第103話
自由都市マルンに向かうためにまず中心都市セレティグトへと向かう。その道中は余り目立ったことは無かったのだが、フィーナが街道の近くにある花や泉などを見つけるとそれを見惚れたりして時間が掛かったりしていた。マリア曰く、今までお城の中でしか生活したことも無く、国が破れてお城が落ちたときにも捕まり奴隷となったことで自由も無かった。そのために、こうして自由に外を出歩く事が無かったために見る物全てが珍しいらしい。
フィーナの気持ちも分かるためかカルラとセシリアも特に不安を言わなかったので、僕はフィーナのやりたいようにやらせた。今回はダンジョンでは無く外での移動なので月魔法も発動には困らない。急ぐ旅でも無いのでフィーナの好きにさせた。そのせいか、予定よりも2日遅れて中心都市セレティグトに着いた。
「うわあ、大きな街だね」
フィーナが街に入ってすぐの大通りとその両端にいる露天などを見て感動している。
「とりあえず、前回泊まった宿で行こうか。ただ、ここの宿は高いんだけどね」
そうして、前回この街に来たときに泊まった水の鳥亭へと向かう。
「いらっしゃいませ、水の鳥亭へようこそ、お部屋は3人部屋と2人部屋でよろしいですか?」
「3人部屋だと値段はどれくらいになりますか?2人部屋は金貨10枚なのは前回聞いているのですが」
「2人部屋は金貨10枚で3人部屋は金貨15枚になります」
「ありがとうございます。それでは、2人部屋と3人部屋で1泊お願いします」
僕は金貨を取り出して言う。
「それでは、お部屋には担当の者が案内しますのでしばらくお待ち下さい」
部屋に案内される前に部屋の内訳を決める。
そして、僕とセシリアが同じ部屋になり、カルラとフィーナ、マリアが同じ部屋へと決まった。
部屋が決まってから皆で街を散策することにする。
「それじゃあ、皆でこの街を散策するけど、フィーナは何処か行きたい所はある?」
「入った所にあった沢山の露天に行きたいかな。色々な物があったから見て回りたいかも」
フィーナがそう言うので最初は皆で入り口付近で出ていた露天を見て回ることにする。
フィーナとマリアとカルラは物珍しいのか色々と露天を見て回って楽しんでいる中、僕とセシリアはそれを後ろからついて行く。
「おじさん、これって何?」
フィーナが1つの露天で売っている乾燥させた果物を見ている。
「ああ、それかい、それはリンゴを乾燥させた物だね」
「ふーん、どうしてリンゴを乾燥させるの? 普通のリンゴでも美味しいのに」
「乾燥させることで日持ちがするようになるんだよ。乾燥させても甘さが凝縮されて上手いぞ。1つ買ってみて食べてみてくれよ。そして、上手かったら沢山買ってくれ」
「うーん」
フィーナが欲しそうにマリアを見る。マリアは困って僕の方を見たので僕は頷く。こういう時のためにフィーナ以外の面々にはお金を渡している。フィーナは最近金銭感覚を身につけたが元がお姫様だった為か金銭感覚が酷かったのでフィーナのお金はマリアが持つようになっている。
僕が頷いたのを見てマリアがフィーナの為に乾燥したリンゴを買ってあげる。それを、早速フィーナが食べてみるとその凝縮した甘さに言葉を無くす。
「ねえねえ、お兄ちゃん。これ買ってよ。冒険するのにも甘い物って必要だと思うんだよね」
一応、冒険中にも果物等は魔法袋に入れていたので甘い物があったのだがフィーナには足りなかったらしい。
「まあ、この乾燥させているリンゴとかなら小さくもなっているから沢山持っていくことは出来るよね。カルラはどう思う?」
「そうだね、甘い物は疲れたときとかに欲しくなるからあった方があたいは嬉しいかな。ただ、値段が高いから前のパーティーの時はそんなの持っては行けなかったけどね」
この乾燥させたリンゴは1つだけで大銀貨1枚はするのだ。普通にリンゴを買おうとすると銀貨1枚ぐらいで買えるので単純計算でも十倍はするのである。そんな高価な物を甘い物が食べたいだけにたくさん買おうとする冒険者はいないだろう。
「なら、金貨5枚分買おう。流石に、非常食にとはいえそこまで沢山は買えないからね」
「ええ、少なくない?もっと沢山買おうよ」
フィーナはもっと沢山欲しいという。お金はすでに金貨でいえば1万枚以上はある。だからといって、これから自由都市マルンに行って家を買おうとしているのだ。たとえ少しとはいえ節約したい。
「じゃあ、金貨10枚分までだよ。後、リンゴだけじゃやなくて他の果物の乾燥した物を買うこと」
「わあい、ありがとう、お兄ちゃん」
「いいのかい、兄ちゃん。乾燥した物は日持ちがするけど高いよ」
「はい、大丈夫です。正直に言えばきついですけどね。ダンジョンに行っている時に甘い物が欲しくなるときはありますから」
「兄ちゃん達は冒険者なのかい」
買おうとしているメンバーを見ると冒険者とは見えないのだろう。まあ、男1人に女4人というメンバーである。知らない人が見たら冒険者とは見えないだろう。
「ええ、そうです。少し前に聖霊のダンジョンに行っていたんですよね。それで、今度はマルンにあるダンジョンに行こうと思っていましてね」
「なるほどなあ。ふむ、冒険者はいつ死ぬかも知れない危険な仕事だからな。せっかくたくさん買ってくれるんだからな。少しだけサービスしてやるよ」
そう言って、金貨10枚分の乾燥果物に少しだけ多く入れてくれたのだ。
「おじさん、ありがとう」
フィーナは喜んでお店のおじさんから袋を受け取る。僕達はおじさんにお礼を言って露天を後にする。
そして、前回ここの貴族に絡まれたオープンテラスで昼食を取ってから、さらに商店で買い物してから宿に戻るのだった。