そこで、そっちのクランハウスで預かって貰えないかな?」
僕の言葉にメイアが悲しそうな顔をする。
「私は必要ありませんか?」
「いやいや、違うよ。ただ、今回は戦争みたいなものでどうなるか分からない。まだ、戦うための訓練をしていないから怖いんだよ」
「アセルスは大丈夫と言うでしょう。ついでにメイドの仕事も教えてくれると思いますよ。ハウスにいるのはちゃんと雇ったメイドですから」
それを聞き、メイアは悩む。今まで、子爵の命令通りにやって来ただけでメイドとしての教育をちゃんと受けたわけでは無かった。
「分かりました。私はそのクランハウスでメイドの仕事を覚えたいと思います」
こうして、メイアはラントのクランハウスでメイドとして住み込みで働き、ニルはガントンの所で鍛冶を習いながら住まわせて貰うことに決まった。
次の日、僕達はラントを追ってマルンを出発するのだった。