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教えてくれない?

「え、リリィ。それ、魔法?」


 (てのひら)が光り、そこから飛び出したのは氷。

 それを魔法だと理解した。

 私は、確認のためにこの様に問う。

 リリィはこちらを向き、なんでもないことかのように一つ頷いた。


「うん。魔法」

「魔法使えるの?」


「使える。初級のばっかりだけど。私、弱いから」

「え、凄いね。え、凄くない? あと、リリィの程度で弱いんだったら、私の存在価値なくなるから!」


「そっか。ミリアは魔法使えない……って事。だよね」


 魔法が使えないとは言ってないのに……。

 いや、使えないんだけど!


 まるで見透かされたようで恥ずかしさが募る


「う、うん」


 だって、もうすぐ私は十五歳だし。

 その歳くらいから魔法の才が人に芽生え始めるわけで。

 けど同じ歳のリリィが初級であっても魔法を使えてるから。

 そして氷の魔法は『魔術の書』のそこそこ後ろのページに書いていたはず。

 それを踏まえると、どう考えても私の存在価値が無くなってしまう。


 それにしても。魔法って凄いなって思う。

 本当に凄い。

 しかも、私と同じ歳のリリィがそれをしたのだ。

 それはどうも。なんというか、嫉妬に似た何かが私の中に生まれるわけで。

 いや、嫉妬とは違う。えっと、羨ましさって方が強いと思う。

 私だって魔法が使えるようになりたい。

 だって楽しそうだし。使えたら大人の仲間入りって感じあるし。

 何よりも、かっこいいし。


「──よし」


 私は、自分の耳にすら届かない小さな声で呟いた。

 あることを思い付いたのだ。

 だから私は、恐る恐るとリリィに切り出した。


「あ、あのさ……」

「はい」


「リリィは、この三日間、暇なんだよね?」

「いや、暇じゃない」


「え、そうなの? さっきの話聞く限り、そんなことなさそうだけど……」

「ミリアと楽しく三日間過ごすっていう大事なことと、ミリアに好きになってもらうっていう大事なことがある」


「よし、暇ってことね!」


 などと勝手に解釈してみると、リリィは不機嫌そうに口を曲げた。

 冷たい目で私のことを刺すように見つめてきた。

 途端に罪悪感が私を襲う。

 ので、慌ててリリィに聞いてみる。


「あ、いや、ちょっと。少しだけでいいから、教えて欲しいことがあるんだけど、いいかなって思ってさ」

「…………なに? 言ってみて」


「その、魔法を教えて欲しいなって。……ほんと、ちょっとだけでいいから! 私、全く使えなくてこれからが心配だなってさ」


 魔法が使いたかった。

 家に来て、旅の後でこんなことをお願いするのは、いささか失礼な気もしたけど。というか、絶対失礼なことだけど。

 ダメで元々だ。だから、聞いてみた。


 私のその言葉に、リリィは驚いたように目を大きく見開いた。

 何か、そんな驚くようなことがあっただろうか。

 やっぱり、疲れた状態の人に頼む私の外道っぷりに引いているのかな?

 そう思っていると、その疑問に応えるようにリリィはこう答えた。


「そんなこと言われるの、初めて……」


 ……らしい。

 驚きつつも、その声は嬉しみを帯びていることに気付く。


「教えを乞われるのが初めてってこと?」

「……うん。初めて」


「リリィみたいな歳で魔法使える子が教えを乞われた事が無いなんて……。……あ! それとごめん! 長旅の後にこんなことさせるの大変だよね!」

「いや。いいよ。ミリアがそう言ってくれるの、素直に嬉しい」


「え! いいの? 自分で言うのもなんだけど、今の私かなり自己中な気がする。いや、普通に自己中だと思うんだけど……」

「急に押しかけてあんなこと言った私の方も自己中だと思う」


 確かに。


「だから。おあいこってことで。魔法、教えてあげる」

「やった! 嬉しい! ありがとう!」


 その嬉しさからか、私は勢いよく席を立ち上がった。

 その様子を見たリリィは、少し急ぎ気味にパンを咀嚼。

 汗のかいたコップを手に取り、それをごくごくと飲み干した。

 中の氷をみると、もうかなり小さくなっていた。

 口元を綺麗な白い腕で拭う。私と同じように席を立つ。

 リリィは教える気が満々なのか、どこか表情が生き生きとしている。


「よし。お庭に出よっか。……と言いたいところだったけど」


 ぽりぽりと恥じらいに頬をかきながら、私は再び座りパンを手に取った。


「まだお腹空いていたみたいで、もう一つ食べさせて!」


 それの事実証明の様に、私のお腹が「ぐー」と、だらしない音を立てた。

 「あははー」と顔どころか体温が熱くなるのを感じながらパンを口に運ぶ。


 うん。美味しい。


「……自己中」


 そんな呟きが聞こえたような気がした。

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