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【第38話】地下牢にて

「エクレンシア!」


 石の壁と床で閉鎖された、地下牢の淀んだ空気を引き裂くように、慌ただしい靴音と声が響いた。


 速足で牢の前にやって来たのは、アルマン司教とリューンだった。


「アルマン様……リューンっ」


 アルマン司教は眉間に皺を寄せて少しだけ息を切らし、どことなく顔色も良くないように見える。


 リューンは……顔には出てないけど、たぶん、ちょっと怒ってるみたい。


「遅くなってすまない。実は、君の処遇が決まった……」


 アルマン司教の表情から考えると、あんまり良いしらせじゃなさそう。


「君は明日の朝、神前裁判にかけられる事になった」


 例によって、尋問も取り調べもなくいきなり裁判か……。


 まあ、いきなり処刑、よりはマシと言えばマシかな?


「では、それが無実を主張する、最後の……機会ですね……」


 アルマン司教は厳しい表情で首を振った。


「これは茶番だっ……。ジーク・ベレントもセラフィーナ・ベルクールも出廷しない。それどころか、君には弁護人も付かないし、証言の機会も与えられないっ! つまり、もう有罪が確定しているのだ!」


「ま、まってくださいっ。それって、どういう事ですか!?」


 いくら何でも酷すぎる。そんなの裁判でも何でもないじゃない! 


「ベルクール家が手を回したらしい」


「セラフィーナの!?」


 あの女、綺麗な顔してやることはホントにえげつないわね。


「君も知っていると思うが、ベルクール公爵家は王家へ連なる名門。教会への寄付の額は、王家のそれを上回るほどだ」


 うん、それは知ってた。だから教会もベルクール家にはほぼ口出しできないし、ベルクールの意向も無視できないでいる。


「神官の中にも、ベルクールの息のかかった者が少なからずいる……恥ずべき事だが、それが今のユウェンティール教の実態だ」


「あの豚……ああ、フェリクスだっけ? 名前なんてどうでもいいね。あいつがその代表、って感じみたいだよ」


 リューンはそう言って、冷たい笑みを浮かべた。


「もう一刻の猶予もない」


 アルマン司教は、法衣の下に隠したショートソードを取り出した。


「な、何をする気ですか!?」


「牢のカギを壊す。幸いここはただの牢だ、魔法による結界はない」


 アルマン司教は本気だ。本気で規則も法も犯すつもりだ!


「止めてっ、止めてください!」


 剣を抜こうとしたアルマン司教を慌てて止める。


「明日、午前中の裁判で罪が確定し、その後君はシャトーラズの監獄へ移される。そして、明後日の朝には刑が執行される。もうこれしか君を助ける方法がないのだ! シャトーラズには、私は入る事ができない。だからここで君を逃がす。後の事は私に任せて、君はこの少年を連れて国境を越えろ」


 アルマン司教は早口でまくし立てる。いつもの、冷静なアルマン様じゃない。


「駄目です! そんな事をしたら、アルマン様までお咎めを受けます!」


 何としてもそれだけは止めなきゃ!


 鉄格子を握りしめ、顔を押し付けるくらいに寄せる。


「私の事はいい……」


 アルマン司教の声が、心なしか震えているような気がした。


「聞いてくださいアルマン様……アルマン様は、私の無実を証明すると、誓ってくださいました……」


「ああ……だが、私にはその力がない……」


 アルマン司教は悔しそうに歯噛みして、剣の柄から手を放し、その手をじっと見つめた。


「……私では、フェリクスやベルクールの意向を覆す事ができない……だから、せめてっ……」


「今はそうかもしれません……ですからアルマン様。アルマン様は、長生きして、今よりずっとずっと偉くなって、フェリクスもベルクールも教会から追い出して……そしていつか、私の無実を、証明してください」


「パーミット……」


 アルマン司教は顔を上げて私の目を見つめた。


「それが、私の望みです。私は大丈夫ですから、もう一度……誓ってください。お願いです」


 私も、アルマン司教の目をまっすぐに見つめ返した。


「……君は……」


 アルマン司教が何か言いかけた時、ふふっと笑う声が聞こえた。


「リューン……?」


 リューンはやけに冷めた目つきで私たちを眺めていた。


「随分と殊勝な心掛けだな……変わるものもあれば、変わらぬものもある、という事か……こんな茶番劇を見るのは久し振りだ、実に青臭くて滑稽なものだな……だが……悪くない」


 リューンはそっと鉄格子の中に手を伸ばし、私の頬に触れた。


 小さくて、暖かくて、そして優しい手。


「お前は愚かだ、パム……誰よりも、な……」


 冬の月のように静かで冷たい笑みが、春の日差しの温かさに変わる。


「……でも、好きだよ、お姉ちゃんの、そういうトコ」


「り、リューン……!?」


 なに!? 今、何か、刺さった。きゅんって、胸に……。


「大丈夫、絶対に助けるから、僕を信じて。お姉ちゃん」


 リューンの手が、私の頬を優しく撫でる。


「うん……信じてる……」


 リューンは、私を見つめたままそっと頷く。


「安心して、今は眠って……良い夢を見られるから、ね」


「う……ん……」


 頭がぼーってなって、そのまま眠りに落ちた。




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