第39話 やっと変身かもねの件
『やっほー!ブルー、やっと変身かもね!』
現地まであと少しという所で、モニターにアイちゃんが映った。
『ブルーはずっと名乗りのバリエーションいっぱいノートに書いてたから、一体どんなのでアイちゃんを笑わせてくれるか楽しみだよ~』
あ、いきなりプレッシャーかけてきた。
「アイちゃん、期待されるとプレッシャーで俺のポンポンが痛くなるから、煽るのやめなさい」
そう、俺のお腹はデリケートなのだ。
根拠はないがそう思う。
『アイちゃんはブルーがそんなのでお腹痛くならないの知ってるよ~。"心臓に毛が生えてる"って色んな人に言われてたって!ちなみに、これはゴンザレス君調べ。』
────うむむ、周りの人にはそう評価されているのか。
やれやれ、見る目のない奴らだ。
だけど、俺のマイハートは硝子製、壊れやすいバリケードなのだ。
いや、デリケートなのだ。
みんなは俺の事を大いに誤解している。
失礼しちゃうぞ。
「ブルーは心臓だけじゃなくて他の内臓も毛が生えてそうだよな~」
マナ・Bが俺の心は繊細だというのに、アイちゃんに乗っかって俺を弄りはじめた。
「バカもん!俺は見た目より繊細でか弱いのだ。例えて言うなら波打ち際の砂の城、波◯さんの最後の一本だ!」
───マナ・Bに言われて黙っていられるか。
『ブルー、言ってることわからな~い!あと、◯平さんの最後の一本はかなりしぶといよ~』
うむむ、アイちゃんからの思わぬ援護射撃だ。
こんな所に伏兵が潜んでるとは。
────集団でかわいそうな俺をいぢめるつもりだな!
そっちがその気なら、受けて立つ!
場合によっては九州に住んでいると言う波◯さんの双子の兄、海◯さんを召還して髪の毛を一本引っこ抜いて………いや、それは最後にとっておこう。
────仕方ない、論理的かつスピリチュアルでありながらセンチメンタルな部分に働きかけていくか。
「バカもん!波◯さんの最後の一本はとても大事にしてあげる必要があるのが、お前らにわからないのか!?言わば天然記念物の頭頂部の頂点!レッドデータブックも炎上する世界にひとつだけの日曜日の最後の砦!今でも俺は毎週30分間ずっとあれが抜けませんようにと祈りながら過ごしているのだ!赤の他人にそこまでさせる存在!それ程までに儚く尊い存在!
即ち言い替えれば、俺の様な存在ではないか!結論は"だから俺をもっと大事にしろ!"だっ!!」
『ブルー、バカなこと言ってる間に目的地の近くだよ~』
───あ、唐突におふざけタイム終了だ。
「仕方ない、アイちゃん情報をギブミー」
さらっとテンションを切り替える俺。
オンオフはしっかり区切らなきゃね。
『とりあえず上空の衛星からの空撮画像だよ~』
「こいつらなにやってるの?」
『なにやってるか、アイちゃんにはよくわかんないけど、今回はグリーンがいるみたいだね~』
「そう言えばグリーンってどんな奴?全く興味なかったから気にしたことなかったわ」
「ち、ちょっとは気にした方が………」
マナ・Bが呆れている。
「グリーンについては、マナ・Bみたいに女好きで、ピンクの色香にやられてこっちを裏切った軟派野郎って事だけは知ってるぞ」
「またそう言う言い方をするし………」
ふっ……勝ったな。
まだまだ甘いぜ、マナ・B。
『グリーンはね、"既往歴中2病"の高校生だよ~』
「───既往歴?」
中2病ってあれだろ?
痛い人。
なんかわかる。
突然背伸びするやつだろ?
突然大人の真似をしたがるというか、上部だけの知ったかでこだわりを演出するというか………。
積み重ねなし、歴史なし、実績なしで有りながら存在を主張するというか………
────でも、既往歴ってどういう意味だ?
『まぁ、だいぶ社会復帰出来たというか、中2病が黒歴史って認識は有るみたい~。慢性の中2病よりちょっと空気読める分だけ成長してるみたいだね~。でも、今でもピンクの前だけは中2病が出ちゃうみたい~。大人に見られたいのかな~?』
ふふ~ん。
つまり、浅はかなガキってことだな。
───中2病?良いじゃねーか。
背伸びをするってことは向上心が有るってことだ。
それなのに向上心を黒歴史扱いとは何事か!
───省みるなら蔑まず誇れ!
中2病を黒歴史って認識する浅はかなガキは、
今でも空気読めず社会復帰できない俺様が、先輩中2病患者として後輩を指導してやるか。
しっかり型にはめたるど~。
………と、いうわけで、恥ずかしい思い出にのたうち回る苦しみ、お前にも今後もずっと味わって貰うぞ!
────俺だけ苦しむなんて不公平だぜ!
「マナ・B───とりあえず、あの三角帽子の取水塔の所に車を着けてくれ!俺が降りたらすぐ離脱してくれ。俺はそこで変身しようと思う。俺は高い所で敵の注目を集めながらカッコ良く決めたいのだ!」
「あー、ハイハイ。ブルーのおっしゃる通りにしますよ─」
『あ、ブルー!言い忘れたけど、今回は初回だからアイちゃんとマナ・Bでブルーの名乗りを採点するよ~』
「さ、採点?」
───突然なにを言い出すのだ?この電脳小娘は………
『そうだよ~30点以下は赤点、追試かな~?』
───まさかの赤点制度?
追試って事はもう一回名乗るわけ?
そんな辱しめは勘弁してほしい。
うむむ、なんとか一回でパスせねば。
プレッシャーが高くなるとポンポンがピーピーになってしまうかも知れないじゃないか。
『アイちゃんの採点基準は……今回は敵にグリーンがいるみたいだから、中2病っぽさがそこはかとなく匂ってくるのがいいな~』
────ま、まさかの大喜利チックなお題制!?
ノートの書き込み全く意味ないですやん。
───なんて素敵な嫌がらせ。
────小悪魔アイちゃん、その発想力!今後の参考にさせていただきます!
どうせやるなら、ポジティブにバカやるぜ。
「ブルー、それじゃあ取水塔近くでカウント10から開始、カウント5で停車、カウント0で急発進でいいかい?」
「───停車に五秒も不要だ。残りカウント2で発進してくれ!いいか!?残りカウント2だぞ!停車から2カウントじゃないからな?」
「───わかった。確認だが、ネタじゃないよな?」
「給料貰ってるのに、このタイミングで命かけてネタなんかやるかよ」
「────了解!くれぐれも気を付けて。」
『カウントはアイちゃんが行くよー!』
『───9───8───7───6───5!』
マナ・Bが後輪を滑らせながらも華麗に敵と取水塔の間に車を停車させる。
俺の安全に配慮して、俺が敵側ではなく取水塔側に降りられるように車を旋回させての停車だ。
───なかなかやるな、マナ・B!
帰ってからのイタズラは少しお手柔らかにしてやるぜ。
『───4───3───2!』
打ち合わせ通り、残りカウント2でアクセル全開────タイヤが空転し白煙を上げる。
まるで煙幕と言わんばかりの量の白煙だ。
「───な、なんだ!?」
「キィ──────!」
グリーンと戦闘員達が白煙でパニックになっている。
────マナ・Bのドラテク効果絶大だなぁ。
なんかここでTバズーカだっけ?
あのクラスター爆弾じゃないと言い張る大量破壊兵器。
───あれぶっぱなしたら全部終わるんじゃね?
………とか怖いこと考えてみる。
────やんないけどね。
あ、今思い付いたけど、この煙が晴れた時に取水塔をバックに俺登場!ってカッコいいかも。
俺はとりあえず取水塔の階段を駆け上がった。
下を見渡すと、煙の中でグリーンや戦闘員達がもがいているのが煙の動きで何となくわかるのが面白い。
「───T.O.F.U.変身!!」
相手からは見えないだろうが、ベルトの前で腕をクロスさせた後ちょっとカッコいい動きをしてみた。
そうこうしているうちに辺り一面を覆っていた白煙が、霧が晴れるように薄くなった。
「お前がブルーか!?」
───グリーンが俺に気付いた。
─────今が名乗りのチャンスだ!
「紫煙を燻らせオンザロック!流行りを尻目にロックンロール!サブカル?キモい?余計なお世話だ陽キャにキョロ充!スクールカーストはいつも最底辺!でも社会に出たらノープロブレム!就活二年─────酸いも甘いも乗り越えながら、いくつになっても心は少年!"酸いしか知らない"たった一人の戦隊ヒーロー、ブルー只今見参!!」
カッコいいポーズをとる。
…………………無言。
……………………ノーリアクション。
…………………………ちょっと悲しくなってきた。
このいたたまれない空気、俺もう限界かも。
────────おうち帰りたい。
でも、先に我慢出来ずに口を開いたのはグリーンだった。
「────おま」
─────ドーン!
だが、ナイスタイミングでグリーンの言葉に被せて、俺の後ろで大きな爆発音。
グリーン、お前もタイミング悪いな。
───おっさんやマナ・Bと同じ匂いがするぜ。
だが、この爆発音………打ち合わせにあった、俺の名乗りで問題発生した時にゴンちゃんがフォローいれるって例の救済措置的なアレだな。
………ってことは、俺の名乗りは問題アリってことか??
がっくりと肩を落とす。
あぁ、どんな顔してもう一回やり直しゃあいいんだよ─────。
そんな事を考えて落ち込んでた時だった。
「────おい、ブルー!!なんだ!?あの数字は!?」
グリーンが俺の後ろを指さした。
─────そっと後ろを振り返る。
『70てん』
空に黒煙で数字が描かれていた。
────────!!
思わず出るガッツポーズ。
やった!
やったよ!
────今なら仮装大賞で不合格から合格点に格上げされたグループの気持ちがわかる気がするぜ。
─────残念ながら俺には喜びを分かち合う仲間はいないがな。
やっと変身です。
ちなみに、今回の採点は
マナ・B 90点
アイちゃん 50点
の二人の平均でした。
マナ・Bはバレたときの仕返しを恐れて高得点を付けた模様。




