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第124話

 ダンジョンから家に帰ると家はとても無残な姿に変わっていた。僕はその光景を見て言葉を失う。皆も言葉を失ったようにただ、呆然と変わり果てた家を見ている。


「あ、あのご主人様、これはいったい……」


 セシリアが恐る恐る僕に聞いてくる。


「貴族のバイルズ公爵が来たって事だろうね。でも、おかしいな、バイルズ公爵の子飼いの冒険者ぐらいなら何とかなると思ったんだけど……」


「ねえ、マリアは、マリアは大丈夫だよね?」


 フィーナが怖がるように言う。


「とにかく、中に入ろうか。もう貴族はいないみたいだからマリアも戻って来ているかも知れないから」


「そ、そうだよね。もし、貴族が来たら逃げるようにお兄ちゃん行っていたもんね。大丈夫だよね」


 皆で、家の門を入る。門の中は穴が空きいくつかの死体が確認できる。死体には焼かれた様な跡がある。


「焼かれたな様な跡って言うことは、この死体はマリアが殺したんだろうね。ということは、マリアは貴族が来たときに、直ぐには逃げなかったということか」


 そして、庭の隅の方に目を向けると、そこには剣が突き立てられた上に、身体のあちらこちらが焼かれている()()の遺体を発見する。


 その顔は焼かれた跡があるもののはっきりと判別することが出来た。……マリアの遺体がそこにはあった。


 僕はそれをただ、呆然と見ることしか出来なかった。そんな僕の後ろからフィーナがその姿を見て駆け寄った。


「……マリア、嘘だよね。いつも側にいてくれたマリアが……ねえ、目を開けてよ。あ、こんなのあったら痛いよね」


 フィーナはマリアに突き刺さっていた剣を引き抜き、マリアの身体を揺さぶっている。


「ねえ、マリア、起きて……ねえ、起きて……」


 フィーナは必死にマリアを揺さぶるがマリアが目を覚ますことは無かった。マリアにしがみつくの肩をセシリアが優しく抱きしめる。


「フィーナ、マリアさんはもう目を覚まさないよ。もう、死んでいるのよ」


「でも、……でも、うっうぅ……」


 フィーナは堪えきれずに大粒の涙を流しフィーナにしがみつく。僕はそれをただただ眺めていた。そんな僕の側にカルラが近寄ってくる。


「ご主人、家の中はいろんな物が壊されていたよ。ご主人の用意していた魔石の入れていた箱も全て壊されて、中身も取られていたよ」


「そうか」


「マリア、逃げなかったんだね」


 マリアの遺体を見てカルラが悲しそうに呟く。


「カルラ、今から冒険者ギルドに行って、どの貴族がやったのか確認してきて。後、遺体の埋葬の為の棺桶もお願い。僕はマリアを綺麗にしておくから」


「あ、ああ、分かった」


 カルラは冒険者ギルドへと向かって走って行く。僕はマリアの遺体の側に行くと神剣を取りだした。


「お兄ちゃん、マリアが……マリアが……」


 僕は優しくフィーナの頭を撫でる。そして、神剣を構えて魔法を唱える。


「《神魔法リジェネレイト》」


 マリアの身体を優しい光が包んでいく。その光が収まったとき、マリアの身体は焼かれた跡の無い綺麗な身体になっていた。それでも、マリアは目を覚ますことは無い。死んだ者を生き返らせる事は神剣を持ってしても出来ないことだからだ。出来ることは、生前の綺麗な状態まで戻すことだけだった。


「セシリア、これからカルラが棺桶を持ってくるからマリアを焼かれた服などを着せ替えてあげて欲しい。フィーナ、今日だけは泣いて良い。だけど、明日からは前を向くんだ。マリアはフィーナを独り立ち出来るように色々教えてくれていたはずだろう。それを明日からはマリアが安心して眠れるようにね。何時までも引きずっていたらマリアも安心して眠れないからね」


 フィーナが泣いたまま頷く。


 セシリアとフィーナが家の中へと入って行く。僕はマリアの遺体に布を被せようとして、ふと、腰の付近にある彼女がいつも使っている魔法袋が気になった。僕はそのマリアの魔法袋を手に取って中身を見る。その中にはマリアの武器や衣服の他に日記帳が入っていた。


 この日記帳はマリア達が僕の奴隷になったときに、欲しいと行ってきたので買ってあげた物であった。日記帳の最初の方はフィーナの成長記録と言ったような内容であった。しかし、途中からはバルドラント王国への憎しみ等が書かれるようになっており、最後の方にはどうすれば滅ぼせるのかといった過激な内容になっていた。


「僕であれば、バルドラント王国を滅ぼせるかも知れない……か。マリアは僕にバルドラント王国を滅ぼさせたいのかな?」


 そんな風に考えているとセシリアとフィーナが家から出てくる。


「ご主人様の部屋はかなり壊されていましたが、私達の部屋は余り荒らされてはいませんでした。置いてあるのがタンスとベッドくらいで中にあるのも衣服位しかありませんでしたから、ただ、マリアの部屋に衣服は無かったのですがどうしましょうか?」


「ああ、それはこの魔法袋に入っているみたいだよ」


 僕は日記帳だけを自分の魔法袋に入れてマリアの魔法袋を渡す。


 そして、僕がいては邪魔だと思ったので今度は家の中に入る。家の中にあった物は机などは壊され、食材などが入っていた魔法袋などは無くなっていた。部屋に置いていた鍵付きの箱は壊されて中身だけを持ち去ったようであった。


 そうして、一廻りして家を出るとカルラとラントが一緒にこちらに向かってきた。


「あ、ご主人、どの貴族が来たのかはこのラントが説明してくれるみたいだから、あたいはカルラの方に行ってくるよ」


 そう言って、カルラはセシリア達の方へと向かって行く。


 ラントは僕の顔を見て悔しそうな、そして申し訳なさそうな顔をしていた。


「フレイ、すまない。マリアを助けることが出来なくて」


「うん、まあ、マリアはそっちに行くつもりは最初から無さそうだったけどね。それで、どの貴族が来たのかな? やっぱり、最初に言っていたバイルズ公爵で良いのかな?」


「ああ、まあ、来ていた貴族はバイルズ公爵の野郎だったな。それは、良いんだかな。問題はそいつが護衛に連れてきた奴なんだ」


 ラントは何故か言いにくそうだった。


「子飼いの冒険者が思った以上に大物の冒険者だった?」


「いや、そうじゃない。あいつは子飼いの冒険者と一緒にバルドラント王国の騎士団長を連れてきていやがった」


「騎士団長って言うことは、聖武具グングニルを持っているというバルドラント王国最強の騎士?」


「そうだ、奴がいたせいで誰も手を出せなくなった。聖武具を持った者には聖武具を持った者にしか相手は出来ない。持たない者が向かうのは自殺行為だ」


 悔しそうにラントは言う。


「この街にそんな騎士団長が入るのが許されたね? 本来、ファールン王国側がそれを許さないんじゃないかな?」


「今回は公爵って言う王族の血縁関係の護衛という事らしい。公爵の来た理由は犯罪者がいると聞いてきたとか言っていたな。今は噂でしか無いが噂があると言うことは疑わしいっていうことで、今回はその確認と調査のためにわざわざ来たんだとよ。街の者や他の冒険者には手を出されない限りは手を出さないと誓約までしたらしい。だから、許可が下りた。しかも、滞在日数は3日だけという条件すらも受け入れていたな」


「3日か、もしかして公爵達はもうこの街から離れた?」


「ああ、証拠が見つかったといってな。一昨日には引き上げていたよ。今度は犯罪者を捕まえるために来ると言っていたな」


「そうか、うん、ありがとう。流石に騎士団長なんてのが来たら誰も助けられないし、マリアも逃げられなかったか。さて、どうするかな」


「悪いがファールン王国には迎えられなくなってしまった。奴らが用意した証拠だろうがフレイは犯罪者っていう風に決め付けられてしまったからな。ファールン王国で匿うと犯罪者を庇うのかと戦争になる」


 今度は申し訳なさそうにラントは言う。


「ああ、大丈夫だよ。逃げるつもりは無いよ。ただ、僕の家族に手を出したんだからね。その報いは受けて貰わないとね」


「お前、何をするつもりなんだよ」


「今は、秘密かな。まずはマリアを教会に埋葬しないといけないからね。教えてくれてありがとう、ラント。何かするときは教えるよ。だから、刈り取る準備だけは忘れないでね」


 そう言って、僕はセシリア達の方へと向かう。そんな僕をラントは何か怖い物を見たような顔をして見送っていた。

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