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ガチムチ山

作者: 榊 凪

ここにきたということは、君もムキムキになりたいんだね!

 むかしむかし、筋肉に取り憑かれた老夫婦がおったそうな……。


 おじいさんは畑にプロテインを植えるためにクワを持ち出かけて行った。

 おじいさんはせっせと畑を耕し、1つ、またひとつプロテインの種を撒いて言った。


「大きくなーれ、大きくなーれ」

 そんなことを言いながら撒いていったそうだ。


(なんだ、この美味しそうな匂いは)


 そこへあらわれたのは、上腕二頭筋を隆起させた狸さんだった。狸さんは狂ったようにジムに通うライザップの常連だった。

 鼻をピクピクと動かしおじいさんの背負っている籠にあるプロテインの種を気がつかれないようにパクパクと食べていったそうな。


 軽くなっていく籠に違和感を感じたおじいさんは自慢の筋肉、腹直筋を硬らせながら後ろを見たのじゃ。



 そこにいたのは口いっぱいにプロテインをキメている狸さんがいたのだ。


「クソ狸が!! よくも貴様やってくれたのぅ」

「ふふふ、そこにプロテインがあったからにきまっているだろーーー!!!」


 欲に事欠かない狸さんは手についたプロテインをペロリと舐め、にやりと笑って見せた。


 だが、筋肉量ではおじいさんに軍配が上がるようで萎縮してしまう。



 それを見逃すおじいさんではない。狸さんの背後に回り込み、美しすぎるジャーマンツスープレックスを決めたのだ!



「グハッ!」

 息をするまでもなく縛り上げられる狸さんは、気がついた頃には、おじいさんの筋トレ部屋に亀甲縛りで吊るされていたのだ!!(迫真


「くっ、ここはどこだ!!」

 あたりを見渡すと綺麗に磨かれた運動器具たちのオンパレード、狸さんは目を輝かせた。



 扉を開け、そこにやってきたのはスポーツブラに身を包んだおばあさんだったのじゃ。


 体から湯気を立たせ気持ちよさそうにチェストプレスに跨がり雄々しき声を上げながら筋肉を虐めていた。

 おばあさんが動く度に重りが上下し筋肉を適度に刺激する。


 揺れ動く胸筋が楽しそうに膨らんだり萎んだりしているのをたぬきさんは食い入るように見ていたのだ。


(なんて仕上がった胸筋だ……あれは1年や2年で仕上がる筋肉じゃねー)


 たぬきさんは嫉妬してしまった。自身の胸筋を眺めあの膨らみが欲しいと嫉妬してしまうのだった……。



(殺せばあの筋肉の秘密が分かるかもしれない……)


 たぬきさんはおばあさんに声をかけることにした。


「なぁ、あんたのその胸筋きょうきん……仕上がってるね〜」


 お婆さんはその声でやっと狸さんの存在に気がついたのだ。自身よりも貧弱な筋肉を持つ狸さんをお婆さんは鼻で笑うことなく、優しい声で問いかけるのだ。



「なんだい狸さん? どうやら見る目だけはあるようだね〜私の筋肉はそんじょそこらのダ筋ではない。それであんたの筋肉ここで筋トレしたがってるのかい?」


「お、ほほう、婆さんわかってるじゃねーか! 俺の筋肉がその器具で遊びたいって疼いて止まらねんだわ」



 婆さんはクスリと笑い、狸さんに問いかけるのだ。


「Why don't you do your best?」


「なに?」


「Why don't you do your best?」


「婆さんあんた!」



 クスッと笑うお婆さんは葉巻を口に加えて三度繰り返すのだ。


「Why don't you do your best?」


 狸さんは不適に笑った。

 そして……。



 ブチ、ブチブチ!!!!!!!


「はぁぁぁぁぁあ!!!! サイドッ! チェストォ!!」


 増強されていく狸さんの筋肉は次第に膨れ上がり、きつく縛られた亀甲縛りにくい込んで行く。

「くっ、硬いな!!」

 なんと、縛られていたロープは鋼を用いたワイヤーロープだったのだ!!!!


(な、なんだとぉぉぉぉおお!!!!!! お、俺の筋肉達が悲鳴をあげてるじゃねーか!!!!!!……あのじじいめ。お、俺にこんなご褒美を寄越すなんて……ふふふ、分かっているじゃねーか!!!!)


狸さんは興奮した。その光景を頭に焼き付けるたぬきさんはおもちゃを与えられた子共のように目を輝かせるのだ!!


(何だこの狸は……自らの筋肉を膨張させてあのワイヤーを断ち切ろうというのか…………ナルホド。面白い)


 やって見せておくれ。爺さんのあのくそみそテクニックはこの業界でオンリーワンを誇るものだ。これを解けたら私と同等、いや、それ以上の締まり具合を持つ筋肉となる。やって見せろ!!!! お前の力はそんなもんじゃねぇーーーだろぉぉぉぉぉお!!!!!!!



 ねっとりとした笑みを浮かべるお婆さんはチェストプレスから降りる。

消えかけの葉巻を灰皿にぶっきらぼうに置き、台根みたいに太い筋肉で腕を組んむ。


「やれるものならやってみせよ!!! まだ本気じゃねーだろ!! 熱くなれよ!!!! 気合がたりねーんだよぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!」


 叫ぶ両者の声は次第に反響し合い家を揺らした。



「オォォォォォオ!!!!」

「はぁぁぁぉぁあ!!!!」



 ブチ、ブチブチ!!


 パキン!!


 弾け飛ぶ拘束器具!! バラバラに飛び散る金属片はまるで打ち上げ花火のような輝きを誇っている。美しい、美しすぎると婆さんは拍手を送る。だが、その時間も僅かなものだった……。




「婆さん、お前はもう、死んでいる!!」


 指を刺された婆さんの頭部には鋼鉄のワイヤーが突き刺さっていた。


「やるじゃないか、獣よ。お前の大胸筋……仕上がってたぞ」


 お婆さんは親指を立てたままそのまま眠るように息を引き取った。



 その様子を見ていた日雇いのバイトのウサギは親指を噛みながら悔しそうに見ていたのだった。


 ウサギはおじいさんに事の顛末を話すと、おじいさんは泣いた。婆さんの愛用していたベンチプレスにすがるように跨がり狂ったように筋トレを始め出した。


「ばぁーーーさぁーーーーーーんんんんんんんんー!!!!!!」



 愛していたのだろう。自身の上腕二頭筋を我が子のように褒め称えてくれるあのお婆さんの事が忘れられなかったのだろう。


 機械は悲鳴を上げる。おじいさんはそれでも尚ベンチプレスで自身の筋肉を苛めるのだ!



(こんなおじいさんは見たくない)


 ウサギは考えた。あのクソ狸を筋肉を使わずに倒せないかと……。


 考えた末に出てきたのは……。




 ◇


「狸さん狸さん、私に筋肉を教えてくださいませんか?」


「お? バイトのウサギか……いいだろう。筋肉を超えた超筋肉を持つ私の全てを叩き込んでくれよう」

 意気揚々と通い詰めているマイホームこと高木ジムに狸さんはいくことにした。



 むさ苦しいジムの中ではすでにいろんな人たちが筋肉を苛め抜いていた。


 隣町の田中さんや、ライザップに成功した山本さんらが楽しそうにランニングマシーンを最速にして走っているではないか。



 ウサギさんはランニングマシーンを指を刺し狸さんに手本を見せてもらうことにした。




「むむむ! これがいいのか? よろしい。私のはハムステリングスを見せてやろう」

(補足、太もも)


「おねがいしまっす!! あにーきのきんにーくみせーてください!!」


「お前言葉変な鈍りあるよな」

「そんなーこと、ありまーせん」

 狸さんは首を傾げながらランニングマシーンを乗りいそいそと走り始めた。

 その後ろではウサギさんは筋肉オイルをランニングマシーンにこぼした。


 思いの外多すぎたのか狸さんは顎から落ちた。

 そう、二つに割れている大きなケツアゴから行ったのだ。


「ヒデブッ!!」

「だ。だいじょーぶですーか?」

「な、なんともない」


「それならよかったでーす。これ、筋肉疲労に効くって先生から」


 渡されたドリンクボトルにはプロテインの激辛味噌味が入っていた。


 それを受け取った狸さんはそれを受け取り一気飲みした。

「ぶふっ!!!!!! な、何だこれは……何で力強いプロテインなんだ。こんなプロテインは初めてだー!!!!」


狸さんは鼻から勢いよく激辛味噌プロテインを噴出しその場に崩れ落ちた。


 ウサギさんはこの時このプロテインにあるものを仕込んでいた。

 そう、毒である。

 筋肉を増幅させてしまう。ある意味筋肉オタクたちに大歓喜のお薬である。だが、この薬は協議会で禁止されているドーピングであることをまだ狸さんはしらない。

鼻についたプロテインを手の甲で拭ったあと、ウサギさんが訪ねてきた。



「狸さん、たぬーきさん。見違えるような筋肉になりましたね!一度ポージングなんかをしてみたーはくれまーせんか?」


狸さんはノリノリで歯を見せて笑い両手をさらに掲げポージングを決めていた。

!!フロント・ダブル・バイセップス!!

華麗なるポージングを決めた狸さんは満足げに膨らんだ筋肉を愛でていた。

「狸さんたぬきーさん、『一つ』いいでーすか?」

「ど、どうした」

「この先の川の対岸に筋肉に効果のある超絶プロテイン農家があるーそうなんでーす。そこの『超絶⭐︎プロテイン』を収穫にーいきーませんか?


 ウサギさんが用意したのは二つの船だった。


 一つは木でできた軽そうな船。

 もう一つはガッチリとした筋肉を催した金属で出来た船だった。


「たぬーきさんどちらーにのりまーすか?」

「無論、俺は筋肉みたいなのが金属の筋肉船に乗るぜ!」


「わかりまーした。超絶⭐︎プロテイン農家はあの対岸の家にあるーそうですーよ」



 そうと分かればと、狸さんはいそいそと筋肉を動かし筋肉船を漕ぎ出しました。


 漕げば漕ぐほど速くなる筋肉船が、楽しく狸さんはウサギさんを追い越し川の中程まで漕ぎ進めたころ。




「爆破エンドーは好きではありませんが、あなた、は嫌いですので、しんでーくださーい」


 手に持っている赤いボタンを『ポチ』



ドガァーーーーーーーーーン!!!!!!!!


 その瞬間、狸さんの乗っていた筋肉船は弾け飛び、かろうじて無事だった筋肉ダルマの狸さんは泳ごうとするが、凶暴に増大した筋肉が足枷となり徐々に川へと沈んでゆく。





「ぐほぉ!!! だ、騙したなクソ兎!!!」

「引っかかるお前が悪いんだよくそが。婆さんの仇はうった。さらばだクソ狸。地獄で閻魔様に詫びてろ!!」



 沈みゆく狸さんを尻目に白タバコに火をつけ颯爽とトレンチコートを羽織りハードボイルド風にその場を立ち去るのであった。

どうだい、自身の筋肉が喜んでいるだろう!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] タイトルも掴みも良かったのに中盤で飽きて適当に終わらせた感がひどい 出オチ小説なのは分かるが、筋肉だけじゃなくて文章力も鍛えようぜ!!
2020/06/19 11:36 名無しさん
[一言]  笑いが止まらない! 勢いが強すぎてあっという間に飲まれてしまいましたw  そして最後のウサギの場違い感。最初から最後まで面白いの一言です。
[良い点] ストーリーや世界観に然程手を着けず、キャラクター性の崩壊と筋肉言語が素晴らしい話でした。とても面白かったです。 (*´д`*)
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