第3話 気がついたら変身ベルトが巻かれていた件
「………」
ナースコールと見せかけた自撮りボタンを床に叩きつけたが、それから全く何事も無く時間だけが過ぎていった。
「…………腹減ったなぁ~」
なんか何かのアニメで聞いた気がする台詞だ。
想い描くは愛しき牛丼。
家に帰ったら貪り喰うはずだった牛丼。
「────何処に行っちまったんだ……」
我ながら、なんか恋愛ドラマでよく聞く台詞の様な気がする。
牛丼を持ってルンルン気分の俺を轢いたあの車!
なんかゴツい車だったのは覚えている。
でも運転手の顔は見ていない。
車のナンバーだって見ていない。
その見れるタイミングで俺は走馬灯を見ていた。
もしひき逃げだったら俺が見ていなきゃ迷宮入りしちゃうかもしれない。
走馬灯なんか見ている場合じゃなかった。
「───後になって本当に大切なものが何かって気付くなんて………」
─────あ、もうセルフツッコミはいいよね。
「しかし腹減ったな~。背中とお腹がくっついたらどうすんだよ~」
俺は頭を少し上げて自分の腹を見る。
ん?
何か違和感。
───なんか俺の腰にチャンピオンベルトのようなモノが。
なんだろう?
腹筋鍛える奴?
いや、何が一番近いかっていうと仮面ナニガシとかいうのに出てくる変身ベルトに一番近い気がする。
「いい歳した大人が病室で変身ベルト巻かれてどういうシチュエーション??」
もう頭の中では初代の変身ヒーローが手術台に繋がれて暴れている映像がリピート再生されている。
「あー、頭真っ白になるわー」
頭を上げてへその辺りを見続けるのにも疲れたので元の体勢に戻った。
そこで初めて天井に貼り紙があることに気付く。
『隣の部屋でご飯食べてきます。もし目が覚めたら大声で呼んでね』
大声で呼べって、なんだ?この緩いノリは………。
『学生時代の友人と夕食食べてきます。帰りは遅くなるからレンジでチンして食べてね』ってメモと共にテーブルにラップされて用意されている旦那の夕食の映像がフラッシュバックしたぞ。
───ドラマならこの後一波乱ある奴だ。
そんなことを考えながら、俺は頭以外で自由になる唯一の左手で無意識にベルトを触っていた。
───すると部屋中に鋭い効果音が響いた。
ベルトから光と共に発せられた音はしばらく鳴っていたがその後静かになった。
「最近のオモチャは音がでけーなぁ」
その時の俺の感想はその位だったが、ベルトを覗き込もうとした時だった。
ブチッ
頭を上げるだけのつもりだったのに、俺は身体をベッドに縛り付けていたベルトを簡単に引きちぎって上半身を起こしていた。
「えっ、」
上半身を起こした俺はさっきまで着ていた病衣ではなく、青く輝く得体の知れない素材で出来た服を着ていた。
な、なんじゃこりゃ~