第132話
騎士団長の槍と僕の剣がぶつかり合う。そんな中、騎士団長は驚いて声を上げる。
「何故、グングニルとまともに打ち合える。並の剣であれば数合ぶつかれば刃は欠けて使えなくなるというのに! 貴様の剣は一体何だ! ミスリルの剣であろうと欠けるというのに!」
騎士団長は一向にその刃が欠けず、さらには聖武具グングニルとまともに打ち合えている事に苛立ちを募らせているのが見て取れた。
僕は相手の動きを見ながらその槍を捌いていく。聖武具の使い手が弱いわけが無く、間合いの長さと身体能力の高さから踏み込めないでいた。
(苛つかせて隙を作ろうと思ったけど、懐に飛び込めるほどの隙が出来ない。魔法を使うにしてもその時に一瞬の隙がこちらに出来てしまう。それを相手は見逃してくれそうに無いね)
僕は長期戦も覚悟して相手の槍を捌いていく。
その頃、セシリア達も公爵の護衛をしている二人の騎士と大事していた。相手はミスリルの剣と盾を持ち、ミスリルの全身鎧を着けていた。それだけ重装備では本来は動くのも辛いが軽量化の魔法効果を付けているのか動きは速かった。
カルラはミスリルの剣を持っていたために打ち合えた。速さにしても《地魔法ストレングスアップ》を使用したカルラの方が早かったが、相手のミスリルの鎧を切ることが出来ないために倒すことが出来ないでいた。
(ご主人が騎士団長を倒すまでは無理かな。この剣じゃあ、相手の鎧を切ることが出来ない。間接部分の隙間を狙えればいいんだけど、それは相手も分かっているからか隙が無いねえ)
フィーナの方も最初にセシリアが《風魔法エンチャントウインド》を掛けたおかげで魔鋼製の槍でも何とか対応出来ていた。セシリアは直接、公爵を狙おうとしているのだが護衛の騎士がその射線を消すようにカルラ達の相手をしているために狙えなかった。公爵が壁を背にしているのも狙いにくくしていた。
「お、お前達、私を誰だと思っている。このバルドラント王国のバイルズ公爵であるぞ! その命を狙おうなどと不敬ではないか。このようなことをして、家族もろとも処刑してくれる!」
公爵の叫ぶ声を聞き、フィーナが冷たく返す。
「私の家族はお前達に殺された! お父様もお母様も、そして、お兄様もマリアも! 絶対に許さないんだから!」
フィーナは激昂して激しく攻撃するが護衛の騎士は守りに専念しているためかその守りを抜くことは出来なかった。フィーナはさらに攻撃を加えようとするが、それをセシリアが止める。
「フィーナ、落ち着きなさい! 怒りにまかせては隙が出来るから、冷静になりなさい。それと、公爵。私のご主人様はこの国を滅ぼすと決めました。国が滅んではそんな肩書き意味はありませんよ。すでに王都の半分は壊れ、騎士団もドラゴン達に倒されているでしょう。そして、弱ったこの国を他国は見逃すでしょうか?」
「騎士団長と私さえいれば、例え兄が亡くなろうともこの国は大丈夫なのだ!」
公爵は激しく言うが、それをセシリアは冷めた目で見つめ言う。
「騎士団長が無事で済みますかね? 私のご主人様を甘く見ていませんか? 大地母神フォルティナ様に認められている方ですよ」
「な、何だと! 大地母神フォルティナ様に認められているだと?」
セシリアの言葉に公爵が驚いている頃、僕と騎士団長の戦いは終わりに近づいていた。
「一体何処の聖武具だというのだ! まさか、貴様は帝国のスパイなのか?」
「帝国は、今ファールン王国側と戦っているでしょう。そんな時に聖武具を使う者をファールン王国じゃなく、バルドラント王国に送り込む何てしないと思うけどね。それに、僕は一言も聖武具だなんて言ってないけどね!」
動揺して動きが単調になってきている騎士団長に力を込めて攻撃をして距離取る。
「ふぅふぅふぅ……。なら、貴様の剣は一体」
「只の神剣ですよ! 《地魔法ストレングスアップ》」
僕は神剣と地魔法の効果を重ね掛けをする。速度を上げて相手に向かって走り出す。騎士団長も動揺はしていても鋭い突きを繰り出してくる。しかし、重ね掛けをした僕の速さの方が早くその突きを躱しすれ違い様に相手を切り裂く。
「ば、馬鹿な……、こんな事が……」
騎士団長はその身体を上下に切られて絶命した。
「ふぅ……、神剣の身体強化と地魔法のストレングスアップを重ねると速さが思ったよりもヤバいね。練習してないからすれ違いで切るぐらいしか今は出来ないか。さて、じゃあ、その槍は貰って行くよ」
死んでいる騎士団長の手から聖武具グングニルを手に取る。聖武具グングニルは僕が持った途端、重くなった。
「重いなあ、これって聖霊の加護が無いと扱えないって事だよね。一応、聖霊フェンリルのダンジョンは攻略はしたんだけどな」
聖武具グングニルを担いでいまだ戦っているセシリア達の方へと向かった。
フィーナとカルラは相手の固い守りの為に攻めきれず体力だけが奪われていく。相手の騎士は重装備でフィーナ達以上に体力を消耗しているはずなのにその動きのキレは変わらなかった。
「この者たちはこの国の王である兄を守る近衛騎士団の者だ。王を守る盾が相手に体力で負けるなど許されない。この者たちはお前達以上に鍛えられた騎士なのだ!」
公爵は優勢な騎士達を見て優越そうに言う。そんな時、フィーナの側に金色の聖武具グングニルが刺さった。
「いやあ、流石に精霊の加護が無いと重いね。僕じゃあ使えそうに無いや」
僕はセシリアの隣に行きながら言う。
「ご主人様、そちらは終わりましたか?」
「ちょっと、時間が掛かったけどね。フィーナ、それを使って騎士団と公爵をやっちゃいな」
僕の言葉にフィーナは頷き聖武具グングニルを握る。フィーナは聖武具グングニルを軽く振って感触を確かめる。それを見て、公爵の顔が引きつっていくのが見えた。
「な、何故その小娘がその槍を使える。い、いや、それよりも団長はどうした。我が国最強の騎士団長はどうした! お前ごときが騎士団長に勝ったというのか! いった、どうやって」
公爵は信じたくないのか唾をまき散らしながら喚く。そして、僕の持っている剣を見て目を見開く。
「ま、まさか、その剣は、神剣だと言うのか。まさか、そんな事が……」
「あれ、公爵に僕の剣が神剣だって教えてなかったような?」
「あ、すいません、私がご主人様がフォルティナ様に認められたと言ってしまいましたから」
セシリアが申し訳なさそうに言う。
「まあ、良いよ。知ってしまった公爵と騎士さん達にはここで死んで貰わないといけないけどね」
「ご主人様、悪い人の顔になっていますよ。それと、そんな事を言うのは悪人だけですよ」
「いや、まあ、バルドラント王国にとっては僕は極悪人じゃない?」
「そうですね、フフ」
「あのさ、緊張感が無くなるんだけど」
カルラが抗議をする。それに僕とセシリアは謝る。そんな緊張感が無くなってきた僕達と違い公爵と騎士達には動揺が見て取れた。
「公爵、どうしますか。流石にこのままでは御身を守ることは出来ません」
「だからといって、逃げ場はありません。王城も巨大なドラゴンのせいで瓦礫になっています」
騎士達が公爵に問う。すでに、王都はその殆どが瓦礫となり、王城は皇龍神グランバハムートのブレスによって崩れていた。
「ぐぬぬ、ここで私が死ぬわけにはいかん」
「しかし、相手も我々を逃がすつもりは無さそうです。時間稼ぎもどれだけ出来るか分かりません」
「相手は聖武具グングニルを使えるみたいです。流石にあれが相手では難しいですね」
「何故、聖武具が扱えるのだ。あれは聖霊のダンジョンを攻略して、加護を得なければ無理であろう」
「あの男が神剣を持っているのなら可能でしょう」
公爵は息を詰まらせる。圧倒的な絶望が迫って来ているのが分かる、分かってしまう。
「わ、私はこの国の公爵だぞ、兄が亡くなっていれば、私が王だ! この国の王をお前は殺すというのか!」
公爵は僕に向かって叫ぶ。
「ええ、殺すよ。お前は、僕の家族を殺したんだ。殺さない理由が無い!」
僕の言葉にフィーナは騎士に向かって行く。騎士は対応しようとするが聖武具を持ったフィーナの動きについて来られずにあっけなく倒される。公爵は這々の体で逃げようとするがフィーナはそれを許さず背中から一突きをする。
「わ、私はこの国の王に……」
その言葉を最後に公爵は息絶える。
「フィーナお疲れ様」
僕が声をかけるとフィーナは振り返る。振り返ったフィーナの顔は儚く悲しげな笑顔だった。