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第139話

 宿へと戻り、増えた人数分のお金を払う。宿の主は訝しげに見ていたが何も言わずに部屋を貸してくれた。


「さて、いきなり領民が領主の館に押し寄せてきたのには驚いたけど、ここの領主って嫌われていたって事なのかな?」


 僕の質問にシンシアの世話をしていたメイドの女性が教えてくれた。


「この街の領主は趣味がよろしくありません。セシリアさんは以前いたので知っていると思います。最近ではエルフやドワーフの女性が多かったですが、セシリアさんが来る前には人族の女性がその対象でした。私が来たときにも十人ぐらいいました。しかし、失敗した子などは途中から見なくなることなどもありましたね。私はその時は普通にメイドをしていたので知らなかったのです。ですが、仲が良かった子が失敗した時にその拷問をしているところを無理矢理見せられたのです。それから、私は常に怯えながらしていました」


 女性は逆らえない様に見せつけられたらしい。


「子爵は従順になった私達には余り興味を持たなくなりました。そうなると、領内の者に目を向けたのです。攫ってきた女性を拷問していたこともありました。領民の人が抗議に来たこともありましたが、その人は家族全員捕まりました。そして、処刑されました。そんな領主ですから、領民で憎む人は多かったと思います」


「領民に恨まれる理由があったわけだね。ま、逃げ出して正解だったかもね。下手すれば新たな領主になってくれなんて言われたかも知れないし、只でさえ王国は終わっているわけだし」


「王国が滅んだ原因はご主人様ですけどね」


「いやいや、相手が喧嘩を売ってきたからだよ。流石に、家族を殺されて許せるわけないじゃないか」


「そうですよね、こんな国は滅んで当然ですよね」


 セシリアが良い笑顔で言い、それにカルラとフィーナ、さらにはメイドの女性やドワーフの子までが頷いた。


「領民のことは置いておいて、自己紹介をしないといけないね。まだ、君達の名前を聞いていないから」


「そういえば、まだ名前を言っていませんでした。私はメイアと言います。元々はベルン領の小さな農村で暮らしていました。ただ、口減らしの為に十歳で奴隷として売られました」


「家には帰られないの?」


 僕がメイアに聞くと首を横に振る。


「口減らしで売られた者は死んだ者として扱われます。なので、帰ったとしても追い出されるだけです。そうなると、結局奴隷になるしかありません」


 悲しそうにメイアは言う。


「なら、メイドとして側に居て欲しい。ただ、少し位は戦闘訓練はした方が良いかもね。あ、でも、もうマルンはファールン王国の領地になっているから大丈夫かな。流石に、僕の事を知っているから喧嘩を売ってくることは無いと思うし」


「流石にラントさんはご主人様と敵対しようとはしないでしょう」


「そうだね、シルビア達から話を聞いているだろうから流石にそれは無いだろうね」


「ラントお兄ちゃんは、お兄ちゃんのことを友達だと思っているから大丈夫だと思うよ」


 セシリア達がラントの居るファールン王国は僕に敵対はしないだろうと言う。


「なら、メイアには僕の家でメイドをして貰おうかな。後、しごとのはセシリア達にも教えてあげて欲しい。前は殺されたマリアが担当していたんだけどね。今度はそれをメイアに担当してほしい」


「分かりました。精一杯頑張らせて頂きます」


 メイアの言葉に僕も頷く。今度は待っていたもう一人の新しく奴隷になったドワーフの女性に声をかける。


「それじゃあ、今度は君の名前を教えて」


「わ、私はニルといいます。鍛冶を生業とした家に居たので鍛冶が出来ます。ミスリル製の武具も作る事が出来ます。ただ、炉が無いと無理ですけど」


「炉か、それって結構な大きさだよね? 僕の家の庭で出来るかな?」


「そ、それは見てみないことには分かりませんが、何でしたら行きつけの武器屋があればそちらで働かせて頂くと言うことも出来ます」


 少し考える。行きつけかどうかは分からないがガントンさんが僕を気に入ってくれて装備のメンテなどをしてくれている。そこで、ニルにはダンジョンに一緒に行って貰うことにする。


「ニルは魔法は使える?」


「わ、私は地と火と闇の魔法が使えます。ただ、使えるだけで訓練等はしたことはありません。それが、何か?」


「ニルには僕達と一緒にダンジョンに行って貰おうかな。鍛冶については僕達の家のある街にガントンさんて言うドワーフの人が居てね、その人に気に入られてるんだ」


 僕の言葉にニルが驚く。


「ガントンさんですか。その方はドワーフの鍛治士の中では有名な方です。私の父も昔、ガントンさんに教わった事を自慢にしていました。そんな方が居られるなら私の出番は無いですね」


 悲しそうにニルが言う。


「まあ、だから一緒にダンジョンに行って貰おうと思ったんだよ。ニルならカルラと一緒に壁役も出来ると思うからね」


「分かりました、不安しかありませんが頑張ります」


「まあ、訓練して強くなろう。セシリアも最初は戦うのも苦手だったけど今は普通に戦えるようになった。それに、ダンジョンに行かなくても戦闘訓練はした方が良い。盗賊等も家に入ってくることがあるみたいだからね。だから、ニルだけじゃ無くメイアにも一応戦闘訓練はして貰うから」


「私もですか? 大丈夫でしょうか?」


「魔法の適性は僕が見るから大丈夫だと思う。武器も何となく使えそうと思ったのを使えば良い」


 僕の言葉に不安そうながらもメイアとニルは頷く。


「明日は、早く起きて出発しようか。帰り道ではメイアとニルには見張りはして貰わない。そういえば、今まで街と街を歩いてい移動したことはある?」


 僕の質問に二人は首を横に振る。メイアはベルン領で売られたがこのオルベルク領に来るのには奴隷商の馬車だったため無いらしい。ニルも今まで村での生活しかしていなかったので無いとの事であった。


「そうなると、いつもより時間をかけてマルンへ行かないとね。僕やセシリア達とは体力的にも違うだろうからね。さて、じゃあ今から商店に行って移動するための道具を買ってこようか。後はメイアとニルの服も買いに行こうか」


 その日、宿から出ると今まで起きていた暴動が嘘のように終わっていた。領主の館は火が付けられて燃やされており、住民達は広場に集まり叫んでいる。


「領主は死んだ! この国はすでに滅んでいる。今こそ、我々も貴族に支配されない自由があっても良いのではないか! 今より、ここはマルンの様に自由都市になる時である!」


 中央にある噴水の所で台座に載った男が主張している。


「我々は、ファールン王国、セルシュ公国、両方と交渉し両方から代官を配置して貰い、自由都市オルベルクとなるのだ! それこそが我々が自由を手にいれる唯一の道である!」


 そんな男の主張を横目で見ながら商店へと向かう。


「ご主人様、先程叫んでいた男の言うことは実現すると思いますか?」


「無理じゃ無いかな? 自由都市マルンはダンジョンがあるからファールン王国とバルドラント王国、両方が欲しがったから自由都市になったけど、この都市にそこまでの魅力があるとは思えないよね」


「しかし、出るなら早い方が良いかもね。もしかしたら、街から出られなくなるかも知れないからさ」


 カルラが街か出られなくなるかも知れないと言う。


「街の門を閉じて、両方の国の軍が来るまで籠城するかも知れないよ」


「無理じゃ無い? この街に警備兵や騎士団はいないよ?」


「冒険者を使うんだよ。冒険者ギルドに都市を守るように依頼するかも知れないよ。しかも、強制依頼二なるかもね。街を守るってなったら冒険者ギルドも断り切れないかも」


「面倒だね、仕方ない。買い物が済んだら街をさっさと出ようか」


 そうして、買い物を済ませて宿を引き払い街を出る。一夜を街道で過ごした後、マルン方向へ進んでいく。そして、たどり着いた街で宿を取った。


 次の日になるとオルベルクの街が門を固く閉ざして入ることも出ることも出来なくなったと街の人が話しているのを聞く事になった。カルラが言っていたように門を固く閉じ籠城をしたらしい。


 僕達は自分たちには関係無いと思い、マルンへと向かった。そして、中心都市セレティグに近い街で泊まっていたときに、そのオルベルクの街がセルシュ公国によって占領された事を知ったのだった。


 

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