第105話
中心都市セレティグトで1泊してから自由都市マルンに向けて出発する。結局、中心都市セレティグトでは伯爵は何かを仕掛けてくることはせずに監視だけに留めたようだ。
「結局、伯爵は仕掛けてきませんでしたね」
セシリアが僕にだけ聞こえるように小声で話しかけてくる。
「伯爵も理由も無く仕掛けにくいだろうし、それと返り討ちにされるかも知れないと分かっているんだろうね。前回の息子の時に返り討ちにしちゃっているから」
前回、街を出てから伯爵の息子は僕とセシリアの方へと向かって来た。僕達はそれを1人も残らずに殺した事と、偶然オークの群れが森から来た事により犯人をオークの群れに擦り付けられた。しかし、状況的に僕達が伯爵の息子を殺していることは伯爵も分かっているだろう。
しかし、伯爵の息子が複数の私兵を連れて行っても返り討ちに遭った。さらには僕が冒険者として聖霊のダンジョンに行き実力をさらに付けたと知れば、たとえ自分が領の兵を連れて行っても返り討ちに遭う可能性が高いと分かる。そのために、伯爵は自分で復讐することを諦めた。
「伯爵の事は気にしても仕方ないね。何もしてこなかったのは逆に不気味だけど、僕達からは何も出来る事は無いからね」
「そうですね」
セシリアも今は気にしても仕方ないと思ったのか話を切り上げる。
中心都市セレティグトを出てから2日ほどして街へと到着した。ここはセレティグト伯爵の領地の端に位置する街になる。ただ、中心都市セレティグトと違い発展は余りしていない。僕達は街に着いて宿を取ってから冒険者ギルドへと向かう。僕達が着いた頃には昼頃だった為か冒険者ギルドには人は受け付けの人位しかいなかった。受け付けの人も冒険者ギルドの規模が小さいため1人しかいなかった。
僕達は入るなり依頼提示板を見る。
「依頼は冒険者ギルドに登録の人しか受けられませんよー」
受け付けの人がやる気の無い声で言ってくる。ただ、決まりだからそう言ったという様な声だった。
「大丈夫ですよ。冒険者です」
僕はそう言って、受け付けの人に見えるように冒険者証を見せる。
「まあ、そうでしょうね。でも、この時間だと良い依頼は無いと思いますよ。あったとしても誰もやりたがらない様な物ばかりですね。森の奥に出来たゴブリンの群れの討伐とか、オークの群れの討伐とかぐらいしか残ってなかったかと思いますよ」
受け付けの人が大きなため息をつく。
「しかも、依頼料も普通よりも安いんですよね。それは、小さな村でお願いされた依頼なんですけどね。お金が無いからってそれ位の依頼料しか払えないって言われたんですよ。本来なら冒険者ギルドでは受けられないので領主にお願いしてもらうものなんですけどね。ウチのギルドマスターが人が良すぎて受けちゃったんですよ。まあ、だからといって誰も依頼料には見合わないので受けないんですけどね」
「この依頼どうするんですか?」
「一週間誰も受けなかったらギルドマスターが出向きますので気にしないで下さい」
最終的にギルドマスターが依頼を引き受けるのだと受け付けの人が言った。
「あの、このオークの群れの討伐はその肉と魔石は誰の物になるんですか?」
「オークの群れの討伐の場合はその魔石をその村に納めることによって依頼達成となります。なので、肉については冒険者側の物になりますので持ち帰っても大丈夫ですよ。その依頼ならまだ肉が貰えるので良いんですけど、この街ではオークを倒せる人がギルドマスター位しかいないんですよね」
「なら、このオークの群れの討伐を受けたいのでお願いします」
僕は受け付けに冒険者証と依頼書を持ってお願いする。
「受けてくれてありがとうございます。強い冒険者の人はダンジョンのあるような街に行ってしまうので困っていたんですよね。この依頼はこの街の北側の門を抜けた先に1日ほどあるサイト村からの依頼になります。まずはそちらに行かれて村長から詳しい話を聞いて下さい」
その街で1泊してから北にあるというサイト村へと向かう事にした。
「ねえ、お兄ちゃんどうして依頼を受けたの? 早く自由都市マルンに行きたいって言っていたのに」
「まあ、困っているみたいだったからね。冒険者としてもちゃんと振る舞わないとね。ダンジョンを行っていろんな魔石や素材を持って帰るのも冒険者の仕事なら、こういう困った村の依頼を受けるのも冒険者の仕事だよ」
「うーん、結局冒険者って何をお仕事なの?」
「冒険者は言ってみれば何でも屋みたいな物だよ。街での土木作業の人手が欲しいときなんかも冒険者に依頼があるぐらいだしね。だから、手に職を持っていない人は冒険者になることが多いんだよ」
「でも、私は冒険者登録してないけど良いの?」
「僕が冒険者だからね。まあ、でも、そうだね。皆も冒険者ギルドに登録しておいた方が良いかな。マルンに行ったら皆も登録しておこう」
「おお、楽しみだね」
「別に楽しい事でも無いと思うんだけどね」
フィーナは冒険者になることが何故か楽しいらしい。そして、無邪気に喜んでいるフィーナをセシリア達は嬉しそうに見ていた。