第104話
セレティグト伯爵の館にてその館の主の伯爵は部下からの報告を受けていた。
「それでは、1年程前に私の息子が手を出そうとしていた男が現れたのいうのだな」
「はい、その時に一緒にいたエルフの奴隷だけは無く他にも3人の奴隷も一緒みたいですが」
「ふむ、あの馬鹿息子の身体はオークの群れに食い殺されていた。しかし、その後の報告ではその前に殺されていた可能性が高かったのだったな」
「そうです。確かに、マルス様の実力は弱いですが他の者たちはそれなりにありました。たとえ、オークの群れとはいえ、マルス様を逃がすことぐらいは出来たかと思います。それが、出来なかったと言うことはオークの群れが来る前に死んでいた可能性が高いと思われました」
「まあ、馬鹿息子の死は自業自得だ。それに、公式にオークの群れによって死んだことになっている。それを今更変えることは出来ん。それに、あの馬鹿息子が死んでくれたおかげで平穏に優秀な次男に引き継げるのだからな。だからといって一応、あんな馬鹿でも私の息子なのには変わりは無い。そいつらの強さは冒険者ランク的にはどうなのだ」
「よくは分かりませんが、ゼイル侯爵領で聖霊のダンジョンに行っていたのを確認しています。そして、かなり深いところまで行っていたということです。ともすれば、冒険者ランク的にはBランク、いえ、Aランクに相当するかと思います」
それを聞いて伯爵が渋い顔をする。
「Aランク冒険者だとするとこの領の兵では厳しいかもしれんな。流石に、領の兵が冒険者に全滅させられたと言われては陛下にも言い訳が出来ん。しかし、我が領内にいる冒険者では勝つのも無理であろうな」
「そうですね。流石にダンジョンの深くまで行くような冒険者を相手ですと無理だと思われます。セレティグト領にはダンジョンが無いために強い冒険者はゼイル侯爵領や自由都市マルンの様なダンジョンがある所に行きますから」
「仕方ない。なら、あの好色の公爵に情報を流すか。確か、あの公爵には子飼いのAランク冒険者がいたはずだ」
「それはいいかもしれませんが、なんと言って動かすのですか?」
「ベルン伯爵の話は聞いているか?」
「あの奴隷の反乱があった所ですか?死んだとは言われていますね。死体は見つかっていませんが」
「そのベルン伯爵殺しをそやつがやったと公爵に言うのだ。そして、美しいエルフの奴隷がいることもな。そうすれば、好色の公爵の事だ勝手に動くだろうよ」
「事実など確認せずとも動きそうですね。ご自分の手で始末は付けられそうに無いですがよろしかったですか?」
「構わん、自分の命より大事な物等無いからな。私は息子の敵が討てればそれでいい」
そう言って、伯爵はそう言ってニヤリと笑った。
宿で一泊してから自由都市マルンに向けて出発する。
「自由都市マルンには2つの街を抜けた先にあるみたいだね」
「ご主人様、自由都市マルンへの道を聞いたのですか?」
昨日、オープンテラスで昼食を取ってから各自を自由行動にしたのだ。セシリアとカルラ、フィーナとマリア、そして僕は1人とそれぞれ回った。
分かれた理由は、僕を監視している者がいるのが分かったからだ。露天を巡っているときに視線を感じたので《風魔法ウインドフィールド》を使って確認してみたところ、僕達の後をぴったりと歩いてくる2人組の存在に気づいたのだ。そのために、釣り出すのを目的に1人で歩いた。
僕はギルドで自由都市マルンへの道を聞いたり、道中の食料や香辛料等を買ってから宿へと戻る。結局その2人組は僕の後ろを歩いてくるだけで何か行動を起こすようなことは無かった。
「冒険者ギルドで聞いてきたんだよ。依頼書も見てみたけど、良いのはやっぱり無いね。護衛依頼はいくつかあったけどね。後は採取依頼があったの位かな。まあ、レッドドラゴンの肉の採取依頼があったけどね。それなりの値段だったけどあれじゃあ、無理かな」
「ご主人、レッドドラゴンは帝国側にある火山にしか住んでいない魔物だけど知っているの?」
「レッドドラゴンなら死の森のダンジョンの一番奥で出てきたからね。知っているし、一応、肉もあるよ」
僕の言葉に皆が苦笑いする。
「旦那様が強いのは知っていましたが、因みに、レッドドラゴンの肉は世界で一番美味しい肉と言われています。それを求める貴族や美食家を気取る商人などが採取依頼を出すそうですね。まあ、帝国側にしか生息していないので手に入ることは無いそうですが」
「手に入らないのに美味しいって分かるの?」
「帝国から商人が来ることもありますから、その商人が本当に極々希にレッドドラゴンの肉を卸すそうです。ただ、帝国でもレッドドラゴンと戦うのは死と同義です。レッドドラゴンは数年に一度、住んでいる火山から下りてくるらしいですね。そのレッドドラゴンを沢山の死者を出しながらも倒すそうです。まあ、倒さないと村々や街が焼かれてしまうので倒さないと行けないんですけど」
マリアが説明してくれる。
「ふーん、まあ、帝国の話はどうでも良いかな。でも、レッドドラゴンの肉が美味しいならマルンで家を買ってから食べてみようか。今まではアースドラゴンの肉ばかりでレッドドラゴンの肉は食べなかったからね」
「本当、それは楽しみ!」
フィーナが世界で一番美味しい肉が食べられると聞いて喜ぶ。それを見て他の皆も微笑むのだった。
「しかし、ここの領主は何もしてきませんでしたね」
セシリアが僕に小声で話しかけてくる。
「どうも、僕達の事を調べていそうなんだよね。聖霊のダンジョンの10層以上行っているのは少し調べれば分かるだろうからね。調べてみて手を出すのは危険と判断したかもだね。マルンに行くまでは警戒しようか。あそこなら、貴族は手出しがし難いだろうから」
僕の言葉にセシリアが頷くのだった。