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8/20

8話  帰宅後の2人  ーー由紀sideーー  ②

 由紀は龍弥の突然の登場に思わず大きく目を見開いて驚いた.まさか、自分が助けを求めた瞬間、頭に浮かんだ人が助けにきてくれるとは思わなかったからである.


 その後、私の耳には彼と先輩の会話はしばらく入ってこなかった.私はその時、彼から目がはなせなくなってしまっていた.彼の体格と先輩の体格にはかなりの差があると思う.しかしそれでも、私のピンチに颯爽と駆けつけ、勝ち目が薄い中先輩に立ち向かっている姿は、私が今まで見てきた男性の中で群を抜いてかっこよくみえ、まるで王子様であるかのように錯覚するほどであった.


 彼に夢中になっているうちにいつの間にか恐怖心が消え、涙が止まっていた.


 そうしていると、私を未だに掴んでいる先輩が


「んだと‼︎ならお前が俺よりいかに劣っているか体にわからせてやるよ‼︎」


と言って、私を離し、彼に向かっていった.それと、同時に彼も先輩に向かっていったのだが、「おっと」と声を上げて、彼がうつ伏せに倒れてしまった.

 


 その行動がまたもや先輩の機嫌を悪くし、先輩は彼の髪を掴み、引っ張り上げた.そして、掴んでいない手で彼を殴ろうとしたため、私が思わず目を逸らそうとした時、龍弥の口角が僅かに上がったように見えた.それと同時に、先ほど倒れた時に掴んだのか、両手いっぱいの大量の砂を、先輩の目に向かって投げつけた.


 先輩の目に砂が入り込んだことで、龍弥を離した隙に彼は私の方に向かってきた.あまりのことに、戸惑っていた私を見た彼は、私を急に抱え、お姫様抱っこをした.先ほど、王子様のようだと思ったが、今ではまるで目にフィルターがかかったかのように彼が本物の王子様にしか見えなくなっていた.


 しかし、急な出来事で、私は


『ちょっと‼︎えっ!えーーーーーー』


  と、声を上げて、彼の腕の中で暴れてしまった、彼はそんな私に構うことなく、私を抱えたまま非常階段を登り始めた.下の方で先輩の声が聞こえたのだが、それどころではなかったためなんといったのか全くわからなかった.


 私を抱えたまま彼が、たどり着いたのは私たちの教室である1年A組であった.そしてついた途端、彼は私を彼の席の椅子に座らせた後、教室にあったワックスを私の近くにまいた.


 しばらくすると、大きな足音がこの教室に近づいてくることがわかった.すると、彼は私の前に立ち、庇うような姿勢をとった.


 そして先輩が私たちの教室に入ってきて龍弥くんと言い争いになった.私はその様子を眺めてみているだけであったが、先輩は頭に血がのぼっているのか冷静さを欠いた様子であったが、龍弥くんはどこか余裕が感じれて、先輩を挑発しているように思えた.


 そのこともあって、ついに先輩の怒りが頂点に達したのか、先輩は龍弥くんに向かって殴りかかろうとした.しかしそれは先ほど龍弥くんが撒いたワックスでこけるという結果に終わった.まるで、龍弥くんは先輩を、何から何まで手の上で転がしているようであった.


 それから、先輩を床に押さえつけた龍弥くんは、先輩と今回のことを録音した音声を元に交渉を行い、私の意見も取り入れた上で、二度と私たちに関わらないように説得した.最後の方で、彼が先輩の前髪を切った時は、少し先輩に同情してしまいそうになったが、先ほど私が受けたことと比べると大したことではないように思えたので、何もいうことはなかった.


 

 先輩が去った後、私たちは教室に2人きりになった.すると、彼はこちらに振り向きどこか気まずそうに、つい先程のことを謝り、自分もあの先輩と変わらないクズであると言ってきた.そして、私に背をむけ掃除棚に向かっていこうとした.この時、私はこのまま何も言わないと彼との距離が以前よりも大きく開いてしまうような気がした.それは何よりも嫌だった.だから私は彼の裾を引っ張った.すると、勝手に口が開き、


『そんなことない!君は泣いている私を見過ごせず、戦っても勝ち目がない相手に立ち向かってくれた.

そして、勝って今後の心配事もなくしてくれた.それは、誰にでもできることじゃないよ!それに、君の立ち向かう後ろ姿、とってもかっこよかったよ.』



と大胆なことを言ってしまった.ものすごく恥ずかしかったが、目の前の龍弥くんはもっと恥ずかしかったのか、下を俯いていた.


 しばらくして、落ち着きを取り戻した、龍弥くんは私に聞いてきた.


「君は俺が、クズではないって言ってくれるのか?」


 その言葉を聞いてきた時、私は彼は、一体何を言っているのか不思議に思った.こんなに、優しく、他人を思いやれる人がクズなわけがあるはずがない.彼がいなかったら、私の今後の人生は壊れてしまっていたかもしれない.なので、私はそのことを伝えた.


 彼は、しばらく考え込んでしまったが、何か答えが出たのか清々しい顔になった.


 だがその時、ふと彼にお姫様抱っこをされたことを思い出した.小さい頃は、親に抱っこやおんぶをされた経験はあるが、それも小さい時の話だ.学年が上がるにつれて、男性に恐怖心が芽生えたために、当然交際したこともないため本当に初めての経験であった.


 小さい頃、映画で見た王子様がお姫様にお姫様だっこをする様子は、恥ずかしそうだが羨ましいとも思い、今でも将来結婚する相手にしてもらいたいと思っていた.このことから、私は彼に向かって大胆なことを言った.


『それに私、初めてだったんだよ、お姫様抱っこ.すご〜くはずかしかったんだから、責任とってよね!!』


そういった私は身体中の体温が明らかに高くなっていることがわかりながらも、彼も勇気を出して、自分に告白してくれたのであろうと思い、保留にしていた彼の告白の返事をすることにした.


『あなたの告白を受け入れます.今後とも末長くおねがいします.』


 そういうと彼は、戸惑った様子で本当なのか確かめにきたが、私は間違いなく彼が好きになっているのでそれを肯定した.だが、その聞いてきた中で、彼が彼自身を否定するようなことを言ったのは私にとって我慢ならなかった.私の彼氏で、私の恩人で、私の王子様の彼を否定するような発言は、たとえ彼自身でも許しがたかった.そのことを話すと、彼は自身を否定しないように努力をしてみると言ってくれた.


 だが、その時も、私のことを「高野さん」と言っていることがとても嫌だった.私は、小さい頃から交際した相手とは、ともに名前で呼び合う関係に憧れていたからである.しかし、そのことについては私の口から言われていうのではなく、自らの意思で言って欲しかったため、それは、一緒に帰って別れるまでの宿題ということにした.素敵なご褒美をあげるとは言ったが、この時、実は何も考えていなかった.このように言えば、彼が頑張ってくれるかなと思って言ったのだが、効果はてきめんだったようだ.


 また、彼は一緒に帰るという言葉にも反応した.私からすれば、こんなにも愛おしい人と少しでも長く一緒にいたいと思うのは当たり前のことであったのだが、彼は違うのだろうか.そう思うと、突然泣きそうになってしまったが、彼が即座に「全然嫌ではない」と言ってくれたので、とても嬉しかった.


 



 掃除も終わり、一緒に帰ることにした.その際に彼のことについていろいろ聞くことができた.さっきの先輩との会話の中で、彼の母親があの有名な「綾瀬 涼子」であることを聞いてとても驚いたが、どうやら彼は彼と妹を含めた4人家族であるらしい.私は姉妹はおらず、一人っ子であるためとても羨ましかった.


 そのような感じで、互いのことについていろいろ聞き合っていたのだが、彼が今住んでいる家が私の家の前にある8階建ての建物であることは特に驚いた.どうやらそこの405号室であるらしい.そのことはとても嬉しく明日の朝、彼の家を訪ねて一緒に登校しようかなと思うほど浮かれていた.


 

 楽しい時間が過ぎるのはあっというまであるというのはどうやら事実のようであり、時間も忘れて彼と話しているうちにいつのまにか私たちの家の前の道路についていた.


 結局、彼は私の出した宿題の答えを考えるのを忘れていたようで、答えはわからないらしい.私との会話に夢中になっていたという理由がとても嬉しかったし、このことに関しては、自身で答えを見つけて欲しかったため、ご褒美はお預けということで、さよならを言ったが、彼がさよならを言いかけて、途中で止まってしまった.急にどうしたのか心配になったが、彼がなんでもないというのでそれを信じて、再びさよならをいうと、不意に


「うん、それじゃあね、由紀さん」


 と、名前で呼んでくれた.


[嬉しい.本当に嬉しい!また私の叶えたい夢が叶った!!]


そう思って黙り込んだ私が怒ったと感じたのか、龍弥くんは謝ってきたが、悪いことなんてあるわけがない.むしろ逆であるので否定したが、ここで私も例の素敵なご褒美について何も考えていなかったことを思い出した.だが、今の私は嬉しさのあまり調子に乗っていたのかもしれない.


 私は彼に近づくと、戸惑う彼の頬にキスをした.そして、あまりに突然の出来事に止まったままに三度目のさよならを言った後、彼の返事を待たずにそそくさと家の中に入っていった.



 家に帰り着いた私は、親からおかえりと言われたにも関わらず、それを無視して自分の部屋のベットに飛びこんだ.


(私は、なんて大胆なことを.いくら彼のことが好きだからって、付き合って初日でというよりも、初めて話した日に.こんなの危ない子だと思われるじゃない.)


と、ベットの上で悶々としていると、何も言わずに部屋に戻った私を心配して、母が部屋に入ってきた.だが、ベットの上で、暴れている娘を見て呆れたように、


「あんた、何やっているの?ただいまも言わずに部屋に戻るなんて.もしかして、彼氏でもできたの〜〜」


と、にやけながら言ってきた.当然、彼女も娘が男子に対して苦手意識があることを知っているためからかいのつもりで言ったのだが、


『そ、そんなわけないじゃん!私に彼氏ができて、ほっぺにキスするなんてありえないし!』


と、慌ててあまりにわかりやすく否定したことにより、とても驚いた.


「ついに、由紀に彼氏が!今日はお祝いね!はりきって作るわよ〜〜〜」


と、はりきってリビングに向かったため由紀は、


『そんなのじゃないから〜〜』

と言いつつも、嬉しさが隠せない様子でいた.



 結局、母親を誤魔化しきれず、彼のことについて説明した.その際、先輩のことについては伏せて説明したためものすごく大変であったが、私の力説により彼のことについて納得してもらい、安心したような表情になり、「今度、うちに連れて来なさい」と、優しい顔で私に言うのであった.


 それから、お風呂に入って髪を乾かし、いつも通りの肌のケアをした後、スマホの画面を開くと、多くの友達から、私を心配するメッセージが届いていた.


 ほんとはいろいろあったが、みんなには心配ないと告げた.私のせいで、みんなに気を遣わせたくなかったからである.詳しいことは明日話すことにして、メッセージアプリをとじた.


(そういえば、龍弥くんはメッセージアプリ使っているのかな?帰ってからもたくさんお話ししたいな.そうだ!明日聞いてみよう.)


 と、決意して、今日出された課題をして、終了次第ベッドに入り眠りにつくのであった.







今回で、回想兼後日談は終わりです.

次からは、本格的に2人の学校生活をお送りしたいと思っています.

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