第137話
領主の館の入り口へと向かう。警備の兵は最初は戸惑っていたが流石に入り口の方へ向かった僕達に対して魔法を使って来た。
その魔法を僕とフィーナが切り裂いて消していく。
「警備兵の大半が魔法を使えるのか。流石は貴族の領地を守る警備兵だね。威力は弱そうだけどね」
魔法を切り裂きながら入り口の方へ向かうと剣を構えた兵が僕達の方へと向かってくる。その動きは速い。どうやら、地魔法のストレングスアップが使える兵のようだ。しかし、こちらは神剣や聖武具を使う僕やフィーナである。セシリアとカルラの動きに合わせるためにあえて遅くしていたのだ。
いきなり速度を上げた僕とフィーナに驚き兵は動きを止める。それを僕とフィーナが切り裂き貫いていく。兵は魔鋼製の鎧等を付けていたが意味が無かった。それを見て、魔法を打っていた兵達も動きを止める。僕達はそれを見て館の中へと入る。
「とりあえず、領主を探そうか。それとも、従姉妹を探した方がいいかな?」
「ご主人様、別々に探しませんか?」
セシリアがそう提案してきた。
「領主を先に倒して奴隷を解除された場合、残っている兵達が何をするのか分かりません。奴隷を先に助けたとしても領主が生きていれば命令されて、邪魔をしてくるでしょう。ならば別々に探した方が良いと思います」
「まあ、それはいいか。なら、どう分かれようか。僕とフィーナは別々で、後はセシリアとカルラだね」
「なら、ご主人とセシリア姉とあたいとフィーナで良いんじゃ無い? それが、一番バランスが良いと思うよ」
カルラの意見に皆が頷く。そして、僕とセシリアは左方向へ、カルラとフィーナは右方向へとそれぞれ向かう。
僕とセシリアは右方向へ進んで行く。途中、館の使用人と思われる人々とすれ違う。後ろからは僕達を追いかけてくる音が聞こえてきたので近くにあった部屋に入ることにした。
その部屋にはメイドと思われる女性が1人だけ居た。
「あ、貴方たちは誰ですか? ま、まさか今朝襲ってきた人達ですか? で、でも、その人達は逃げたって言ってたのに」
そのメイドはかなり怯えていた。僕はそのメイドに剣を向ける。それにメイドは小さく悲鳴を上げて黙った。
「ごめんね、危害を加えるつもりは無いんだよね。所で、聞きたいんだけど、領主のオルベルク子爵の居場所か、エルフの奴隷の居場所のどちらか知らないかな?」
「奴隷の人ならこの部屋を出て左側に行った先にある階段を降りた地下室に何人かいます。他にも居るとは聞いていますが私は知りません。旦那様は二階の奥の部屋だとは思いますが……」
怯えたようにメイドは言う。
「とりあえず、メイドを助けに行こうか。ただ、警備兵じゃ無く騎士達は見ないね。どうしたのかな?」
「あ、あの、騎士達は国境付近で公国が攻めてきたのでそちらの方へ行ってしまいました」
メイドが教えてくれる。
「だから、守っているのは警備兵だけなのか。教えてくれてありがとう。ここはもう危ないから逃げた方が良いよ。領主も殺す予定だからね」
「あ、そ、その分かりました」
僕達は部屋を出て左へと向かう。すると地下へと降りる階段が出て来た。僕達はその階段を降りていった。その地下室にはエルフの女性達とドワーフの女性達がいた。
「あ、あの貴方は誰ですか?」
エルフの女性が代表して聞いてくる。
「まあ、この領主の館に攻めて来た者かな。聞きたいんだけどシンシアっていうエルフの女性はここに居る?」
「シンシア様はここには居ません。一度だけ見ましたが何処で囚われているかは分かりません」
「シンシアを見たのは何時なの?」
セシリアはシンシアの話が出た為か我慢が出来ずにそのエルフに聞く。
「え、あ、まさか、セシリアさんですか?」
「ええ、そうよ。それで、シンシアはまだここに居るのね?」
「恐らくですけどいます。私が見たのは一ヶ月程前です。私達が来たのがそれ位でしたから、それまでは奴隷商にいましたが、いきなりここの領主に売られたのです」
「そう、なら、今でも大丈夫なのね」
エルフの女性が恐る恐る話す。
「ただ、その時のシンシア様は片足がありませんでした。後、私達が話しかけても反応はされませんでした」
「そう……」
セシリアが悲しそうに俯く。
「この部屋の鍵は壊しておこうか」
どうやら、ここは外から鍵が懸けられる様に作られているようだ。そうやって奴隷が逃げられないようにしているのだろう。僕はその鍵を剣で壊して扉を開ける。
「僕とセシリアは他の奴隷達を探しに行く。鍵は壊したけどしばらくはここにいたほうが良いかもね。もし、警備兵に見つかると何をされるか分からないから」
僕の言葉にエルフやドワーフ達は頷く。そして、僕達はさらに屋敷内を探す。他にもエルフの奴隷の部屋を見つけたがそちらも鍵を壊して動かないように言い移動する。
「シンシアさんは中々居ないね。もしかして、子爵の近くに居るのかな?」
「そうですね、私と一緒に捕まったにもかかわらず、まだこの屋敷にいると言うことは子爵はかなり気に入っているのでしょう。ご主人様の言うように側の置いているかも知れません」
「なら、二階に行こうか」
上る階段を見つけて駆け上がる。二階に上がると警備兵達がかなりいた。それらを蹴散らしながら進んで行く。そして、ある部屋の前でセシリアが何故か動きを止める。
「どうしたの?」
僕が聞くがセシリアは何も言わずその部屋へと入っていく。その部屋には少し年を取ったメイドとベッドで座っている銀髪のエルフの女性だった。エルフの女性はこちらが部屋に入ってきても何の反応も示さなかった。
「シア!」
セシリアがその銀髪のエルフの女性に向かって叫ぶ様に呼びかける。その声にメイドの女性がこちらを振り向く。
「何ですか、貴方たちはここは子爵様の寝室ですよ。さっさと出て行きなさい」
セシリアはそのメイドを押しのけてシンシアに声をかける。
「シア、大丈夫? 私が分かる? セシリアだよ。貴方の従姉妹のセシリアよ!」
「リア姉?」
シンシアはセシリアの呼びかけに視線を動かしその顔を見る。その顔が自分の知るセシリアの顔だと分かると泣きそうな顔になった。
「リア姉、リア姉……」
セシリアの胸の中でシンシアが泣き出す。それをセシリアが優しく包み頭を撫でる。
「大丈夫、もう大丈夫だから」
「ちょっと、これはどういうこと、子爵様はあの子はもう死んだって……」
どうやら、このメイドの女性はセシリアがまだここの子爵の奴隷だった時にもいたらしい。
「貴方にはちょっと、聞きたいことがあるんですけどね?」
僕はメイドの女性に声をかける。
「貴方達はいったい何者ですか!」
「ここの領主を殺してエルフの奴隷達を解放する者ですよ」
「貴族を殺したらこの国の王が許しはしませんよ!」
どうやら、この女性はまだこの国が存続していると思っているようだ。
「バルドラント王国はすでに滅びましたよ。元バルドラント王国はファールン王国側と公国に寄って刈り取られている最中です。もしかして。知りませんでしたか? ここの子爵はファールン王国側に付くみたいに聞きましたけどね」
「え、そんな事は子爵様は何も言っていませんでしたよ! この国がすでに滅んだなんてそんな事信じられるわけないじゃない」
「今、貴方に信じて貰おうとは思わないけどね。街中では暴動も起きているけど、それは知っている?」
「そんな、私は住み込みでこの屋敷の外に出ることは禁じられていますから、知りません」
「メイドなのに外に出ることが禁じられてるの? 買い物とかあるだろうに……」
「私は、奴隷なので屋敷から出ることを禁じられているのです」
話を聞くとこの女性はもう十年以上前にここの子爵に買われてからずっと屋敷でメイドをしているらしい。従順な為にずっとメイドとして働かせて貰っていて、最近ではシンシアの世話係をさせられていたという。
「君、帰るところはあるの?」
「どうして、そんな事を聞くんですか?」
「言ったでしょ、ここの子爵は殺すってね。そうしたら、君は自由だよ。どうするの? まあ、考えときなよ。さてセシリア、しばらくシンシアさんの側に居て良いから、僕は子爵のところに行ってくる」
セシリアはシンシアを強く抱き頷く。
僕は部屋を出る。その時に見たメイドの女性は力なくベッドに座っていた。
部屋を出て子爵の書斎と思われる部屋へと到着する。ドアを開けようとすると中から悲鳴が聞こえてきた。僕が急いでドアを開けて部屋に入るとセシリアの兄が子爵の胸に剣を突き刺していた。