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TOWNS for ロボット

作者: 冬乃雀

「介護」

劇的に出生率が上がらない限り、確実にやってくる (すでに始まっているけれど) 高齢化社会につきまとう言葉。

その対応策を企業主導で進めたけれど・・・

 政府肝いりで計画された日本のシリコンバレーの一角に「要介護受刑者収容施設」が建設されたのは、受刑者の高齢化に伴って介護が必要な受刑者が急増し、刑務官と財政の負担が増大し社会問題となり始めた10年前だった。


1.

「痛っ痛っ、何しやがるんだ!下手くそやろー」

 車椅子からベッドに持ち上げようと、構造的に絶対に曲がらない方向に右膝を曲げようとしている12号に向かって大声を張り上げた。


 バカな相棒のミスで警報機が作動、三階からダイブした時の怪我が元で歩行に支障をきたすようになった。不自由だと言っても自分一人でベッドに入ることも着替えることだってできる。補助を頼んだことは一度だってない、が、諸々の事情で強制的にサポートしてくる。


「モウシワケアリマセン。コンカイノジショウワ、コンゴノカイハツノサンコウニサセテイタダキマス、ゴキョウリョクアリガトウゴザイマス」

「うるせい、感謝されたって、一銭の特にもなりゃしねえ」

 ごんっ!

 六人部屋に大きな打撃音が響いた。

 つや消しグレーの軟質プラスチック製のボディーに、老人が手加減無しに一撃を加えた。

「イマノダゲキハ、『ダボク』ノガイショウデス。シュッショサレタゴ、コノヨウナダゲキヲニンゲンニオコナイマスト、ショウガイザイデウッタエラレルカノウセイガアリマス。オキヲツケクダサイ」

「じゃ、今すぐ出せよ、くそやろー」

「アナタハ、2ネン26ニチゴニ、シャバニデラレマス。ソレマデハ、ココデツミをツグナワナケレバナリマセン」

「だったら、人間をよこせ。ロボットに殺される前にな!」

「カイゴロボットノ、モニターチュうデスノデ、ニンゲンノサポートヲウケルコトハデキマセン。カイゼンヨウボウガアレバ、カイゼンヲオコナイマス。ロボットサンゲンソクニヨリ、ワタシハニンゲンニキガイヲアタエルコトはデキマセン」

 この要介護受刑者収容施設の運営と費用は、すべて民間企業が出している。その代わり、民間企業は訴えられる心配をせずに開発中の介護ロボットのモニター(不具合の洗い出し)を人間で行うことができる。

 彼(介護ロボット12号)の言葉とは裏腹に、この10年でロボットの誤動作で骨折や重症者が幾人も発生している。ロボット三原則に基づいてプログラムされているが、結果が伴っていない。それでも一件の訴訟も起こっていない。

 この留置所の運営費用は全て大手総合エリクトロニクスメーカー、もちろん慈善事業ではない。決して安くない運営費用を捻出しなければならないけれど、中で起こる事は不問に付すと政府と密約を交わしている。政府は経費削減ができ、企業は訴訟の心配をせずに開発品のモニターができる。双方に利益があるWinWinの好条件だった。受刑者は除いて、だが・・・


 ガシャン

 介護ロボット12号の腕が取れて床に落ちた。腕には『TOWNS』とグリーンで書かれたブランド名が書かれている。まだボディにくっついている腕には『UG』と機種名が書かれている。

「俺に開けられない箱はねえんだ」

 数個のネジと小さな部品が床に転がっている。難攻不落の金庫を開けることを思えば、特殊ネジで組み上げられている程度の介護ロボットなど、目を閉じていても分解できる。

「カネコ タダシ さン、カイゴロボットノハカイハキンシサレテオリマス」

「俺は鍵金カギキンだ」

 本名は金子 正、金庫破りの名人として名を馳せた彼は『鍵破りの金次郎』、略して『鍵金』と呼ばれていた。ここに入って2年になるが、今でも鍵金といえば知らないものはいない、もちろんその筋の者の間では、だけれど。

「ワタシドモハ、ホンミョウデヨブコトガレイギでアルト、プログラムサレテオリマス」

「昔のように番号で呼ばれる方がマシだ」

 そのような事はないのだけれど、勢いである。

「ヒトヲバンゴウデヨブコトハ、ジンケンヲそコナウコウイデス」

「どうでも良いから、一人でやらせてくれ」

「金さんよ、なんでもやってもらえるんだ、便利で良いじゃねいか。俺なんて、来週、娑婆に出なきゃなんないと思うと悲しいよ」

 横のベッドで、介護ロボット11号に着替えさせてもらっている、通称トビの爺さんが笑っている。

 退屈な日常にひと掻きの乱流。恒例のイベント。



2.

「12号の腕が落ちたぞ」

「また鍵金爺さんか、今月、3回目だぞ」

「開発部は何してんだ」

 数十個のモニターが並ぶ管理ルームにコーヒー片手に監視している介護ロボット開発企業の社員が悪態をついている。

「システム・ハッキング対策ならすぐに対応してくれるんだが、メカニカルとなると全くだからな」

 システムを改善、開発するプログラマーは掃いて捨てるほどいるが、メカニカルのエキスパートを探すのは厄介だ。

「プログラム教育がブームだったからな、猫も杓子もプログラムってな」

「俺たちもその中の一人だけど・・・落ちこぼれの、な」

 二人して肩をすくめる。

「鍵金爺さんに改善してもらえば良いんじゃないか?」

「それは名案だ、ブラックハッカーをセキュリティ開発プログラマーにリクルートって話を聞くからな」

 馬鹿馬鹿しい、と言って、片腕だけで鍵金爺さんの服を脱がそうとして残っている腕も外されようとしている12号に、回収ロボットを向かわせた。


-END-

ロボットの名前 TOWNS と型式 UG。

お気付きの方はほとんど無いでしょう。

むか〜し、昔、パソコンがとっても高価でインターネットなんて無かった頃に富士通が出していたパソコンです。

FM TOWNS

その当時にCD-ROM標準装備!

画期的です。

早すぎ・・・だったんでしょうね。

格好良いし、いろんなこと出来たし、好きだったんですが・・・なくなっちゃいました。

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