第127話
セレティグトの領主の館にてその当主と側近が話し合っていた。
「旦那様、例の男とエルフの奴隷が自由都市マルンを出てこちらに向かっているとの報告が上がっていますが、いかがされますか?」
「エルフの奴隷はその男と一緒にいるのだな?」
「はい、そのようです」
伯爵は手を顎に当てて考える。
「そう言えば、公爵はその男には手を出すなと言っていたな」
「はい、王都におびき寄せるとおっしゃっていましたな。そのための仕掛けもしていると……」
「マルンにはダンジョンがある。下手をすればそこに逃げられる場合もある。さらに、ファールン王国側の冒険者と懇意になればあちら側に逃げるということもあるわけだ。それを避けるために王都におびき寄せようとしているのだろう」
「マルンのダンジョンは広いと言われています。それこそ、三十階層迄行くのにも一ヶ月掛かるともいいます。マルンで貴族がそれだけの期間、滞在は出来ません」
「うむ、聞いた話では滞在許可は三日だったと言うことだ。流石にそれではすれ違いになるかも知れないと思ったのだろうな」
「では、その男に関しては手を出さない様にと兵達にも言っておきます」
「うむ、頼む」
側近の男が部屋から出て行く。
「公爵も慎重だな。まあ、以前のあの馬鹿貴族のことがあるから慎重にならざるをえなかったか。まあ、あの男を殺してくれるなら何だって良い」
セレティグト伯爵は手に持ったワインを飲み干す。
「しかし、その男は公爵の仕掛けに乗って王都に向かう。その場にはあの聖武具グングニルを持つ騎士団長がいるのにか? 調べさせた限り、命を粗末にするような男にも思えん。ゴーレムを作る事が出来ると言っていたな。それが切り札か? いや、そんな物は騎士団長に取っては物の数では無い。では、別の何かが……」
空になったグラスを見つめ伯爵は考え込むのだった。
僕達は順調に王都へ向かって進んでいた。正直、途中で貴族の妨害や街の警備隊等に詰問をされるかも知れないと思っていたので少し意外だった。少し前まで貴族殺しで噂になっていたのに周りの人達も普通に接してくるのである。
ある街の宿で泊まった時にカルラが受け付けの人に聞いて貰っていた。
「ご主人、どうやら貴族殺しの噂はあったみたいなんだけどさ、その人の名前もフレイというらしい。ただ、容姿は筋肉質の大男だって話みたいだ。ご主人は筋肉質じゃ無いからね。受け付けの人も、『そんな人に間違われて大変ですね。』なんて言っていたよ」
「噂話は嘘の人物を上げていた。けど、狙われたのは僕の家と言うことは公爵は僕の事を知っていたって事だね」
「そうですね、ご主人様は聖霊のダンジョンやこれまでにもいくつかの街を歩いてきました。知り合いも少なからずいるのでは無いですか? シルビアさん達はラントさんと繋がっているので無いとは思いますが……」
直ぐに思い浮かべたのは最初に世話になったガウン村であった。最後の方は何故か余所余所しかったのでもしかしたら何かあったのかも知れない。
「まあ、知り合いはいたよ。数年、ある村にお世話になっていたからね」
「でしたら、そこから容姿については知られたのかもしれませんね」
「その可能性はあるか。っま、でも、噂話のされているフレイさんとやらは僕とは違うみたいだから、街についたら普通に宿には泊まれそうだね。それでも、貴族の館がある場所はやめた方が良いだろうけどね」
「そうですね」
そこで、一度会話が終わり僕は考え事をする。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
考え込んだ僕を見てフィーナが声をかけてくる。
「んー、どうして公爵は僕のいないときを狙って来たのかなと思ってね。僕の事を探っていたのならいるタイミングで来ることも出来たはずだし」
「それは、自由都市マルンという都市の構造のせいじゃないかな。あそこはファールン王国と共同で統治している都市だからね。証拠も何も無い状態では捕まえる事は許されない。今回は証拠を見つける、いや、捏造する為に来たんだろうね。もし、証拠の無い状態ご主人に抵抗され、それで、自分が怪我を負うのを嫌ったんだろうね。今回、連れてきていたのは子飼いの冒険者と騎士団長だけらしいからね。人数的にも不安だったんじゃ無いかな。ご主人の家を調べたら、ゴーレムが配置されているのも分かっているだろうからね。証拠も捏造できずに言い掛かりでマルンの冒険者を襲ったと逆に噂になったらバルドラント王国はマルンに干渉しにくくなるだろうし」
「公爵は僕の家からベルン伯爵を殺した証拠を見つけたとか言っていたみたいだからね。今回はそれが目的で、次に兵を増やして来る予定だったか。もしかしたら騎士団を連れてくる予定かも知れないね」
「もしくは、ご主人様を王都におびき寄せるつもりだったのかも知れませんよ」
セシリアがポツリとそんな事を言う。
「どうして、そう思ったのセシリア?」
「前にご主人様がラントさんとの会話の中で私達の中の誰かを殺したら例え国が相手だろうと滅ぼすと言ったのですが覚えていますか?」
「ギルドでそんな話をした気がする。良く覚えていないけど」
「その時に公爵の息の掛かった冒険者が聞いていたのかも知れません。公爵は私達のことを調べていたわけですから」
セシリアの言葉になるほどと思う。その事を知っていれば、面倒なマルンでわざわざ手を出さなくてもいいし、騎士団の力も当てに出来る。しかし、公爵がそこまで警戒しているのも何故なのか疑問に思う。
「ラントさんが何かと気に懸けているからでは無いでしょうか? 後、家を買うときにかなりの金額を用意しましたよね。それだけ、お金をしかも年齢が若いご主人様がそれだけ稼いでいるのです。つまり、冒険者としても優秀であるのが分かります。警戒するのが普通では無いでしょうか?」
「お金を稼げるのは優秀な冒険者だけだからね。しかも、セシリア姉みたいな綺麗なエルフの奴隷を連れている。綺麗なエルフの奴隷はかなり高いみたいだし」
「私の場合は安かったですよ。状態的にカルラさんやフィーナさん達より酷かったですから。本当に生きているのが不思議な状態でした」
「その話は、やめよう」
僕が話が変な方向に行きそうだったので打ち切る。
「まあ、お金があるから僕を警戒したというのは分かった。相手の思惑通りになっているみたいで嫌だけど、仕方ない。しかし、その選択が一番の外れだったと教えてやろうかな」
そして、王都へ向かう途中でシルビアと合流する。
「フレイさん、お久しぶりです。ですけど、私達は只の見届け役しか出来ません」
「いや、それで良いよ。シルビアには結果をラントに伝えてくれれば良いよ」
「ありがとうございます」
そして、僕達は王都へと後2日の距離にある街にたどり着いた。