第110話
自由都市マルンへ着いて宿に休んだ次の日に街を皆で散策する。
「今日は午前中は街の中を見て回って、昼になったらギルドに行ってセシリア達の冒険者登録をしておこう。今日はダンジョンには行かないからね。フィーナも勝手に行かないようにね」
「何で私にだけ言うの?」
フィーナが怒ったように言う。
「最近のフィーナは強くなったせいか一人で危険に突っ込んで行きそうだから」
最近は強くなった為かオークの時以外にも魔物を見ると真っ先に向かって行くことが多くなった。ダンジョンの最初の方の階層では大丈夫だろうけど危険なのは魔物だけでは無い。ダンジョンには悪さもする冒険者もいる。並の冒険者ならば大丈夫だと思うが、相手はずる賢い冒険者だとどうなるから分からないので一応、釘を刺しておく。
「ダンジョンには明日以降行くんだから今日は行かないようにね。じゃあ、2手に分かれて街を見て回ろうか」
そして、僕とセシリア、カルラとマリアとフィーナの2手に別れて街を見て回る。この組み合わせは僕以外の皆に押し切られた。
「じゃあ、行こうか。セシリアは何処か行きたい所はあるの?」
「え、えっと、それでは、そろそろ、新しい服が欲しいかなって、ダメですか?」
セシリアが何故か恥ずかしそうに言う。
「良いよ。じゃあ、服を見に行こうか。誰かに聞いてお店に行こうか」
歩いている人に聞いて服を売っているお店へと向かう。そして、2時間程、服を喜んで選ぶセシリアを見ながら過ごす。
(ああ、うん、これはきついかも)
そして、選んだ数着を買い店を出る。その後に、僕の希望で武器屋へと向かう。
「ご主人様、武器ならミスリルの剣がもうすでにあるのに見るのですか?」
武器屋に向かう僕にセシリアが聞いてくる。
「僕のミスリルの剣も自分で研ぎをしながら使っているけど、そろそろ、本場の鍛冶屋に研いで貰いたいんだよね。ただ、ミスリルの剣は魔力を使って研がないといけないからね。そう言う、鍛治士は余りいないんだよね。ドワーフの人なら魔力を持っているから良いんだけどね。人族の場合は魔力を持っていてもそれを使えていない人も多いから」
「ミスリルの剣は余り研ぐ必要が無いとも聞いたことがありますけど、それでも、研ぐ必要があるんですね」
「ミスリルの剣は魔力をしやすい為なのか。その剣の表面に魔力の膜を作るからね。だから、血や脂が刀身に付きにくいから余り研ぐ必要は無いんだけどね。ただ、それでも、使い続ければ魔力が減るし、魔力が減れば刀身の魔力の膜も薄くなる。そうなれば、血や脂も刀身に付く。後は魔物って大なり小なり魔力を持っているせいか魔物の血や脂って魔力の膜を破るのもいるからね。だから、ミスリルの剣だからと言っても研ぐのは必要だよ。魔力を込めて研がないといけないのは、その魔力の膜が血や脂に付着したまま刀身に付いちゃうからだね。血や脂に付いた魔力の膜を剥がしてからじゃ無いと血や脂が取れないんだよ」
「そう言う物なんですね。ご主人様はそういうミスリルの武器の特徴は誰に聞いたんですか?」
「それは、僕の生まれたハイエルフ族の村でおじさんに聞いたんだよ。流石に、書物には載っていなかったな。ハイエルフ族の村ではミスリルを使った武器があったんだよ。本当なら、村を出るときに選別として貰えるはずだったから、手入れの仕方を教わっていたんだけどね」
「あ、その、すいません」
セシリアが謝る。ハイエルフ族の村での事は話しているので思い出させるような事を聞いたので謝ったのだろう。僕としては気にしていないのだけどね。
「だから、研ぐ必要があるから武器屋に行かないとね。後は、セシリアの矢の補充は出来るときにしとかないと行けないからね」
「そうですね。私の矢はどうしても消耗してしまいますから」
そして、二人で武器屋に向かう。
到着した武器屋に入る。武器屋はかなりの広さがあり、棚には種類ごとに武器が置かれていた。
「こういう風に武器が置いてあるのって珍しいね。ただ、置いてあるのは鋼や鉄が多くて、魔鉄製は無いのかな?」
僕が店に置いてある武器を見て呟く。それを聞きつけたのか店員がやって来た。
「当店のこれらの武器は、武器を急ぎで欲しい人や、お金が無い人用ですね。魔鉄製などはそれなりに値段がしますからね。表には出していないんですよ」
店員が説明をしてくれる。
「それじゃあ、魔鉄製の矢が欲しいのとこの剣を研げる人はいますか?」
僕は腰に付けていたミスリルの剣を抜いて店員に見せる。
「ミスリルの剣ですか。お客様はかなり強い冒険者のようだ。ええ、大丈夫です。当店には最高のドワーフ族の職人がいますからね。今、呼んできますのでお待ち頂けますか?」
そう言って、店員が奥に入って行く。しばらくすると、ドワーフ族の男の人と一緒にやって来た。
「儂に武器を研いで欲しいだと。そいつは、儂を納得させるだけの実力でもあると言うんか」
ドワーフ族のおじさんが悪態を付きながら近寄ってくる。そして、僕を近くで見る。
「ほう、ライト、お前さんの目は前から確かじゃったがこいつは格別じゃな。こんな奴はラント以来じゃな」
ドワーフ族のおじさんが店員のおじさんに話しかける。
「そうでしょう。一目見てただ者じゃ無いのが分かりましたよ。この人の武器なら貴方なら喜んで武器を作る事もしてくれると思いましてね」
「ああ、ただ今回はミスリルの武器を研ぐのが仕事だったな。それでも、喜んでさせて貰うがな。儂はガントンという、お前さんの名前は何という」
ドワーフ族のガントンさんが自己紹介をしてくれる。
「フレイと、言います。今回はこの剣を研いで欲しいんです」
ガントンさんに剣を鞘ごと渡す。受け取ったガントンさんがその剣を鞘から抜く。
「ほう、かなり丁寧に研いでいるな。それでも、ちゃんとした設備が無かったのか研ぎ切れては無いな。1日借りても良いか?明日の朝には研ぎ終えている。流石に、今日これからダンジョンに行くなら今度でもいいが」
「いえ、大丈夫です。ダンジョンに行くのは明日からの予定でしたから」
「うむ、なら明日の朝に来てくれ、このライトに渡して置くから取りに来てくれ。研ぎの代金はその時にな。後、そっちのお嬢ちゃん。あんた弓だけじゃなくてショートソードを使うみたいだな。ただ、バランスが悪そうだな。そっちも、明日までに用意しておく」
「え、あ、ありがとうございます」
いきなり、セシリアは振られて戸惑いながらもお礼を言う。
「ライト、今日は他の仕事はもうしないからな。儂に仕事を振るなよ」
ライトさんにそう言って、ガントンさんが店の奥に引っ込んでいく。
「ガントンさんのあんな嬉しそうな顔は久しぶりに見ましたね。あの方は気に入った人の武器しか作りませんし、関わろうともしませんからね」
ライトさんも店の奥に去って行くガントンさんを見て嬉しそうに言う。
僕達はお礼を言って店を出る。すると、何やら近くで怒鳴り声が聞こえる。
「おい、何かあっちで冒険者同士で喧嘩をしているみたいだぜ」
「おいおい、マジか。久しぶりの見世物じゃ無いか」
街の人達が喧嘩しているという方へ走っていく。僕はそれをセシリアと顔を見合わせた後に着いて行ってみることにした。