第114話
受け付けのお姉さんに紹介された屋敷は元々はファールン王国の大貴族の別荘として建てられた屋敷だったらしい。マルンがバルドラント王国とファールン王国とで取り合っていたときにその大貴族のバルドラント王国側との密約が見つかったために改易されてこの屋敷が手放されたとのことだった。
中に入ってみるとその広さに驚く。部屋の数も10以上あり、炊事場だけでは無く風呂場まで作られていた。庭も広く、訓練をするのにも十分だろう。
「流石は元貴族の屋敷だね。お風呂場まで付いているのは嬉しいかな。ここから、公衆浴場は遠いから家で入れるのは嬉しいね。他の人に気を使わなくてもいいし」
「そうですね、公衆浴場ですと余り長くも入っていられませんし」
僕の言葉にセシリアが同意を示した。
「お気に召しましたか。この物件が値段が高いために売れ残っていて維持費がギルドに取ってちょっときつかったんですよね。買って貰えると助かります。本当にお願いします」
受け付けのお姉さんがギルドの裏事情も話してきて、必死さが見えてきた。
「因みに、この屋敷は値段はいくらなんですか?」
「あ、言っておりませんでしたね。この屋敷は大金貨で1500枚になります。予算が大金貨2000枚とおっしゃっていたので、絶対に満足して貰える屋敷をと思い、ここを選びました」
受け付けのお姉さんが力強く言ってくる。屋敷としては広さもありお風呂も炊事場もあるので十分であった。
「分かりました。それでは、この屋敷を買わせて下さい」
「本当ですか。ありがとうございます。本当に助かりました。両国の貴族はこの街が自由都市になってから混乱を起こさないように屋敷を持つ事を禁止してから、こういった貴族の屋敷が売れ残っているんですよ。商人も貴族が買えないので売れるかどうかも分からないと所有しようとしないのでそのほとんどを冒険者ギルドに押しつけられている次第何です。なので、チャンスがあれば売らないといけないんですよね。さて、流石にこの場でお金のやりとりは出来ないのでギルドの方に戻りましょう」
そして、ギルドに戻りお金を払い書類にサインをする。
「これで、あの屋敷はフレイさんの持ち家になりました。それと同時にフレイさんはこの街の住人として登録されましたので毎年の税金が掛かります。金額は毎年金貨5枚になります。支払いはギルドでも大丈夫ですのでお願いしますね。今日はこれからどうされるんですか?」
「少しだけ、ダンジョンの方に行こうと思っています。ダンジョンに行くのに何かありますか?」
「ダンジョンの入り口はこの街の西側の扉から出たら一本道ですので迷うことは無いと思います。階層の浅い方でしたら日帰りも出来るでしょうが余り実りは無いと思いますよ」
「大丈夫です。今日はただの雰囲気を感じるために行くだけですから、深い階層にはちゃんと準備してから行きますよ」
「あ、それとフレイさん、私の名前、リータと言います。今後、フレイさんの専属の担当になると思いますのでよろしくお願いします」
「分かりました、よろしくお願いしますね」
僕はリータさんに頭を下げてギルドを出てダンジョンに向かうために西門へと向かう。
「ご主人様、これからダンジョンに向かうんですか?」
「そうだよ。まあ、1,2時間程探索して戻る予定だからね」
「家の中の整理をするのでは無いですか?」
「しても良かったんだけどね。あそこ、ゴーストいるよね」
僕の言葉にセシリア達が言葉を無くしたようだった。フィーナだけはよく分らないと言う顔をしていたが…。
「え、あの屋敷にゴーストいたんですか。気付かなかったです」
「ゴーストって魔力の高い人族が恨みを持ったまま死んでなるって言う魔物だよね。しかも、ちょうど死んだときに魔石なり魔力だまりが無いとゴーストの様な魔物に成らないって聞いたことあるけど」
「ゴーストに成るぐらい恨みを持つことも珍しいけど、そう言った人が死んだときに魔石があるのも珍しいね。ただ、今回は貴族の屋敷だったところだからね。貴族が魔石を買うことはあるよね。しかも、強い魔物の魔石は他の貴族の自慢に成るから高いお金を出しても買うよね」
「魔石はあったかも知れませんけど、それで、ゴーストに成るぐらい恨みを募らせますか?」
「そこは憶測しか無いけどね。あそこの屋敷の貴族は国を裏切ろうとしたんでしょ。その関係で恨みを買うことはあるんじゃ無いかな。まあ、憶測でしかないけどね」
セシリアもカルラもなるほどと頷いていた。
「それで、どうするのですか? ギルドに文句を言いに行きますか? と言うか、ギルドはゴーストの事は知らなかったのでしょうか?」
「知らなかったかもね。ゴーストは昼間に姿を現すことは出来ない。だから、手入れを昼間にしかしてないんだったら気付かないなんて事もあるだろうね」
「あたいはあったことは無いけど、ゴーストってどうやって倒せば良いんだい?」
「ゴーストは光魔法が弱点だね。《光魔法プリフィケイション》が一般的だよ。ゴーストなんて目にすることが希だからそういう魔法があることを知っている人は少ないかも知れないね」
「ご主人はもちろん使えるんだよね?」
「もちろん使えるよ。一応、教えられたからね。まあ、ゴーストは帰ってから夜に対処しよう」
そうして、僕達はダンジョンに向かう。今回は時間つぶしが主な理由であった為に適当に狩りをする。このダンジョンでも低階層ではゴブリンやオークぐらいしかでなかったので夕暮れの時間ぐらいまで狩りをして街へと戻る。
外で食事を終えて、暗くなってから家へと戻る。家の鍵を開けて中に入ると寒気を感じるくらいの風が僕達を包み込む。
「早速、お出ましみたいだね。僕の側から離れないようにね。ゴーストは剣で切れ無いから見ていれば良いよ」
嘆きの様な叫び声が響いたと思った瞬間、階段の上に血の涙を流した身体の透けた男が現れたのだった。
「憎い、憎い、憎い、憎い!」
そのゴーストはただ、憎い憎いと言って空を飛んでこちらへと向かってくる。
「貴方を殺した人はもうここにはいないし、ここはもう僕の家なんだ。どれだけ人を憎んでいるのか知らないけど、もうその人も貴方も許されて良いと思うよ。《光魔法プリフィケイション》」
光がゴーストを包み込む。それでも、ゴーストはこちらへと向かってこようとするが光の壁に阻まれてこちらへと近づく事が出来なかった。徐々にゴーストの身体が崩れていく。崩れていくゴーストの顔を僕は真っ直ぐに見つめる。ゴーストもこちらを真っ直ぐに見つめていた。その身体が顔だけになったときに何故かフッと笑ったように見えた。そして、最後は目を閉じてゆっくりと消えていった。
「まあ、こんな物かな」
僕は皆に振り返って言う。
「これで、この家にゴーストはもういないのでしょうか」
「気配は感じないからいないだろうね。それじゃあ、部屋を決めてお風呂に入って今日はもう寝ようか。寝具は前の物を魔法袋に入れてきたから大丈夫だし」
「ねえ、お兄ちゃん」
フィーナが突然話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あのゴーストって恨みを持ったまま死んだ人が成った魔物なんだよね?」
「そうだよ」
「ふーん、そっか」
フィーナはそれだけ呟くと部屋を決めるために2階へと向かって行った。
「どうしたんだろう」
僕が不思議に思い呟く。それにマリアが応えてくれた。
「お嬢様はご家族の方のことを思ったのでしょう。バルドラント王国に恨みを持ったまま死んだはずです。もしかしたら家族がゴーストに成っているのかもと思ったのでしょうね。それで、先程のゴーストと家族を重ねたのだと思います」
「まあ、可能性はあるかもね。滅んだ国の王城などではゴーストが溢れることがあるって本で見たからら」
「そうなんですね」
僕とマリアは階段を上っていくフィーナを見つめるのだった。