第76話 自己紹介の件
―――――ズズズ。
ガヤガヤガヤ
─────ズズズ。
ヤンヤヤンヤ
「─────ばぁさんや、ナニやら外が騒がしいね?」
「そうですねぇおじぃさん。今時の若い人達は元気で羨ましいですねぇ」
─────ズズズ。
顔面の主の入れてくれたお茶を飲みながら、間が持てなかった俺がちょっとボケたら顔面の主がしっかり乗っかってきた。
─────お主なかなかやるな。
でも、まさか乗っかって来るとは思ってもみなかったから次が続かない俺がいた。
──────ズズズ。
でも、まぁ、ただのお金持ちのお嬢様かと思ってたが、バスの事故の時にもパニックになっている奴が多い中、助かるための行動を起こしていたってのは凄いね。
どちらかと言うと女性でも華奢な部類に入ると思うのだけど、彼女の行動が周りを動かしたと言っても過言ではないと思う。
────あの時動いてたのが俺だけだったら、他の人は手を貸さずに、自分の身を守る行動をとってただろう。
………んで、その場合の結末は、俺が運転席からドライバーを引きずり出せずに崖下にバスが転落してバス大爆発だっただろう。
────そんで皆で天に召されちゃってたのだろう。
まぁ中にはしぶとく生き残る奴も居ただろうけど、まぁ五体満足とは行かなかっただろうな。
まぁ、その場合は俺は天に召されずに地獄に突き落とされそうだけどな。
────天に召されちゃう位の人物なら今の俺のハードモードの人生は理屈に合わないからな。
────神様、もう少し、いや、最上級に俺を甘やかしてくれ!
「────さっきは助けてくれてありがとう。でも俺のせいで部屋の前でうるさい連中が迷惑かけてるよな………お茶ご馳走さま」
無言に耐えかねたってのもあるけど、やっぱり俺の行動で誰かに迷惑かけるのは心外だったから、俺は席を立って部屋の前の奴らを追っ払いに行こうとした。
「─────貴方が行くと騒ぎが大きくなる筈なので、私がいきますよ。その方が良いとわかったので」
そう言ってにっこり笑った後、俺が出ていこうとするのを制止して顔面の主が廊下に出ていった。
………出ていったあとどれくらいの時間が経っただろうか?
多分長くても五分はかからなかった筈だ。
出ていく時とかわらずにニコニコしながら顔面の主が帰って来た。
「───皆さん、納得して帰っていかれましたよ」
「────あ、ありがとう」
────凄いな、あのヒートアップした連中を納得させて引き上げさせたのか………
────でも、それより気になったことがある。
「─────その方が良いとわかったってどういうことだ?」
「─────あら、気を付けていたのですけど………つい出てしまうことがあるんですよね。もっと気を付けないと!」
なんかそう言って一人でぐっと手を握り、体に引き付けて締めるようにポーズをとる。
────ああ、彼女は気を引き締めるときはああいうポーズをとるんだね。
───なんか子供っぽいな、と思った。
────でもなんだろう?
────気を付けてないとつい出てしまうもの?
────鼻毛とか方言とか目からビームとか?
………まぁ、ビームは出ないか。
───とりあえず適当に流しておくか。
「─────俺もいつも気を付けていないとインテリジェンスがついつい出ちゃうんだよな~。特に耳とかからね~」
手に隠したティッシュペーパーを、さも耳から出てきたようにみせた。
───プッと吹き出す顔面の主。
────あ、ちょっと場が和んだな。
廊下も静かになったみたいだし、とりあえずほっとしたよ。
「─────自己紹介しますね。私の名前は"くみん"って言います。なんか名前があだ名みたいで恥ずかしいから、あまり他の人に自己紹介とかしないんですけど………漢字はこう書きます」
顔面の主はテーブルに指で『久眠』と書いた。
「────なんで突然自己紹介したんだ?」
「────今自己紹介した方が良いってわかっちゃったんです」
顔面の主改め久眠は、そう言ってにっこり笑う。
「くみん────か。良い名前じゃん。俺のに比べたら。俺の名前は………」
─────自己紹介されたから俺も自分の名前を教えようとしたら、久眠が人差し指で俺の唇を押さえた。
「─────今はお名前を聞かない方が良いって思います」
久眠は相変わらずニコニコしながら手を引いた。
───手と手が触れただけでも勘違いするのに、指で俺の唇を塞ぐなんて、俺じゃなかったら今頃勘違いして惚れてしまっているぞ!?
────俺の位置からは見えないけど、椅子の裏とかで、きっとその指を高速で擦り付けてるんだろう!?
────んで、『ちょっとまっってて下さいね』とかいって奥に引っ込んだあと『汚物は消毒じゃ~!!』とか言って超強力な消毒薬とかで消毒とか、………もう場合によっては『手遅れだ!もう焼くしかない!!』とか言って焼けた鉄の塊を指に押し付けたりするんじゃなかろうか。
───ああ、どんどん怖い考えになっていく。
もしかしたら久眠は俺を生かして帰す気がないのかもしれない。
ここまですると言うことは、きっと俺を殺して俺の財産を奪うとか………きっとこの部屋もあの時計もそうやって勘違いした漢達の屍の山を築き上げて出来たんじゃ………。
────とここまで考えて気づいた。
俺には奪う程の財産なんてほとんどないじゃん!!
そう考えたら冷静でクールな俺が戻ってきた。
────冷静もクールも同じ意味とか、もう面倒だから突っ込むな。
今度からそういう時は※って書いといてやるから察してくれ。
今後『※』って書いてあるときは『川沿いリバーサイドの様なもの』若しくは『ただしイケメンに限る』のどちらかだと察してください。
────はい、とうとう顔面の主のお名前が判明しました。
───ちなみに、ブルーの本名もまだ公表していませんが。
────大したことないのにもったいつけるのがポイントです。




