3話 ぼっち陰キャと救出劇
普段使われることのない非常階段を降りて1階に辿り着いた龍弥が目にしたのは、本日誤った告白をしたことで好奇の目をいろんな人から向けられる原因となった、隣人かつ学園のマドンナである高野 由紀が先輩に腕を掴まれ壁に押し付けている様子であった.
(え、こんなシリアスな展開?今日は本当についてない日だな…)
と本日の極端な運のなさに悲壮感を抱きながら、現在の状況の打破について考えていた.
この時の龍弥にとって、このような状況を見過ごすなんていう薄情な考え方は存在していなかった.それは、龍弥の考え方や生き方を変えるきっかけになった中学時代の出来事が関係しているのだが、それを抜きにしても自身が本日友達になろうとした人物を1日もたたず、見捨てるなんてことはしたくないという理由からであった.
(しかし、どうやって状況を打破するか?)
中学の頃バスケ部に所属していたこともあり、同じ学年の部活をしていない男子よりはガタイが良いつもりではあるが、相手は上級生でしかも運動部である.正面から正々堂々と挑んでなんとかできると思うほど、龍弥は楽観的な思考の持ち主ではなかった.しかし段々と、打開策をゆっくり考えられる状況ではなくなってきてい流ようであった.それは、
「お前が俺と付き合わないというのなら、俺にも考えがある. 俺の親父はこの学園に多額の寄付をしているんだ. この意味わかるよな? お前の高校生活は返答しだいでは終わりだと思え.」
『そんな…そんなことって』
と、龍弥の目の前でまるでよく漫画であるようなことが始まってしまったからである.しかし、漫画ではまだ笑い話となるが、実際に同じような場面に出くわしてみると全く笑えるものではなかった.さらに完璧に怯えてしまっており、泣き出してしまった高野を見ていると,目の前で彼女を泣かしたクズを見逃すことなどできるはずもなかった.そして,
「おい、テメェ‼︎ 女の子は泣かしてはいけなくて大切にしないといけないって親から教えてもらわなかったんか」
と、換気扇の物陰から勢いよく飛び出した.
その様子を見て、片方は急に出てきた男を不機嫌な目で睨みつけ、片方は今日急に告白してきた男が現れたことにより、泣くことを忘れ、驚いた様子で目を見開いていた.
「なんだテメェは‼︎こっちはいま取り込み中だ!!関係ないガキは家にさっさと帰れ‼︎」
「ふざけんな‼︎ 俺は目の前で泣いてる女の子と泣かしてるクズを見逃して帰るほど男が廃っちゃいねんだよ!!」
と、そんなことを言いながらも頭をフルに回しこの状況を打破する方法を必死に考えていた.こっちは部活をやめてからろくに体を動かしていないのに対し、相手はおそらく運動を続けているであろう上級生.勝ち目は全くないように思われた.だがこの時龍弥はとてつもなくカッコ悪い方法を閃いた.
(ダセェ方法だが、手段を選んではいられないな.)
そう思ってとある作戦を実行することに決めた.
「そうだ!お前、今日こいつに告ったやつだろ!陰キャの癖してイキった真似してるんじゃねえぞ‼︎」
「確かに俺は話すのが苦手だし、陰キャに間違いない.だがな、陰キャが陽キャに劣ってるなんて誰が決めた‼︎
少なくとも俺はお前に劣っているとは思えねぇんだよ!」
「んだと‼︎ならお前が俺よりいかに劣っているか体にわからせてやるよ‼︎」
そう言って、先輩は高野を離し、俺に向かって段々と距離を詰めてきた.
それに合わせて龍弥も上級生に向かって歩き始めようとした瞬間に、
「おっと」
と、龍弥は躓いて前のメリに倒れてしまった.
「何やってんだ!舐めてんのかテメェ!!」
と、龍弥の髪をつかみ引っ張り上げた.
そして、その顔に向かって掴んでない方の拳で殴りかかろうとした瞬間、
狙い通りに龍弥は転んだ時に掴んだ両手いっぱいの砂を先輩の目を目掛けて投げ入れた.
その瞬間、
「俺の目が!目が!」
と、龍弥を掴んでいた手を離し、自身の目に当てて、そのまま跪いた.
その瞬間を狙って、未だに驚いたままの高野をお姫様だっこのようにして抱え、胸元で『ちょっと‼︎えっ!えーーーーー』と腕の中で声をあげている高野の声を無視して、走って逃げ去った.
後ろで「逃げんじゃねぇ!!この陰キャがーー」と叫ぶ声が聞こえてきたが、龍弥は
(また漫画のようなことを言いやがって)
と思いながらも、その声も無視して必死に非常階段を駆け上がっていった.
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