第111話
人々が向かっている方にセシリアと一緒に向かう。そこでは、柄の悪そうな冒険者とカルラ達がいた。
「ちょっと、付き合ってくれって言っただけじゃねえか。どうせ奴隷なんだからご主人様と毎日良いことしてるんだろう。それを、俺達にも分けてくれって言ってるだけじゃねえか」
「そうそう、楽しみは皆で分け合わないとな」
冒険者達は酔っているのか赤い顔をしてそんな事を言っていた。そんな冒険者を相手にマリアを庇うように前に立っていた。マリアの方はただ静かに相手を睨み付けている。フィーナはどうしたらいいのか分からないと言う風にカルラの服を掴んでいる。
「これって、どういう状況なんだろう?」
僕は隣にいるセシリアに聞く。
「さあ、私には分かりかねますけど、見た感じでは冒険者の目的はマリアっぽいですね」
僕は近くにいた最初から見てそうな人に話を聞いてみる。
「この騒動かい。あの、酔っ払いの冒険者達が露店を見ていたあのメイド服の姉ちゃんに声をかけたんだけどさ、あの姉ちゃんがそれを無下に断ったのさ。まあ、酔っ払いの相手なんて誰もしたくないからな断るのは普通だけどな」
「ただ、あいつらは最近ダンジョンに行かずに酒で暴れてる事が多くなっていて、街では厄介者の冒険者になってきたな。昔はそうでも無かったんだけどな。まあ、仲間が死んじまってやりきれないっていうのはあるんだろうけどな。そうはいっても、やり過ぎてるけどな」
親切にも教えてくれた人にお礼を言い。さて、どうしようかと考える。
「冒険者同士の喧嘩も御法度なんだよね。僕が出て行って収まるのなら出て行くんだけどな」
「それは逆効果かも知れませんね」
「そうだよね」
セシリアが冷静に言い。僕もそれに頷く。
「なあ、君達はこの街では冒険者同士の喧嘩は御法度なのは分かっているよな」
「ああっ、誰か知らねえが引っ込んでろ。これは喧嘩じゃねえ」
「それでも、その女性達は困っているようだけどね。断られたのなら引くのが男じゃ無いのかな?」
若く優しそうな冒険者の男が声を荒げている男達に注意する。
「外野は黙って見て……あっ、ラント……さん」
どうやら、声をかけてきた優しそうな男は昨日宿で聞いたファールン王国側の一番強い冒険者のラントらしい。
「君が冒険者仲間の1人をダンジョンで無くして、落ち込んでいるのは知っている。だけど、酒を飲んで暴れて他の人に迷惑をかけるのはダメだろう」
「うっ…、すいません。何か、こっちは、悲しいのに笑っているのが癪に触ったっていうか。むかついたっていうか」
「彼女達は見たことが無いから最近この街に来たんだろうな。で、俺は見ていたけど、彼女達が買い物をしていたところに絡んでいたようだけど?」
男達はばつの悪いように顔を逸らす。
「まあ、その…見たら奴隷だったみたいだから…つい」
「いや、それは余計ダメだろう。奴隷を好きに出来るのはその主だけというのは全国の共通の決まり事だろう」
「あ、はい、すいません」
男達がラントに頭を下げる。
「俺に謝っても仕方ないだろう。彼女達にちゃんと謝らないといけないと思うが」
「あ、はい。姉ちゃん達、すまなかった」
男達は謝ると頭を下げてその場から離れていった。
「君達、すまないね。あいつは最近、仲間を失って荒れていたんだ。無くす前はパーティーメンバーを引っ張って行く良いリーダーだったんだけどな」
ラントは懐かしむように去って行く男達を見つめる。
「ところで、君達は今、暇してるのかな。良ければ俺とお茶でもしない?」
「あ、あたい達はこれからご主人と合流しないと行けないから」
「ああ、そうなのか。それは残念だ。なら、俺はこれで退散しよう。それじゃあ」
ラントが手を振って去って行く。それに伴い、野次馬達も離れていった。
「あの男、ラントって言われていた。ファールン王国側の最強の冒険者……」
「カルラから見て、あの男はどう見えた?」
去って行くラントを見ていたカルラに向かって僕は近寄って声をかける。
「あ、お兄ちゃん、見てたんだ」
「ご主人、あの男は強いと思う。でも、ご主人よりは流石に強くないよ。神剣持ちのご主人と比べたらいけないかも知れないけどね」
「流石に神剣を持ち出したらダメだろうけどね。カルラから見て対象として僕を挙げたということは強いって事だね。ところで、フィーナはカルラの陰に隠れてたみたいだけどそれには何か理由があるの?」
「あ、うん、あのね。あの人、昔、お城にいたときに見たことがあったの。同じ人かは分からないけど、でも、何か見られるのが恥ずかしかったの」
フィーナはラントに姿を見られるのが恥ずかしくてカルラの後ろに隠れていたらしい。
「マリアは、あのラントっていう冒険者を見たことあるの?」
「いえ、私は見たことは無いですね」
マリアはフィーナ付きのメイドであったがラントを見たことは無いらしい。
「ところで、ご主人、見ていたのなら助けてくれても良かったのに」
カルラが見ていただけで助けなかった僕に文句を言う。
「僕が出ると、絡んでいた冒険者が余計に暴走すると思ったんだよね。何せ、僕達はこの街に来てからまだ1日しか経っていないから誰も知らないからね。ま、無事に済んだからご飯を食べに行こうか」
カルラとマリアは納得した顔をしていなかったが、僕は話を切り上げる。そして、皆を連れてお店を探すために歩き出す。
歩き出したフレイ達の姿を少し離れた所からラントはパーティーメンバーと一緒に眺めていた。
「あれが、報告にあったフレイか。聖霊のダンジョンに行っていたっていう」
「どうしますか、ラント?」
「今は様子見をしよう。バルドラント王国の貴族が動いているらしいから」
「分かりました。所で、兄君には知らせないで良いのですか?」
「何を?」
「フィーナ様の事です。兄君の奥方はフィーナ様の姉君ですけど……」
ラントは少し考えて首を横に振る。
「いや、今はやめておこう。もう少し仲良くなってからだね。どうも、彼女は奴隷みたいだから。しかも、それを嫌がっているわけでも無さそうだ。下手に報告したら大事になりそうだ」
「分かりました」
パーティーメンバーが黙るとラントは頷き、フレイ達とは反対方向へと向かって歩いて行くのだった。