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作者: island

 修治はワンルームの自分の家で気分を紛らわすために小説を読んでいた。

 時間は夜の2時、本来なら翌日の仕事のために早く寝たいのだがここ最近仕事に行くのが嫌でなかなか寝付けないことが多かった。30も半ばを過ぎ体力は落ち始め、それと反比例するように責任という重圧に苦しめられていた。正直死にたいとすら思い始めていた。重症である。仕事のストレス対策に小説を読むのがいいと同僚に聞いて実行していた。

 元々小説を読むのが嫌いではなかった修治は小説に没頭した。睡眠不足はあまり解消されなかったが読破した小説が自室の棚に驚くようなスピードで増えていった。

 夢中で読んでいると自室でカツカツと音がしだした。午後からゲリラ豪雨が断続的にあったのでそれがまたきてガラス戸に当たっているのだろうと最初は思って気にしていなかったのだが視界の隅に黒いものが映ると小説から目を話した。

 気づくと室内に親指二つほどの蛾が舞っていた。

 音は天井と蛍光灯の傘の間で忙しなく衝突していた音だった。目の前のテーブルには蛍光灯の傘から落ちた埃が不規則におかしな地図を作っていた。

 蛾の鱗粉が空気に混ざって蛍光灯の光に反射してキラキラと眼の前の空間に儚いイルミネーションを作っていた。

 この鱗粉を吸えば苦しまずにあの世へ行けたりするのだろうか?

 RPGのモンスターでそんな効果のある敵がいた気がして修治は良くない妄想に駆り立てられていた。

 少しの間蛾の舞っている姿を目で追っていたが飽きてきて修治はティッシュを手に2枚ほど取ると壁に張りついたところを見計らって殺さないように蛾を捕らえて、窓を開けてやさしく暗い夜空に放してあげた。

 ティッシュには空間にイルミネーションを作った鱗粉が羽の形をしてくっきりと残っていた。

 修治はここで鱗粉を舌で舐めてみたいと思った。もちろん今までの人生においてそんなことをしたことは一度もない。まじまじと鱗粉を見つめると黒と光に反射する粉が混ざってある種の麻薬のようにも見えた。普段ならこんな気狂いな行動に出ることはまずないのだが、ここ最近の気分と投げやりな気持ちが合わさって眼の前のティッシュに載った鱗粉がとても魅惑的な代物に見えた。

 これを舐めればもしくは死ねるのではないか?

 1分ほど躊躇った後鱗粉の付いた箇所に舌をつけた。

 ピリッとした後にえも言われぬ苦味が口の中に広がった。舌の中で転がし唾液と混ぜ合わせる。ここからが本番である、喉を1回鳴らした後、上を向いて蛍光灯を真上に光を浴びた状態になる。教会で夕日を浴びて祈りを捧げるシスターのようだ。手を合わせ覚悟を決めて飲み下した。

 視界がぼやける・・・・涙が流れた。 

 ・・身体の変化は何もなかった。 蛍光灯の灯りは眩しいままだ。

 修治はなんだか笑いたくなった。自殺願望の人間が自殺に失敗したらこんな気分なんだろうか。

 こんな自分でも死が怖くて涙するのだ。死ぬことに比べたら仕事の悩みなどなんと些細なことなのだろうかと

 修治は読みかけの小説を閉じた。

 明日からはもう当分小説の世話になることはないのだろう。

 



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