第120話
ダンジョンから戻って来てギルドへと向かう。ギルドに入ると何故か他の冒険者が僕達の方を見た。
「すいません、魔石を買い取って欲しいのですが」
僕が受け付けのお姉さんに話しかける。
「あ、フレイさん貴族の恨みでも買いましたか? 最近になってフレイさんの家を嗅ぎ回っている人がいるみたいなんですよ」
「それは僕の家なのですか? 心当たりは無いですけど……」
「なるほど、では恨みでは無くフレイさんと一緒にいるセシリアさんが目当てなんでしょうね。街で、エルフの奴隷について聞いて回っている男達がいたみたいです。この街でエルフの方は一人もいませんし、まして奴隷となるとセシリアさんしかいませんから」
どうやら、エルフの奴隷がこの街にいると言うことで聞いて回っている者がいるらしい。
「この街にも奴隷商がありますよね? そちらにエルフの奴隷がいるのでは無いですか?」
「この街にも確かにありますがエルフの奴隷はいないと思いますけどね。普通、エルフの奴隷を買える位のお金持ちは貴族や大商会の人位ですね。この街ではエルフの奴隷を買えるようなお金持ちは少ないですから、わざわざこの街の奴隷商にエルフの奴隷を連れてくることは無いでしょうね。そもそも、エルフ族の人が森の中で隠れて生活されていますからね。人族の街に来ることがありません。たまに、商人や貴族が人々に見せびらかすために連れて歩いている位ですよ」
「なるほど、エルフ族の人を町中で見ないのはそう言った理由があるんですね。エルフ族の人は魔法の扱いが上手いからダンジョン攻略には向いているだろうにもったいない。エルフ族は人族が恐ろしいから森の村から出ないんですね」
「ドワーフ族の人は結構街にいらっしゃるんですけどね。戦士としても優秀で、鍛治をしても優秀ですからね。エルフ族の美しさが人を引きつけてしまって、バルドラント王国ではエルフ狩りが起こってしまうんですよね。ただ、ファールン王国では違うんですよ。あそこは、人族もドワーフ族もエルフ族の人も、皆協力して生きています。ファールン王国でも奴隷はいますがそれは罪を犯した者だけだそうです。帝国と戦うためには全種族が協力しなければならないと3代前の国王が言ったらしいです。そのためなのか、貴族が奴隷を持つ場合は王宮に人数と名前を登録しないといけないらしいですよ」
受け付けのお姉さんがファールン王国での奴隷事情を教えてくれた。
「ファールン王国ではエルフの方が街に買い物に来ることも、冒険者パーティーを組んでダンジョンに行くこともあるらしいですよ。流石に、この街のダンジョンに来ることは無いんですけどね」
受け付けのお姉さんが苦笑いをして言う。
「そのエルフの奴隷を探すのは僕を探す為なのか。それとも、エルフの奴隷が目的なのか。流石に分かりませんね。教えて頂いて、ありがとうございます」
「いえいえ、ギルドとしても優秀な冒険者パーティーに何かあっては困りますから。ただ、今回は貴族が関わっていそうなんですよね。本来この自由都市マルンに貴族は入っていけません。それでも、貴族の使いと思える人が聞き込みをしています。その場合は何かしらの理由を付けてこの都市に入ろうとするんです。その場合はギルドは関われません。前に貴族を殺したという理由で、ある冒険者パーティーを捕まえに来た事があります。その冒険者パーティーは、全員捕まってしまったのです。しかし、後日この街の冒険者が密かに確認したところ、貴族がその冒険者パーティーの一人の女性に目を付けていたみたいでして、その女性は貴族の奴隷になっていたそうです。他のメンバーは全員処刑されていたのだとか。もちろん、貴族が殺された何て言うのも真っ赤な嘘だったそうです」
「そういう話を聞くと、今回のエルフの奴隷を聞いている貴族の目的が分かりますね」
「十中八九、濡れ衣を着せてセシリアさんを自分の奴隷にすることでしょうね。ただ、ギルドや街の門番は、それが本当かどうかが分かりません。かなり前になりますが、バルドラント王国のベルン伯爵領で奴隷による反乱があったらしいです。どうやら、ベルン伯爵が外出中に死んだのが原因らしいのですが、伯爵を殺したのがフレイという者だという噂が最近になり広まっているらしいです」
「最近ですか?」
「はい、本当にここ2ヶ月前くらいからですね。バルドラント王国ではかなり広がっているらしいです。ベルン伯爵が死んだと言われるのが1年ぐらい前のことなのにですよ」
「その噂を流したのはどの貴族等は分かっているのですか?」
受け付けのお姉さんは首を振る。どうやら、どの貴族が流したのかは分からないらしい。
「嘘の噂を流して、国民にあたかもそれが本当の事のように思わせるのは貴族の常套手段です。しかし、例え嘘と分かっていても、この街の門番も代官も貴族をこの街に入るのを止めることは出来ないと思います。ギルドもお手伝いできることは無いと思います。申し訳ありません」
「いえいえ、気にしないで下さい。これからの事は家に帰って皆で相談してみます。最悪、ファールン王国側に入国って出来ますかね?」
「それも、無理だと思います。嘘の噂とは言え貴族を殺したかも知れない者を入国させては戦争になるでしょうから」
「分かりました。あ、それと魔石と素材の買い取りをお願いします」
「あ、はい」
受け付けのお姉さんに魔石等を渡してお金を受け取る。ギルドを出て行こうとする僕達を遮るように前に立つパーティーがいた。ラントのパーティーだった。
「フレイ、もしお前がファールン王国側に入国したいというなら出来るぞ。俺はAランクの冒険者だからな。推薦状は書いてやれる。どうする?」
ラントは、いきなりファールン王国に来いと言ってきた。
「受け付けのセーラから聞いただろう。貴族がお前を狙っているってな。しかも、嘘の噂を流して念入りに準備までしてやがる。その貴族にとっての目的はお前の奴隷のセシリアだろう。この街の代官も冒険者も商人だって、それが狙いだと知っている。セーラは戦争になるなんて言っていたが、例えファールン王国側に行っても戦争にはならないだろう。嘘の理由でこの街の冒険者を捕まえたことがあるからな。因みに、その時の貴族は偽の情報で冒険者を捕まえたのが広まって貴族位を失ったらしいがな。だから、その負い目をバルドラント王国側は持っている。しかも、今回の噂はベルン伯爵領の反乱が終わってから1年経っている。それだけ経っているのにその時には噂にならずに今なるなんておかしな話だ。だから、今のうちにファールン王国側に行けばその貴族もそれ以上は追求は出来ないだろう」
「でも、それって逃げてるような物だよね。僕は逃げるつもりは無いかな」
「相手は貴族だぞ。その国では白でも黒になるんだ。お前、このままだと殺されるだけだぞ!」
「大丈夫だって、心配してくれるのは嬉しいけどね。大丈夫、僕は死なないし、セシリアを渡すつもりは無いよ」
「お前……、馬鹿なのか」
ラントは呆れたようにそう呟く。
「もし……、もし、僕の奴隷のいや、家族を誰か一人でも殺されたなら、例えそれが国であっても僕は滅ぼすよ。僕はとても我が儘だからね」
「それは我が儘なのか? まったく、逃げれば良いのによ」
「貴方は逃げる事が多いですよね」
ラントの後ろにいるパーティーメンバーのシャーリーが呟く。
「うるせえ、まあ、分かった。何かあったら頼ってくれ、何時でも力になるからよ」
「まあどうしようも無くなったときは頼らせて貰うよ」
僕はラントに挨拶してギルドを後にしたのだった。ギルドを去って行く僕の背中をラントは悲しそうに見つめていた。
「死ぬなよ、本当に、頼むぜ。帝国に勝つにはお前が必要だからな。いつか、必ずファールン王国に来て貰うからな。帝国に勝つためにも……」
ラントは誰にも聞こえない声でそう呟くのだった。