妹の嘘
実際の裁判とは色々違うと思いますが、ご容赦ください。
俺が12歳の時、母が病死した。
俺が16歳の時、父親が再婚した。
俺が18歳の時、妹が生まれた。
俺が21歳で妹が3歳の時、両親は離婚した。
離婚した理由は継母の浮気だ。
それなのに母親は資産家である父から手切れ金まで巻き上げていった。
父親と俺と妹は3人で暮らした。
父親は忙しくほとんど家に居ないため、俺が妹の面倒を見ていていた。
やがて、俺と妹は肉親の垣根を超えそうなくらいに仲良くなった。
体の関係がないだけで、あきらかに愛し合っていた。
俺が28歳で妹が10歳の時、父親が急死した。
飛行機の墜落事故で、会社の重役である父の弟たち親族も一緒だった。
俺と妹は天涯孤独、いや、二人きりの肉親となった。
そうなったはずだった。
未成年の妹には『後見人』が必要だった。
その手続きの最中、あの女…俺にとっての継母であり、妹にとっては実母の、妹を捨てて行ったあの女がやってきて『親権』を主張し始めた。
その理由は簡単だ。
父親の遺産目当てなのだ。
親族が居なくなったため、父の持っている莫大な遺産は俺と妹に等分される。
それを狙ってあの女は妹の親権を奪いに来たのだ。
俺は裁判になっても負けない自信があった。
何しろ妹は俺の事を愛しているからだ。
今まで俺は何一つ問題を起こしておらず、母親代わりのようにして妹を育てた。
だから負けるはずがない。
そう思っていた。
しかし裁判が始まって驚いた。
『兄が妹の事を性的に虐待している』と主張し始めたのだ。
もちろんそんなことなど無い。
俺は妹が実妹でかつ幼いから、手など出すはずが無いのだ。
ただ、純粋に俺たちは心だけで愛し合っているのだから。
それどころか本当は母親が妹を虐待していたのだ。
証拠は残っていないが俺は実際に見たことがある。
しかし離婚の時にそのことを父親に話したが『もう二度と会わない人になるのだからいいだろう?』と笑われただけだった。
優しい父親の想いを踏みにじるあの女を俺は許せない。
だが裁判では俺がどんどん不利になっていく。
証拠が無いのにもかかわらず、『男が女の子の面倒を見るのはおかしい』『あの男は同居していた時から妹を性的な目で見ていた』など有ること無いこと言い始めたのだ。
証拠が無いものだから俺は否定できない。
唯一の味方は妹の証言のみ。
「兄はそんなことはしていません」
妹はそう言ってくれたがあの女は認めようとしない。
「10歳では善悪の区別はつかない」
「兄に洗脳されている」
と言った言葉があの女から飛び出してくる。
「本当の事を言いなさいよ!」
そうキレたように言うあの女。
「本当の事を言います」
妹はうつむきながら話し始めた。
「兄は大嫌いです」
「兄と一緒に居たくないです」
「兄は私の嫌がることばかりしてくるのです」
「兄は私を虐待しました」
「兄は信用できません」
その言葉に俺は絶望した。
本当は俺の行為は全て妹にとって嫌なことだったのかと。
「母は大好きです」
「母と一緒に居たいです」
「母は私のために何でもしてくれました」
「母は私を愛してくれています」
「母ならば信用できます」
それを聞いて勝ち誇ったような笑みを浮かべるあの女。
下卑た笑いを浮かべるあの女を殴りつけたいほどだった。
こちらの弁護士は反論してくれた。
「15歳未満の子の意見だけで親権や後見人の判断をするわけにはいきません」
「離婚の時に親権を主張しなかったではないですか」
しかし勝ち誇ったあの女の口は饒舌なものとなっていた。
「幼くても本人が望んだことは叶えるべき」
「この子が言っていることは真実よ」
「離婚のときは追い出されたから連れていけなかっただけ。本当は愛している」
「悪い兄から私が助けに来たのよ」
しかしこちらの弁護士はなおも食い下がる。
「彼女の言うことが真実という根拠は?」
もはや本性を隠そうともしない下卑た笑みのままあの女は言った。
「私の愛する子が嘘をつくはずがないもの」
「むしろ10歳の子がリアルな体験を言っている時点で信ぴょう性があるのでは?」
すると妹は立ち上がった。
「他にも、もっと言いたいことがあります」
「お母さんは信じてくれますか?」
あの女は「もちろんよ」と言った。
「あなたは信じてくれますか?」と妹は聞いてきた。
「もちろんだ」と俺は言った。
あれだけ嘘を並べられても、俺は妹を信じたかった。
だからそう言った。
「では、真実をすべて話します」
そして妹は話し始めた。
「私は母にこう言って育てられました」
『私のしたことは兄のしたことにしなさい』
『兄のしたことは私のしたことと思いなさい』
『将来あなたの兄を追い出して、全ての財産を手にするために』
「そんなこと言うはずないわっ!」
あの女の声を無視して妹は話し続ける。
「だから先ほど言ったことは全部逆」
「母は大嫌いです」
「母と一緒に居たくないです」
「母は私の嫌がることばかりしてくるのです」
「母は私を虐待しました」
「母は信用できません」
「兄は大好きです」
「兄と一緒に居たいです」
「兄は私のために何でもしてくれました」
「兄は私を愛してくれています」
「兄ならば信用できます」
「でたらめよっ!」
あの女はヒステリックにそう叫ぶ。
「また洗脳されたのね?いい?本当の事を言うのよ?」
またしてもそんなことをいうあの女に対し、
「この裁判で母の味方をしないとまた昔のように虐待すると言われましたが断りました」
「ですが」
「言うことを聞かなければ兄を殺されると言われたので最初のような嘘をつきました」
「私にとって兄は何よりも大切なものですから」
場が静まり返ってしまう。
そしてただあの女だけがヒステリックに叫び続け、その目の前に妹が歩いて行った。
「もう、これ以上あなたの言いなりにはなりません」
「なまいきなっ!」
パシッ!
目の前で反抗されて思わず頬を叩くあの女。
そしてそれが妹の証言を『真実』だとする決定打となった。
「…の親権は認めず、兄を未成年後見人とする」
俺たちは勝ったのだ。
自宅にて。
「なあ、どうしてあんな嘘をついたんだ?」
妹が俺とあの女のことを逆に言ったことだけではない。
あの女に『俺と母の事を逆に言うようにしろ』とか『協力しないと害する』というのは全て嘘だ。
しかしたった10歳の少女がそんな嘘をつくはずが無いと思い、みんなを信じ込ませてしまった。
当事者である俺とあの女を除いては。
「私たちの雇った弁護士さんにどうしたら10歳の私の意見が通るか聞いたの」
「10歳の女の子が兄を好きで母を嫌いと言っても認めてもらえる保証は無いって」
「いっそ逆に兄を悪く言って母を良く言い、それが認められかけたところで『母に言わされました』と言えば大ダメージを与えられるかもしれない」
「だから私は辛かったけど、嘘をついたの」
「お兄ちゃん、ごめんね」
「それと」
「信じてくれてありがとう」
「うれしかった」
「だから」
「怖い母にも勇気をもって立ち向かえたの」
それから4年後。
妹は絶賛反抗期中だった。
「アニキの言うことなんて絶対聞かないわよ!」
「駄目だ!言う通りにするんだ!」
「どうしてよ?!もう中学生なのに、私がいつまでもアニキの言う通りになると思ってるの?」
そう言うと妹は俺の胸倉をつかみ…
キスをしてきた。
「実の兄妹だから、まだ14歳だから、『恋人になったら駄目』なんてこと聞けないから」
「私が何年待ってると思ってるの?物心ついたときから今まで、ずっと」
「ずっと」
「ずっとずっと」
「アニキのことが大好きで」
「愛していて」
「心だけじゃなくて」
「体でもつながりたくて」
すとんと彼女の衣服が床に落ちる。
「もう我慢できないから」
「襲ってくれないなら」
「私から襲うから」
「痺れ薬、良く効くでしょ?」
「さっきのコーヒーに入れておいたの」
俺は動けない。
痺れ薬のせいではない。
彼女の『嘘』のせいで。
俺はコーヒーなんて飲んでいない。
そんなバレバレの嘘をどうして妹がつくのか?
俺が妹を信じているように
妹も俺を信じてくれていた。
俺が妹の『嘘』に乗ってこのまま身を任せてしまうということを。
「ん」
「あ」
「はうっ」
「やっぱ、だめだっ!ここから先は大人になってからっ!」
「んもう!アニキの意気地なしっ!」
お読みいただきありがとうございました!