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第135話

 奴隷商の中に入り店主と会う。店主は襲撃の事を恐れているのか昔見たときよりもかなり痩せてやつれていた。


「ああ、お客様ですか。本日はどのような奴隷を求めて来られましたか?」


 今の精一杯の笑顔で店主は言う。


「今、このお店にはエルフの奴隷はいますか? どのような状態のエルフでも構わないのですが……」


「エルフ、ですか。申し訳ありません。ただいま、エルフの奴隷は一人も居ないのです。全てここの領主に格安で売りましたから」


「エルフの奴隷は高額で売れるのにですか?」


 店主は複雑な顔で俯く。


「表の冒険者には話は聞きましたか?」


「ええ、隣の領地で奴隷商が襲われたとか。それ以外にもエルフの奴隷を連れていた商人も襲われたと聞いています」


「そうです。それで、領主にエルフの奴隷を押しつけたんですよ。領主は喜んでいましたけどね。それでも、当店ではエルフ奴隷を扱っていたことが世間では知れ渡っているので襲われるかも知れないと思い冒険者を雇っているのです」


 僕とセシリアは店主と少し話をして店を後にする。そして、二人で冒険者ギルドへと向かう。冒険者ギルドでも軽く食事が出来る。街の中では暴動が起きていて食堂等が機能していないと宿で聞いたからだ。


 席について飲み物の注文をしてからセシリアと話をする。


「セシリアは僕を襲ってきた人に心当たりがあるみたいだね」


「えっと、それは、その……」


 セシリアがしどろもどろになる。


「兄さんって言っていたの聞こえたけど」


「あ、そうなんですね。それでは、もう隠すことは出来ませんね」


 そして、セシリアは話し始める。


「前に話したかも知れませんが、私は村の村長の娘でした。そんな私には兄が一人居まして、次の村長になるのも決まっていました。そして、村が襲われたとき兄は少し遠くにあったエルフの里との会合のために居ませんでした。兄は、帰って来た時には驚いたでしょう。村に帰ったら誰も居なかったのですから」


 セシリアは一度飲み物に手を伸ばす。


「ご主人様は前に言いましたよね。ベルン領で奴隷による反乱が起きたと、その時にその仲間が街で騒ぎを起こしていたと。その仲間というのは兄達でしょう。兄はエルフの村では一番とも言える実力の狩人で戦士でしたから」


「どれくらい強かったの?」


「そうですね、カルラさんぐらいでしょうか。それ位の実力は合ったと思います。兄は村民が誰も居ないので取り戻すために戦っているのでしょうね」


「それにしては、時間が掛かっているね。襲われたのはかなり前だろう」


 セシリアと出会ってから一年以上経っている。それでも、セシリアの兄は戦っているのだから村民を助けるのは難航しているということだろう。


「この街に兄が居ると言うことは従姉妹はまだ領主の元にいるのかも知れませんね。従姉妹は催事を司る巫女として必要でしょうから」


「セシリアの従姉妹は僕達で助ける予定なんだけどね」


「それなんですが、どうやって助けるのですか? 領主の館はかなり警備が厳重ですが……」


「そんなの、正面突破に決まっているじゃ無いか」


 セシリアが僕の言葉に絶句している。


「あ、あの、本気ですか? 以前、貴族と揉めるのは嫌がっていましたよね。マリアの時は相手から攻めてきたので仕方ないですけど、今回は私達から攻めるのですか?」


「今回は僕達から攻めるよ。前はこのバルドラント王国は健在であの聖武具を持った騎士団もいた。聖霊のダンジョン等色々やりたいことがあったのに、目を付けられたらそれらが出来なくなるじゃないか。でも、今は国も滅んで聖武具もこちらにあるからね。貴族に目を付けられたところで騎士団が出てくる事は無いし」


 その後、明日には領主の館に向かうことを決めてギルドを出る。そこで、あえて人通りの少ない裏道へとセシリアと入って行く。それをセシリアが訝かしんでいたが何も言わずに僕の後ろを着いてきてくれた。


 裏路地を歩いていると複数人のマント頭から被り顔を隠している者たち数人に囲まれた。


「あのご主人様、もしかしてわざとですか?」


「もちろん」


 マントの者たちが剣を構える。


「いきなり、襲ってくる? 僕は話し合いをするつもりだったけど」


「そのエルフはお前の奴隷だろう。お前を殺して奴隷から解放する。エルフを奴隷にしたことを後悔するがいい」


 代表と思われる男は今にも攻撃を仕掛けてきそうだった。


「ねえセシリア、君のお兄さん、話を聞く気が無いみたいなんだけど」


「あの兄さんやめて欲しいんだけど」


「セシリア、これはお前のためでもある。しかも、何故止める。奴隷にされているというのに」


「ご主人様には助けて貰いましたから。その恩は私の全てを懸けて返したいと思っています」


 セシリアが真っ直ぐに男を見て言う。


「ダメだ! 村はまだまだ人数が少ない。特に女は少ないんだ。人間共が女は根こそぎ奴隷として連れ帰ったからな。しかも、巫女のシンシアも見つかってない。このままでは村の維持も難しい。他の村から何人か嫁いで来て貰ったが、それでも厳しいんだ」


「兄さん、シンシアはこの街の領主に捕らえられています。後、エルフの女性達も何人かは捕らえられているでしょう。そして、ご主人様はシンシア達を助けてくれると約束して下さっています。もし、ここでご主人様を襲ったらシンシアも他のエルフの者たちも帰らなくなりますけど良いのですか?」


「シンシアがこの街の領主の元にいるのなら我々が助ければ良い。その男である必要が無い!」


「兄さん、少し気になったことがあるんだけど、どうして動き出したのが最近なの?」


 セシリアがいきなり話を変える。


「この国の王都が崩壊したからだ。最初に動いたときに騎士団がかなりの数がやって来た。流石にその時は身を隠したが……。しかし、少し前に王都が崩壊したと森が教えてくれた。知っているだろう。流石にハイエルフ族の方々のように森の木々に助けて貰うことは出来ないが、それでも、色々教えてくれる」


 昔、ハイエルフ族の村で聞いたことがある。ハイエルフ族は木々を動かす魔法を《木魔法》を唯一使える種族であり、エルフ族は木々を動かすことは出来ないが《木遠見魔法》という魔法が使えるとのことだった。エルフ族の魔法は木々を通して、遠くで起こった出来事などが分かるという魔法である。それによって、騎士団を監視して壊滅したことを知ったのだろう。


「王都が崩壊したので騎士団は来ない。貴族の私兵や冒険者ぐらいならば我々でも何とかなる。流石に、《木遠見魔法》を使用していた者は魔力を消費しすぎたので動けないが人数は十分だ。助けた者たちがさらに助けてくれるからな」


「兄さん、その騎士団を崩壊させ、王都を崩壊させたのはご主人様と私達なんですよ。しかも、ご主人様は大地母神フォルティナ様より加護を授かったお方です。はっきり言いますと、兄さん達では勝てませんよ」


「何だと」


「私はここの領主に酷い目に遭いました。両足や片手、身体も焼かれました。普通、そんな状態だと直せる手段はありません。奴隷商にいるときにも厄介者の様に扱われました。そんな私をご主人様は直してくれました。だから、私はご主人様の為に生きていきたいと思います。だから兄さん、私の事は助けようとしないで下さい。ですが、必ずシンシア達は助けますので」


 セシリアの兄は僕を睨み付ける。しかし、セシリアの覚悟も分かったのか何も言わずに去って行く。


「すいません、ご主人様の秘密を話してしまいました」


「構わないよ。それで、君の兄さんも引いたんだからね。じゃあ、早速宿に帰ってカルラ達と明日の事を話そうか」


「はい」


 僕と一緒に生きると覚悟を決めたセシリアと手を繋いで宿へと向かうのだった。

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