第129話
それは王都まで後2日と言うところにある街を出て半日ほど進んだところにある街道を少し外れた小さな森の中、そこでオークの顕現を試す事にした。
「とりあえず、ここで試して見ようか」
それにセシリア達が武器を構えて頷く。
僕は神剣を構えて、足元の置いたオークの魔石に魔法を使ってみる。
「《神魔法インカネーション》」
すると、魔石が光り輝きオークの身体が作られていく。そして、数秒でオークの身体が再生された。オークはじっと僕の方を見て動かない。僕はオークに対して近くにあった小さな木を倒すように言う。
オークは僕の言葉を聞き側にあった木をその力で押し倒す。押し倒すとまた立ち上がり僕の側へとやって来て動きを止める。
「セシリア達を襲う心配は無さそうだね」
「そうだね、ご主人の命令を忠実に守るだけかな? そっちにある石を拾って」
カルラがオークに命令するが動かない。どうやら、僕の命令以外は聞かないようだ。
「これなら、安心出来ますね、ご主人様」
「後はどれだけ複雑な命令が聞けるかじゃないかな。魔物を倒せとかなら人を襲わないかも知れないけど、人を襲えって言えばセシリア達も襲うんじゃ無いかな?」
「ああ、これから戦うのは騎士団で人だからね。その場にあたい達もいたらオークはあたい達も襲うかもね。そうなると騎士団とぶつかるときには使い難いよね」
「では、オークだけを先行させて暴れさせるしか無いですね。そうなると、騎士団の数を減らせないかも知れません」
「オークの後にオーガやリザードマンの群れも送り込もうか。いや、その前に試して見ようか。ここにいる四人には絶対に手を出すな」
僕の言葉にオークは頷く。
「この先に道がある。そこから南側に大きな壁で囲まれた王都と呼ばれる街があるからそこを攻めて来て、途中襲ってくる者がいたら返り討ちにしてもいい。行け!」
僕の言葉を聞きオークはゆっくりと街道の方に歩いて行く。
「その命令なら最初の手を出すなって言う命令はいらなかったのでは無いですか?」
「まあ、そうかも知れないね。念のためにって感じかな。さて、じゃあ、オークをもう少し増やして集団で王都にぶつけようか」
オーク達を五十体顕現させて同じように命令を下してから王都の方へと向かわせる。その後に、半日開けて、今度はリザードマンを五十体を向かわせた。
「ご主人様、魔力の方は大丈夫ですか? かなりの魔物を顕現させていましたが」
セシリアが心配して声をかけてきた。しかし、この顕現魔法の消費は思ったよりも少なかった。
「魔力の消費は思ったよりも少ないね。休みながらやっているけど、これなら戦闘中でも大丈夫かな。オークとリザードマンでも消費は変わらない感じだね。まあ、原理はよく分からないけど消費魔力が少ないのは良いね」
僕達はリザードマンの群れを送り出してから少し先に進んでから野営をする。
「そう言えば、王都にも冒険者ギルドがあるよね?」
「ああ、あるね」
「ということは冒険者がオーク討伐をしてくる事もあるのか。これは失敗したかな?」
オークやリザードマンを倒すのは何も騎士団である必要は無い。王宮が冒険者に依頼すればギルドとしても対処することもありえる。そうなれば、騎士団を消耗させる事は出来ないだろう。
「仕方ない、ある程度進んだら、アースドラゴンやレッドドラゴンを顕現しようか。それなら、冒険者では対処は難しいし、騎士団長が出るしか無いだろうからね」
「そう上手くいきますか?」
「分かんないね。嫌がらせに近いかも……。何度も魔物が押し寄せてきたら逃げ出す者も出るかも知れないし、そうなれば僕はありがたいかも」
「そう簡単に騎士団の人が逃げ出すとは思えないけどね」
カルラは僕の言ったことを勘違いしているようだった。僕が思ったのは王都の住民のことである。出来れば、王都にいる住民には逃げて貰いたいとは思っている。僕のやろうとしていることは王都を全て灰にしてしまうだろうからだ。
「王都に着くのは明後日になるかな。明日はドラゴンを出して、王都から半日ぐらいの所で野営をしようか」
「分かりました」
セシリア達が頷く。フィーナも力強く頷いていた。
次の日、予定通りドラゴンたちを送り出してから僕達は少し遅れて出発する。野営の準備をしているところにある冒険者によって襲撃を受ける。
「お前がフレイか?」
その冒険者は敵意をむき出しにして僕に聞いてくる。
「だったら、何?」
「お前のせいで、俺は公爵のやろうから切り捨てられちまったじゃねえか!」
「君とは初対面だけど、それで何故僕のせいなのか分からないんだけど」
「お前の家のメイドとゴーレムのせいで俺の仲間が死んじまった。そのせいで弱くなった俺は用済みとなって捨てられた! あの、くそ公爵め人数が減って弱くなった上に自分を守れなかったと俺を捨てやがった」
その冒険者は怒りで興奮していた。
「そう君が僕の家を襲った者の一人なんだね」
「だったら、何だ! 俺はSランクパーティー“竜の顎“のリーダーだぞ。お前みたいな下っ端のパーティーは謙るのが当たり前だろうが! 公爵がそのエルフの奴隷にご執心だったからな。お前を殺して俺が楽しませて貰った後に公爵の目の前で殺してやる!」
興奮する冒険者を僕達は冷たい目でそれを見ていた。
「ねえ、メイドの死体に剣が刺さっていたけど、それは誰がやったの?」
フィーナが冷たい声で相手に聞く。
「ああ、俺だよ! あのくそメイド、俺の仲間をかなり殺しやがった。犯してから殺してやろうと思ったらあの女、最後に自爆しやがった。その時にも仲間が殺された! だから息が残っていたあの女の腹に剣を刺してやったんだ。そんな事で俺の怒りは収まらなかったがな!」
「もう、いい!お兄ちゃん、こいつは私がやって良い?」
フィーナが僕に聞いてくる。
「良いよ。無理そうなら助けるよ」
「うん、ありがとう」
フィーナは袋から槍を取り出す。
「お前は来ないのかよ、フレイ! 女に庇われるなんて情けねえなあ。所詮お前等はその程度の冒険者だって事だ! おい、小娘、恨むなら、その男を恨めや!」
その男は魔法袋からミスリルの剣を取りだしてフィーナへと向かって行く。その速さは風のように早かった。そんな男の動きをフィーナはじっと見つめる。
「お前等なんかとは格が違うんだよ!」
男は剣を大きく振りかぶって、フィーナを切りつけた。フィーナは冷静に身体を横にずらして剣を躱す。相手は避けられたと見ると今度は横に切りつけ様とするが、フィーナはその手を槍の石突きで突く。男は剣を取り落とすと痛みでうずくまる。
フィーナはうずくまった相手の顎を切り上げる。相手は叫び声を上げて転び回る。
「さっきので仕留められたのにしなかったね」
「簡単には殺さないと言う意思表示でしょうね」
転げ回る男にフィーナはゆっくりと近づく。相手はそれに気付いて恐怖に顔をゆがませる。
「ま、待て、俺は公爵の命令でやっただけで、自分の意思でやったわけじゃ無い」
「そんなの関係無い!」
フィーナは待てと言う男の足に槍を突き刺す。
「ぎゃあああぁぁぁぁ……」
男が叫ぶ、フィーナはそれを聞いても冷たく相手を見下ろす。
「ま、待ってくれ、命だけでも……」
男はフィーナを見て命乞いをする。
「ダメ、貴方は私の大事な家族を殺した。ここで、死んで」
男は後ろを向いて逃げだそうとするが足を怪我しているので這いずることしか出来ない。そんな男の背中をフィーナは踏みつけてその首を突いて命を絶つ。フィーナの身体が小刻みに震えて自分の手を見ている。
僕はそれを見てフィーナを抱き寄せる。フィーナは僕の胸に顔を埋めて声を殺して泣き出すのだった。