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S  作者: 木村さねちか
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入隊

 西暦2038年、第三次世界大戦は世界中に混沌と破滅を招き、人は国家への信頼を失った。

 西暦2040年ごろからアメリカで勃発した企業連合『フロンティア』と旧国家群との激しい抗争は、第四次世界大戦を引き起こした。人類史上初の国家と企業の戦争で、旧国家群の一部が崩壊し、それに巻き込まれる形で日本国もまた、企業連合フロンティアの支配下となった。

 フロンティア内部において、常時は不採算部門である軍隊、警察もまた、フロンティアが『安全』というコンテンツを提供し、民衆を国家群に引き寄せないために重要なファクターであった。

 旧日本国の残党、日本皇国軍の支配する東北、関東非武装地帯に近い、フロンティア静岡には、警察権と検察権、裁判権を兼ね備えた『特化警察機構軍』が投入さた。通称を『Specials』。関東非武装地帯の核汚染地域を抜けてくるテロリストに対して強硬策をフロンティアジャパンは取り、紛争は激化の一途を辿った。


 時に西暦2050年4月。

 場所はフロンティア静岡の旧富士演習場内に位置する、特殊化学武装兵養成所。

 2020年代にパンデミックを引き起こしたコロナウイルスは、国家の中枢を担う国防において、対化学戦武装の一般化として、当時最新鋭の軍需企業、フロンティア社によって開発されたサイボーグ技術とその副産物としてアンドロイドが人類にもたらされた。

 特に重要なのはアンドロイドの実用化である。

 これにより、市民は労働という責務から解放されることとなった。

 フロンティア社とそのサイボーグ、アンドロイド技術は、神が人にかせた労働という神罰から人を無条件に開放したのである。

 そして、ジェシカ・富樫もまた、サイボーグであった。

 東京核戦争の遠因ともなった、オリジナルアンドロイド『ナインライブス』の開発の中心人物、富樫博士を父に持つ彼女が、ここフロンティアで生きていくためには、イヴァン・ヴォルコフ内務省軍総統に対しての恭順の意として、自らを人身御供に出さねば、彼女に身の安全はなかった。


「それで? ヴェルコフ将軍。その新人というのは?」


「谷口、我が社にとってはVIPだった富樫博士の娘、名前はジェシカ。詳細を送る。アイコンタクトLINKを」


 谷口、と呼ばれた方は人間ではない。サイボーグでもない。軍事アンドロイドだ。

 近未来戦術において、人の理性が戦場で必要となることはない。

 全てプログラムに任せた方が安全だし、コストロスも少ない。

 谷口は自身に搭載されたアイLINKを起動させて、記録に残る限りのジェシカ・富樫の人生を瞬時に記録する。


「東京核戦争で被爆。その直後、京都の医療施設において延命手術としてサイボーグ手術を受ける。仕官の理由が不明瞭ですが?」


「問題はない。実戦で使えるようにしろ。谷口。年末には北日本を支配する皇国軍にぶつける。お前の手足となる部下だ。あとは、任せる」


「それでよろしいのですね?」


「ああ」


 ヴォルコフが面談室の前から去るのを見送り、谷口は面談室内部をサーマルセンサーで読み取る。

 身長160cmの女性型サイボーグを内部に確認すると、谷口はUSPを懐から抜いて、そしてドアをノックした。


「どうぞ。空いています。谷口課長でいらっしゃる?」


 ジェシカ・富樫はそう答えた。

 刹那、谷口の銃が火を噴いた。

 入隊試験はもう始まっているのだ。

 9ミリ対サイボーグ弾が面談室の扉を破る。

 瞬間、ジェシカは雌豹のように部屋の隅に舞いながら、空中でコルトガバメントカスタムを抜いて谷口の頭蓋に弾を命中させた。


「よろしい。合格だ。ジェシカ・富樫。君はこれよりフロンティア内務省軍直属の特務部隊、スペシャルズ、の一員となる」


 銃撃戦で穴だらけになったドアを開けながら谷口は言った。


「スペシャルズ? 希望は外務省軍長距離偵察隊、リコーンズでしたが?」


「不満はヴォルコフ将軍に言いたまえ。勤続態度しだいでは、希望の部署にも行ける」


 ジェシカ・富樫が外勤、外国勤務のリコーンズに志願していたのは、母がまだ生きているかもしれないという理由でだった。

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