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プロローグ

 某新人賞で二次選考落ちしたものです。

 つらつらと改稿しながら投稿していきます。

 気長にお付き合いください……!

※小説家になろう初心者です。

 復讐__仇を返すこと。仇討ち。仕返し。




 衝撃的な物語の一頁は、胸を貫いた槍と、女の子との衝突から始まった。


「私の復讐の初めの一人はあなたに決まりました。抵抗しても無駄です。すでにあなたの死は確定したのですから」


 九条香月は今、生命の危機に瀕している。


 仰向けに倒れた香月の腹に跨り、淡々と告げる名も知らぬ少女。


 少女は二百六十年間生きてきた香月でさえ、見惚れてしまうような美少女だった。


 色素を吸い取られたような白い肌と白い髪。枝毛の一本もない髪はシルクのようで、思わず手にとって手櫛で梳いてみると、シュルシュルと手のひらから溢れてしまった。


 少女の鮮血のように紅色に染まった瞳が、復讐に燃える真っ赤な瞳が揺れる。


「不愉快です」


 少女は言うと、香月の胸に刺した槍を、いっそう深く押し込んだ。


 香月の口から空気の混じった血が溢れる。


 少女の槍は香月の心臓を貫き、硬いアスファルトの地面をも砕いていた。


 香月は血に塗れた舌を動かして、名も知らぬ少女に語りかける。


「復讐なんかやめちまえ。たいして得るモンなんかないし、時間を浪費するだけだ。お嬢ちゃんは見たところ学生さんだろ? 復讐よりも復習に時間を割くべきだと俺は思うけどね」


 香月の見た目年齢は少女とあまり変わらない。ある日を境にしてパッタリと体の成長が止まってしまったからだ。


 そんな香月の説得も虚しく、少女は目を細めるだけだった。


「くだらないですね。私は復讐をやめるつもりはないですし、あなたの言葉に耳を貸すつもりもありません。大人しくこのまま死んでください」


 少女は依然として、槍を突き刺したまま淡々と告げる。


 少女は機械のように無表情だ。仮にも他人の胸に刃物を突き立てているのだから、突き立てられている側からすれば、ちょっとしたリアクションくらい欲しいものである。


 しかし、彼女は出会った時から顔のパーツに一ミリの変化もない。


 埒が明かないと悟った香月はおもむろに立ち上がった。


 香月に跨っていた少女はバランスを崩し、あわやアスファルトの地面に後頭部を打ち付けそうになったところで、香月によって抱き抱えられた。


 初めて少女の表情に変化があった。


 信じられないものを見てしまって、それでもなお現実を受け入れられない、と少女の表情が雄弁に語っている。


「なぜ……あなたは立ち上がれるのですか? 私があなたの心臓に突き刺したのは紛れもなく純銀の槍です」

「純銀で心臓を貫けば死ぬって? 何世紀前の知識だよ、それ。俺はてっきり体中の血を全部持ってかれるかと思ったわ」


 ビビって損した、と香月は吐き捨てるように言った。


「仮にも俺は二百六十年間生きてきたヴァンパイアだぞ? 純銀くらいとうの昔に克服してる。まあ日中を狙ってきたのは正解だったな。日の光で灰になることはないが、弱体化は免れないから」


 香月は「ほれ見ろ」と心臓から突き刺さった純銀の槍を引き抜いて、傷口を少女に見せつけるように突き出した。


「再生が始まらないし、血が流れっぱなしだ」


 香月の胸の刺し傷からは、真っ赤な血が涙のように流れ落ち、地面には直径十五センチほどの血溜まりを作っていた。


 香月の腕に抱かれていた少女は体を捻って地面に着地し、地面を舐めていた得物を拾い上げバックステップで距離をとる。


 柄を振ってベットリと穂の先についた香月の血を払う。視線は香月を捉えたままだ。

__どうしたものか。


 香月が顎に手を当てて思案に耽っていた最中、再び少女は純銀の槍を香月の体に突き刺した。次は喉。人間ならば脊髄をやられて即死だっただろう。


 しかし香月は倒れない。


 それどころか気にも留めていない様子で、少女を見つめている。


 当然と言えば当然だ。なぜなら、香月からしてみれば、少女の攻撃は頬をつねられるのと変わりないからだ。


 頬をつねられたら誰だって痛いだろう。しかし、それで死にはしない。


 香月は少女の持っている純銀の槍で、自分が殺されることはないと悟ったのだ。


「お嬢ちゃんはあれだろ? えーっと、そう。ヴァンパイアハンター」


 パチンと指を鳴らし、まるで探偵が犯人を示すように、香月は少女に人差し指を向ける。


 その勝ち誇ったような表情が、少女の苛立ちを募らせた。


「それが、どうかしましたか? 私は復讐を果たすだけ、ヴァンパイアを殺すだけです」

「そんな人生、つまんないと思わないか?」


 心底呆れているように、あっけらかんと香月の本心が溢れた。


 それは火元にガソリンをくべるように、少女の真っ赤な瞳を怒りに揺らした。


「あなたにはわからないでしょう。わかって欲しいとも思いません。しかし、私は必ずこの世からヴァンパイアを駆逐する」

「でも、俺を殺せなかったろ?」


 少女の頬がピクリと痙攣した。


 少女の柄を握る両手に力が入り、悲鳴をあげるようにギィと唸った。ただ、殺せなかったという紛れもない事実が、少女の顔に影を落とす。


 その様子を見て、あろうことか香月は少女に手を伸ばした。彼のヘレンケラーがそうしたように、優しい微笑みを添えて。


 当然少女は警戒を露わにし、差し出された手のひらに槍の穂を向ける。


 両者の間を、夏のしけった生ぬるい風が横切った。


「お嬢ちゃんは『今』は俺を殺せなかった。たぶんヴァンパイアを相手にするのも初めてだったんだろ。それだと近いうちに無駄死にするだけだ」

「……あなたに、私の何がわかるというのですか……」


 少女はそれ以上言い返せなかった。香月が述べているのはどれも覆り用がない真実だ。


 少女は短い人生の中で、今回を入れて二回ヴァンパイアと対峙している。だが、刃を突き立てたのはこれが初めてのことだった。


「復習。今日を糧に次に繋げる。復讐なんかよりよっぽど健全だと思わないか?」


 少女の怒りを他所にあっけらかんとした物言いで香月は問う。


「何が言いたいのかさっぱりわかりません」


 少女の表情は険しくなるばかりだ。


__説得って難しいな。


 香月は己の口下手を呪った。


「ううん……つまりな? 俺が何を言いたいかって言うと__」


 香月は息を吐き、少女をまっすぐと見つめて提案する。


「俺が対ヴァンパイアの戦い方を教えてやる。だから、ここは一時休戦だ」


 驚いたように顔を上げた少女は、下唇を噛み締め、悔しさのあまり涙を流した。


 香月が一歩近づくと、途端に少女は踵を返し薄暗い路地裏に走り去って行く。


「ダメだったか、せっかく見つけたのになぁ……」


 香月はヒットした魚を網で掬い損ねた釣り人のように、その走り去っていく後ろ姿を繁々と見つめながら天を仰ぎ、忌々しい太陽を見上げながらひとりごちるのだった。

 プロローグを読んでいただきありがとうございました!

 前書きでも書きましたが、これは某新人賞にて二次選考で落ちたものです。なのであまり良い文書ではありませんが、改稿しつつ不定期に投稿したいと考えております。

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