第101話
15階層の一番奥になる扉へと到着した。
「ここでは、騎士団の話によるとボスはいないと言う話だったよね」
「そうらしいよ。基本的に聖霊のダンジョンでは一番奥にはボスはいないらしいね。ここ以外の聖霊のダンジョンでもボスはいないらしいと他の国に行ったことがある冒険者が言っていたけどね。まあ、場所によってはその国の騎士団だけしか入れないと言う聖霊のダンジョンもあるらしいけどね」
カルラが他の国にある聖霊のダンジョンについても教えてくれる。
「ボスがいないなら入ろうか。聖霊様にご対面だね」
僕が先頭に立って扉を開ける。
中に入ると広い部屋になっていてその中央には黄金色をした狼が座っていた。
「ふむ、わしの武器を持つ以外の者がここに来るのは珍しい。して、その剣は、なるほどのう。あのお方の神具を持つほどの者となれば到達するのも当然か」
黄金色の狼が厳かな雰囲気で話しかけてくる。
「貴方がこの聖霊のダンジョンの聖霊様ですか?」
僕が代表して聞く。
「いかにも、わしがこのダンジョンの担当している聖霊であるフェンリルだ。其方達はこのダンジョンを攻略したと認めよう。よって、わしの加護を与える」
「ありがとうございます」
「しかし、神具を持つ者にはわしの加護は与えることは出来ぬ。流石にフォルティナ様の加護を持っている者に与えられるような加護はわしには無い。すまぬな」
聖霊フェンリルが頭を下げてくる。
「それでは僕にはフェンリル様の武器は使えないと言うことですね?」
「必要あるまい。フォルティナ様の神具の方が強いからのう。それに、わしが加護を与えたところでフォルティナ様の加護によって上書きされてしまうから意味が無い。加護は上位の方の加護が優先されるようになっておる」
どうやら、フォルティナ様の加護を貰っている為に聖霊の加護は受け取れなくなってしまうらしい。僕としては他の皆が受け取られればそれでいいので構わなかった。
「分かりました。それでは、僕以外の皆に加護をお願いできますでしょうか」
「うむ」
聖霊フェンリルが遠吠えをする。すると、魔方陣が浮かび上がりセシリア達の手の甲に狼の顔をした紋様が刻まれて消える。
「加護は授けた。残念ながら武器に関してはここには無い。ある騎士が使っておるのでな欲しければそやつから譲り受けるか奪うが良い」
「奪うって聖霊様フェンリル様がそんな事言っていいのですか?」
「わし等聖霊の役目は、人を鍛えることじゃからな。そのために創造神ソルテール様と大地母神フォルティナ様に作られた。弱い者が奪われるのは仕方ないことであろう。それが嫌ならば強くなる事じゃ。ここに来るわしの武器を持つ者は武器の性能便りで心も技術もいま1つじゃからな。その点、其方等は頑張って鍛えておる。まあ、最後の階層に関しては創造神ソルテール様達の試練の森の魔物を使わせて貰っておるからのう。正直、厳しいとは思ってはおる」
「15階層だけは何故か難易度が高いですけどそこには理由があるのですか?」
「加護を与える者を増やしすぎても良くないからのう。しかし、昔はそれでも来る者はおったがここ数千年は聖武具を持たない者で来る者はいなくなってしまったのう。人は昔に比べて弱くなってしまったのだのう」
聖霊フェンリルは昔を思い懐かしむ。フェンリルが思い出すのは古代文明時代の事だろう。古代文明時代は死の森の遺跡にまで行けるぐらいの実力を持っていた者が沢山いたのだ。ならば、この聖霊のダンジョンを攻略出来た者もいたと思われる。
「さて、わしの加護の説明をしなければならないのう。わしの加護はわしの聖武具グングニルを使える資格を得ることと身体能力の著しくではあるが向上することである。他の聖霊達の加護を得ればそれだけ身体能力が上がっていくのでな、もし時間があるのならば他の聖霊のダンジョンに行くが良い」
「失礼ですが、この大陸には後何個の聖霊のダンジョンがあるのですか?」
「そんな事も今の者は知らぬのか。この大陸には合計で7つの聖霊のダンジョンがある。試練の森の北側に2つ、こちら側の南側には5つじゃな」
「何か偏っていますね。南側と北側でどうして数がそこまで違うのでしょうか?」
「一応理由はある。が、それはわしからは言えん。自分でその理由を見つけるのじゃな」
何か理由があるみたいだったがその辺をフェンリルは自分で見つけろという。
「それでは、行くが良い。残念ながらここからも自分の足で歩いて帰らねばならないからのう。創造神ソルテール様曰く帰るまでがダンジョン攻略だとか何とか言うておったからのう」
「分かりました。それでは聖霊フェンリル様、加護を与えて下さりありがとうございました」
「うむ、これからも精進せよ。それこそが創造神ソルテール様の願いであるが故に」
僕は頷き頭を下げる。僕が頭を下げたので他の皆も頭を下げる。
「さあ、帰ろうか」
そうして、聖霊フェンリル様の部屋を出る。
その後、15階層でアースドラゴンやベへモス等を狩りつつダンジョンを戻って行く。
「何か、自分が強くなったのか良くわかんない」
フィーナは加護を受ける前と受けた後の違いが分からないと言う。
「フェンリル様が言われてでしょう。他の聖霊の加護も与えられたら強くなっていくとね。それが、前提となっているんでしょう。この大陸にあるという7つの聖霊のダンジョンを攻略して加護をいただけたら自分でも分かるぐらいになるんでしょうね」
セシリアがフィーナに言う。聖霊の加護は1つでは微々たる物でも7つになれば大きくなるのだろう。創造神ソルテール様は元々そういうことを想定して聖霊を作ったと思われる。創造神ソルテール様は僕達に強くなる事を望んでいるという事からもそれが正解だろう。
「聖霊のダンジョンを巡る冒険に出るのも悪くないかな。まあ、その前に自由都市マルンに行って拠点を作っちゃおうか。そう後は聖霊にダンジョンに行くのも良いし、マルンのダンジョンに行くのもアリだね。ただ、聖霊のダンジョンがどの国のどの辺にあるのか調べないと行けないからそれを調べてからかな」
「聖霊のダンジョンは行きたいよー」
フィーナは聖霊のダンジョンに行きたいらしい。
「でも、聖霊のダンジョンは帝国にもあるからね。帝国は他国の冒険者の出入りは許してなかったはずだよ」
カルラが帝国について言う。
「まあ、死の森を抜けていけば入るだけなら何とかなるんじゃ無いかな。まあ、この先をどうするかはマルンに着いてからにしよう。出発はダンジョンから戻ってから二日後にするよ」
僕の言葉に皆が頷く。聖霊のダンジョンでの目的を果たし、新しい目標も見つけて僕達は次の街へと向かうのだった。