第90話 恐怖の大王の件
─────とうとうこの日がやってきてしまった。
ここのところ平和で少したるんでしまっていたかもしれないが、今日は朝から司令棟が緊張………いや、緊迫している。
─────今日から、またブルーが出勤してくるのだ。
────ブルーがとうとう免許証を手に入れてしまったんだ。
ブルーが免許を取るってのは確かに嬉しいことだ。
────だって、自分で運転出来るなら俺が毎回運転手しなくて良くなるんだから。
でも、願わくばずーっと免許取りに行ったまま帰ってこなければいいのにって心の片隅では思っていた。
────俺、毎回出勤日には『敵が攻めてきませんように。ブルーに会いませんように』って神に祈ってから出勤してたくらいなんだよ!?
────でも、なんかわからないけど、G-バースト団の奴等は俺が出勤してる時ばかり事件を起こしやがる。
その度に『────マナ・B、ブルーと至急現場まで直行せよ!』って命令されて、その度に俺がブルーを現場に連れていく羽目になってたんだよ。
そうじゃなくてもブルーと顔を合わせる度にいじめられるんだ。
………俺ばっかり損な役回りだと運命を呪ったよ。
─────いや、だって、俺以外も車両部は何人もいるんだよ?
────でもさ、みんなブルーを怖がって俺に押し付けてくるんだ。
元々うちの車両部はT.O.F.U.の中でも荒くれ者の集まりだって有名だったんだよ?
───あまりの荒れっぷりに車両部は今まで何人も上司が変わってる歴史があるんだよ。
────新しく来る上司はみんなストレスでメンタルやられて、半年以内に他の部署に転属ってのが定番で、仕方ないから最近は司令官直轄の部署だったんだ。
────それが、とうとう司令官まで逃げ出したんだよ。
理由はうちの部署の荒くれ者は関係なしに、ただ単に司令がブルーに関わるのを極力避けたいから車両部の責任者から降りたんだよ!
そんで、いつの間にか知らない内に俺が車両部の部長ってことになってたんだよ!
─────そんなのってないよな!?
────俺、普通の平社員だったんだよ!?
ただのメカニック兼ドライバーだったんだよ!?
うちの車両部は整備運転課、輸送課、設計課、企画課の4つの課から出来てるのに、課長飛ばして一気に部長のポストにつかされたんだよ!?
───ただ、俺をブルーの為の生け贄にする為だけにだよ!?
───うちの車両部はみんなブルーを恐れているんだ。
───あの荒くれ者の集団と恐れられた車両部がだよ!?
ブルーのいつもの傍若無人なやり方と、AIすら手懐ける手腕に、歴戦の猛者が一目置くどころか、もう司令官をすっ飛ばして平伏してる感じだ。
もう、恐れているって言うよりもう敬っているといってレベルだ。
車両部では『神か悪魔かブルー様か────』と言うくらいにもう信仰の対象になりつつあるよ。
────ブルーがクーデター起こしたら間違いなく車両部はブルーに従うね。
で、車両部は結構他の社内の武装組織に顔が利くからね、クーデターは間違いなく成功してしまう。
───だからね、車両部は極力ブルーと接触しない様に配慮してるんだ。
────俺が犠牲になってね。
─────ああ、俺って不幸だ。
────でも俺もただ黙って部長のポストを受け入れたわけじゃない。
俺が出世したことはブルーに絶対内緒にすることを条件に部長のポストを受け入れたんだ。
そんな事ブルーに知れたら、どんなひどい目に遇わされることか………。
『────俺が部長をやめたらお前らブルーと直接やり取りすることになるんだからな』
って最初の部長昇進の挨拶で車両部の朝礼で言った時にその場の空気が凍ったのが今でも忘れられない。
────あれが俺が車両部全員の心を掌握した瞬間だったよ。
───ブルーと直接やり取りするってことは、地雷原でマラソンするより過酷な状況だってみんな理解していたからね。
────そんなブルーが今俺の前にいる。
「────ほーれ、見てみ?免許証だぞ!?ほーれ、ほーれ!」
────暇をもて余したブルーが免許証を額に両面テープで張り付けて頭突きをかましてくる。
「────や、やめてくれよ、わかったからさ!」
「────ほーれ、事件を解決しながらも補習なしで取得した免許証を有りがたく拝見しろ~」
「────わかったわかった!ブルーが嬉しいのはわかったから!」
「────ん~?なんだってぇ~?」
「────凄いよ、ブルーは凄いって!!」
「────拝観料は一億万円~」
「────か、金取るのかよ!?」
「────なんでも金で解決出来ると思ってるなんて心が荒んでるなぁ~」
「────ブ、ブルーが言ったんじゃ………」
「────なんでも人のせいにするなんて、きっと幼稚園の先生に怒られちゃうぞぉ~」
「────ブルー、もう許してくれよ………」
「───許す?────怒ってないけどぉ~?」
───ああ、もうほんと、このやり取り精神力削られるんだよ………。
何か逃げる方法は………あ、あった!!
───あの手があった!!忘れてた!
「────ブルー、そう言えば頼まれてた車、完成したって!」
「────ほほぅ、金がない私のために安上がりで入手してくれたと言う例の車の事か?」
「────ブルーの要望通りに軽自動車にしたけど………きっと驚くよ!」
「ほほぅ、それは楽しみだな………期待はずれな時はおっさんを公開処刑にするが、それはよいな?」
「────ははは、司令が処刑されない事を願うよ………」
────ああ、良かった!
─────あ、ブルーが満足できなくても俺は助かりそうだ………とか素で思ってしまった。
─────司令、ごめんなさい。
今回はマナ・B目線でお送りしました。
いつの間にかマナ・Bは車両部の部長にさせられていたと言うのがみそです。
マナ・Bは元々車両部のエースでしたが、ブルーへの生け贄としての価値観の方が認められての昇進です。
本当なら昇進は嬉しい筈ですが、いつブルーにバレてそれをネタにひどい目に遇わされるかビクビクしながら毎日を過ごしているようです。




