回想列車
主人公 朝斗妃奈『5歳((85歳))』
運転士 後藤正人『36歳((???歳))』
ここは死後の世界です。
次は水城駅。水城駅。お降りの方はお手をあげてください。
回想列車
「次は水城駅、水城駅」
波紋一つない水の上を列車はことことと優し
い揺れを与えながら進む。
そんな車内アナウンス。私は後ろを振り返る。
手を挙げている人がいた。
「後藤さん、次止まるよ」
後藤さんというこの列車の運転士にそのことを告げた。
前を見た。
駅が見える。石でできた寂しい駅。時刻表にはなにも書いていない寂しい駅。
でも、そんな駅を目指してこの列車に乗っている人がいる。
「まもなく、水城駅です」
ゆっくりと列車はスピードを落としていく。
そのままゆっくりゆっくり。駅の指定の場所で列車は止まった。
私はゆっくり息を吐いた。そして立ち上がる。
「水城駅です!」
満面の笑顔で私は後ろを振り返った。いるの
はおじいちゃんただ一人だ。
そのおじいちゃんはゆっくりと立ち上がって、伸びをした。次に深呼吸をして最後に屈伸まで。そしてゆっくりと前に進む。私のいる方へ。出口の方へ。そして、入り口の方へ。
「ありがとうね」
目の前まできたおじいちゃんは私の目を見て言った。
おじいちゃんの目にはもう迷いはない。
そんなおじいちゃんに私も
「はい、こちらこそ!」
元気よく言い放つ。だけどまだそれで私は終わらせない。
「次来るときは100年後、ううん、200年後にしてくださいよ?」
冗談まじりにいう私におじいちゃんの口元が少し緩んだ。
おじいちゃんは再び伸びをした。そして、
「そうだね。でも、君みたいな元気で優しい子がいたら、また来たくなっちゃうよ?」
「またまた〜」
冗談をと手で仕草をする。
するとおじいちゃんは視線を私の目から後藤さんに移す。
「あなたも、ありがとう」
「いえいえ、これが私の仕事ですので。お疲れ様でした」
「その言葉、今までの全てが報われた気がしたよ」
おじいちゃんは優しく微笑んだ。
そして、
「じゃあ。」
そう言っておじいちゃんは元気に列車の外へ出た。
軽やかな足取りは見た目とは一転も二転もし、そんな様子に私は口角が上がる。
それは後藤さんも同じらしく、おじいちゃんを優しいあったかい目で見ていた。
「じゃあ、いきましょうか!」
「そうだな」
私は椅子に座る。
椅子に座ってすぐ、列車がのドアが閉められ動き出した。
それと同時に汽笛の音が静寂に包まれた空間を刺激する。
より一層静寂を際立たせた汽笛も鳴り止み、もう列車は完全に駅から出ていた。
辺りを見渡した。
一面の青だ。
波紋一つない水面に列車は走る。
みんなの思いを最期まで乗せた、たった一両の回想列車が走る。
◆
「妃奈君はここに来た時のこと覚えてるかい?」
「いきなり、ですね」
暫く走った時のことだった。急に話しかけてきた後藤さんに驚きつつも、私は下を向いて少し思い出していた。
「もうすぐ妃奈くんが来てから80年。時が経つのは早いね」
「そうですね、でも、見た目は全然老いませんね」
「ここは死後の世界だよ?死後の世界で死ぬなんてお笑いでも無いよ」
「ははは、そうですよね」
私がここに来たのは約80年前だ。
気づいたら私はこの列車に客として乗っていた。
なにもわからない私はお母さんがいないと泣いてしまった。
そんなところに現れたのが後藤さんだった。
「僕が『お母さんが来るまでここで待つかい?』と言ったときはどう思った?」
「そりゃあ私は嬉しかったですよ」
「でも僕は後悔してるんだ」
「後悔?」
ハンドルを片手で持ちながら、もう片方の手で顎を触る後藤さん。
私は首を傾げ、後藤さんを見る。運転中の後藤さんは一瞬私の方を見た。
するとフッと軽く笑って、
「ははっ。なんでもない。」
「あー、なんか笑ったでしょ!」
「ごめんごめん。なんか君のその無邪気な子供のみたいな顔を見てるとさ、なんで悩んでんだろうって」
「うぅー。でも悩みって?」
「よく考えれば残酷なことをしちゃったなって」
ここは死後の世界だ。つまり私のお母さんがくると言うことは、お母さんが死ぬと言うこと。だから、なのか。
後藤さんはとても優しい。だからそんな悩みが出てくる。
でも、私は。
「私は全然嬉しいと思いますよ?」
「そっか」
「だから、また私見たいに困ってる人がいたら、助けてあげてください」
「考えておくよ」
◆
「次は涼静駅。涼静駅」
そんな車内アナウンスをしていると、突然静かな車内に子供の鳴き声が響いた。
何かと私が後ろを振り向くが、見ただけではなにも無い。
私は後ろの方へ歩みを進めた。
「お母、さん?」
子供が床に座りながら、そう私を見上げた。
「お母さんじゃなくてごめんね」
軽く笑いかけて、どうしたの?と問いかける。
「お母さんがいないの……」
その言葉が何かのトリガーになったのは間違いない。瞬間、私の頭の中に過去の出来事が映し出され、そこを高速で移動する。過去へ過去へ。
数秒後、私の脳内で行き着いたのはここに来た時のことだ。
子供を再び見た——私と重なった。
「大丈夫だよ。大丈夫」
頭を撫でる。でも、泣き止まない。
どうしよう、どうしよう。右往左往していると、
「大丈夫、大丈夫」
急に出てきた腕に驚く私。見ると、そこには白髪のおばあちゃんが。
「あ、ありがとうございます」
咄嗟に礼をして、私も子供をあやす。
「大丈夫だよ、」
泣き止まない子供に困っている私。ふと隣のおばあちゃんを見た。
「楽しそう、ですね」
なぜかニコニコとしているおばあちゃん。そんなおばあちゃんは私の方を見てポツリと。
「昔に娘を亡くしてね」
「そう、なんです、か」
私はゆっくりと子供に視線をずらす。
すると突然、
「ふんふん、ふふーん〜♪」
おばあちゃんが鼻歌を歌い出した。
「この鼻歌ね、娘がよく好きで歌ってあげてたの」
「……ぁ」
「ふふっ。懐かしいわね」
「……」
「あの子元気にやってるかしらね、」
「……ぁ、ぁ、」
「最後に願いが叶うなら、会いたいわね——『妃奈』に」
「お母、さん?」
高速で過去を巡る私の記憶。どこかで聞いたことのあるそのメロディーと声。
——お母さんの声。この何十年も待っていた声。会いたかった人。聞きたかった声。
「お母、さん?」
目尻に熱を感じ、私はそれを抑えようと手で押し付ける。でも、逆につーっと一筋の水滴が垂れる。
「……」
おばあちゃんは私を見てなにも話さない。それがなにを意味するのか、私にはわからない。
数分の沈黙。それを破ったのはおばあちゃんの方だった。
「ひ、な?」
私の名前だ。
目を大きく開いた。もう自分を抑えることはしない。
「お母さん!」
抱きついた。確信に変わったその事実に縋るだけだ。
「お母さん、ずっと会いたかったの」
私もよ、と返すお母さんに私は涙でいっぱいだった。
列車の中に異様な光景が生まれた。だが、誰一人として嫌な目はしていない。優しい目を向けてくれた。
ゆっくりと列車が止まる。外を見ると駅だ。
……。
「妃奈くんは頑張ったよ」
ずっと聴いてた声が私の背中を優しく押す。
「後藤さん……」
「大丈夫」
強く言うその言葉に、私の背中には翼が生まれる。そっと胸に手を当てて、そして後藤さんをみた。
「ありがとうございます」
今まで言われる側だった私は、今は言う側だ。
そっと前の出口の方へお母さんと歩く。
出口についた。今まで何度も見てきた景色が、今だけは特別に感じれた。
「後藤さん、ありがと」
「こちらこそ」
手を振る後藤さん……と……?
「ふふっ。君も頑張るんだぞ」
後藤さんの隣にいた、さっきまで泣いてた少年に私はそう声をかける。
そしてそのまま——。
元気よく外に出た。
どうだったでしょうか?コメント待ってます。
長編小説の練習のために、ショートを描き始めました。
こうすれば良いんんじゃないか、こうしたほうがいいんじゃないか。そういう意見とても欲しいと思ってます。気軽にコメントください。
何本かショートを出したら長編を書こうと思ってます。
見てくれてありがとうございました。