第115話
新居に移ってから次の日の朝食の時に皆とこれからの事を話し合う。
「このマルンで家を手に入れるという目標は達成出来たから、次の目標のダンジョン攻略を進めて行こうと思う」
「ここのダンジョンは攻略までする予定ですか?」
「そこなんだよね。ここって、階層が50以上あることが分かっている上に、まだ終わりが見えないみたいだからね」
そこまで深いと言うことは攻略するのにどれくらい掛かるのか分からないだろう。下手をしたら数年かかるかも知れない。それだったら他の聖霊のダンジョンに行くのも良いのかも知れないとも思うのだった。
「昔に聞いたけど、ここのダンジョンは深い階層に行くほどに広くなるらしいから40階層に行くだけでも数週間は掛かるって聞いたことあるよ」
カルラがそんな事を言ってくる。
「そうなると、ちょっと面倒だね。下手すると50階層に行くのにも1ヶ月以上掛かる事もあるってことじゃないか。それだけの食料も用意しないといけないとなると大変だね。ダンジョンの中でどれだけ食べられる物が手に入るかも調べないとダメかな。うん、これから3日間は準備の時間に充てよう」
「分かりました、それでは今日はどうしますか?」
「昨日は家を買ったことに浮かれていて武器屋に行ってなかったから、今日は行かないとね」
「そう言えば、ご主人様の武器を研いで貰っていましたね。後、私のショートソードもですか。昨日には出来上がっていたはずですが忘れていましたね」
セシリアも僕と同様に忘れていたらしい。
「あたいもご主人の行った武器屋に行かせて貰ってもいいかい? もし腕が良いのならあたいの武器も新調したいんだよね」
「あ、なら私も行きたい。私の槍も新調したいかも」
「家には貴重な物は置いていないから、皆で行こうか」
皆で一昨日にセシリアと一緒に行った武器屋へと向かう。
「お待ちしておりました。フレイ様、ガントンより武器の方をお預かりしていますよ」
前回対応してくれたライトが店の奥からミスリルの剣を出してきた。僕をそれを手に取ると鞘から引き抜く。それは、新品に近い状態にまで綺麗に研がれていた。そして、セシリアもラントからショートソードを受け取っていた。その剣は魔鉄よりもさらに丈夫な魔鋼で出来ていた。
「これで値段はいくらしますか?」
「ミスリルの剣の研ぎ代が金貨10枚、魔鋼のショートソードで金貨100枚になります」
僕はそれを聞いてお金を払う。そして、今日はガントンがいるのか聞いてみる。
「ガントンですか? はい、本日も居りますよ。連れてきましょうか?」
「はい、お願いします」
僕がお願いすると店の奥へとライトが向かって行く。そして、少し経ってからガントンと一緒に戻って来た。
「おう、兄ちゃん。どうだった、儂が研いだその武器は、お嬢ちゃんの武器も中々の物だと思うぞ」
「あ、凄い剣ですよね。魔力を込めると軽くなりましたけど、これはいったい?」
「ああ、お嬢ちゃんは見た目通り余り力は無いだろうと思ってな。軽量化の効果を剣に付与していたんだ。付与は儂等ドワーフ族の得意技術だからよ。どうだい、振りやすいだろう」
「はい、とても振りやすいです。ありがとうございます」
セシリアが頭を下げてお礼を言う。
「僕の方も凄いですね。新品同然の仕上がりになっているじゃないですか」
「だろう。その剣を見たときに儂はまだまだ上があると知れたからな。負けないように頑張らせて貰った。儂の夢は聖剣並の武器を作る事じゃからな。まずはそのミスリルの剣に負けないような剣を作りたいのう、それで、今日はどんな用事なんだ」
「実は僕の他の仲間の武器も作ってもらいと思いまして、どうですか?」
僕はカルラとフィーナをガントンの前に押し出す。そんな2人をガントンはじっくりと見る。
「ほうほう、お前さん仲間に恵まれているな。ちゃんと鍛えられている。なら、その魔鉄製ではそろそろ限界じゃろう。良いぞ、作ってやろう。ただ、明日には無理だな。明後日までには作っておく」
「流石は、ガントンさん、よろしくお願いします。お礼として、ガントンさんが目指す物をお見せしますよ」
「はっ、儂の目指すのは聖剣並の武器だ。そんな物は各国の騎士団ばかりが持っていて冒険者が持っている物じゃないぞ」
「大丈夫ですよ。聖武具より上の武具ですから」
僕の言葉にガントンが少しの間呆けた後に大笑いをする。みるとライトも呆けた顔をしていた。
「わっはっはっは、面白いことを言う。もし、それが本当ならお嬢ちゃん達の武器はタダで作ってやる」
「ただ、こんな他の人がいる場所では見せられませんけどね」
「ふむ、なるほどな。なら、奥の儂の鍛冶場に案内しよう。ライト、いいか? お前さんも見たいんじゃろう」
「もちろんです。そんな武器があるなら是非見てみたい」
ライトも興奮したように言う。
「じゃあ、ちょっと、奥に行ってくるからセシリア達は待っておいて」
「わかりました」
僕はガントンとライト一緒に店の奥に向かう。
「ここが儂がいつも使っている鍛冶場じゃ」
ガントンがいつも使っているという鍛冶場へと案内される。案内されている最中にも他にも鍛冶場があり、そちらはガントンの弟子達が使っているということだった。
「さあ、早速見せて貰おうか。聖剣以上の武器というのを」
興奮したようにガントンが催促してくる。ライトも口には出さないが目を輝かせていた。僕はそれを見て苦笑いをしつつ魔法袋から神剣を取り出す。
「こ、これは、まさか、し、神剣と呼ばれるもでは無いのか。この神々しさ、感じる力は儂が前に見た聖剣とは全然違う。なるほど、これが儂の目指す頂きなのじゃな」
ガントンがそれを見て目を見開いて顔を逸らせないでいた。
「これが神剣ですか。これを売りに出せば一体いくらになるのか」
ライトは商売人としてなのか売る事を考えていた。
「あの、流石にこれは売れませんよ。神剣として使う事は僕にしか出来ませんから」
「あ、いやいや、流石に売ってくれ何て言えませんよ。所で、これは何処で手にいれたのですか? もし良ければ教えてほしいのですが…」
「欲しいなら、死の森の中心にある試練のダンジョンに行けば良いですよ。ただ、聖霊のダンジョンと違い一番奥にいるボスを倒さないといけませんけどね」
「死の森ですか。それは無理そうですな」
ライトが肩を落とした。
「ガントンさんは聖剣を見たことがあるんですね」
「おお、あるぞ。ファールン王国の聖剣を見せて貰ったことがな。儂は昔、ファールン王国の王都で鍛冶屋をやっていたからな。昔は帝国が攻めてくることが少なくて、鍛冶屋の仕事も暇な時間が多くてな。そこを弟子に任せてダンジョンのあるこの街にやって来たというわけだ。ここなら、存分に腕を振るえるし、バルドラント王国側の武器も見ることが出来るのでな。一石二鳥というわけだ」
ガントンはがっはっはっと豪快に笑う。
「その時見た聖剣が忘れられずに、今も剣を作っておる。いやはや、良い物を見せて貰った。お嬢さん達の武器は言ったとおり無料で作ってやろう。代金は気にするな。そこのライトと儂で折半するからな」
「え、私もですか。そんな事、聞いていないんですが」
「良いでは無いか。本来は神剣なぞ、一生のうちに見ること等出来ない物を見せて貰ったのだ。それ位は良いでは無いか」
「貴方は武器にご執心ですから良いかもしれませんけどね。私は違うんですよ…。はあ、分かりましたよ。半分は私が持ちますよ」
ライトさんが頭を掻きながら言う。
「あの、ちゃんとお金は払いますよ。お金に困っているわけでは無いですから」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それに、この人は言って聞かない人ですし、約束は何が何でも守ろうとしますからね」
「じゃあ、儂は仕事をするからな。お前さん等は出て行った出て行った」
ガントンに鍛冶場を追い出されて店内へと戻ってきた。セシリア達は店内にある武器などを見ていた。僕はセシリア達に声をかけて、改めてライトに挨拶をして店を出る。
店の外では何故か男が数人ボコボコにされて転がっていた。僕はそれを気にせずに家へと帰るのだった。男達の悔しがる視線を背中に感じながら……。