第12話 施設紹介の件
変身後は滑り棒に力を入れなくてもさっきの様に滑り落ちる事はなかった。
だから俺はゆっくり下まで降りることが出来た。
………変身した後の能力すげぇ。
ここが海抜マイナス40メートルか………
────天井が凄く高い。
さっきの穴が凄く小さく見える。
あのまま落ちてたら、絶対無事ではすまなかっただろうな。
想像しただけでキューっと縮こまる。
………何がって?
────そりゃ男の子にしかわかんない何かしらだよ。
───それから少しすると、俺をもう少しで二回目の天国に送り込む所だったおっさんが、エレベーターから降りてきた。
変身してるから俺の表情は読めなかったと思うけど、今までの人生の中で一番感情を込めて睨んでやった。
────マスクで隠れてなければ、きっとおっさんの奴は失神してたね。
「あのパスワードにつかってた0401って数字なんだかわかる~??」
空気を読まず近寄ってくるおっさん。
「あれさ~僕らの結婚記念日なんだよね~」
────知るかっ!
俺なんかあんたの下手なアテンダントのお陰で、もう少しで死んじゃう所だったんだぞ!
そうなってたら、おっさんの結婚記念日より今日の日付の方が俺の命日で重要になるとこだったぞ。
「じゃあここから簡単に説明するね~」
おっさんはあくまでもマイペースだ。
だが、その発言の度に俺の性格は、どんどんやさぐれていく気がする。
───あぁ、元々は俺は素直な天使みたいな性格だったんだぜ?
────あくまでも俺主観でだけどな。
「ちなみに、こっちは海側、こっちは山側ね」
人の指差した手首までの絵が壁に描いてあって、海、山と書いてある。
でもさ、これってよくお葬式とかの会場の近くにある『◯◯家葬儀会場はこちら』の矢印だよな。
これ、わざとなのか?俺を笑わせようとしているのか??
………一回死んだ事がある俺には笑えないジョークだ。
「海の方はね、海に面した倉庫に繋がってるよ。でも、今戦ってる悪の組織はあまり海で活動しないからあまり用事はないね」
「山の方はね、この地下道もちょいちょい使うけど、そのまま裏のメンテナンス用通路の方がいろんな所に出口があるし、車乗り入れもできるからそっちの方がお勧めだよ」
………だそうだ。
でも俺は車の免許持ってないから関係ないな。
「───じゃあ指令室に行こうか」
そう言っておっさんはエレベーターのあった反対側の扉の方に移動する。
「ここからは指紋と網膜認証がいるから変身は解いてね」
そう言われて俺はベルトのボタンを長押しして変身を解いた。
あっという間にまた病衣にもどった。
早くちゃんとした服に着替えたいな。
………これ、ガウンみたいなタイプだから、スカートみたいにスースーするんだよね。
「ブルーの指紋とかはもう登録してあるから同じように真似をして入室してね。ルールとしては共連れ入室は禁止ね」
そう言うとおっさんは、指紋認証部分に指を置き、サングラスを少しずらして網膜チェックをして扉を開けた。
───おお、すげぇハイテク!
ハイテク企業の特集テレビで見たとき、こんなの使ってたよな。
やってみたかったんだ!
………と言うわけで、俺もおっさんの真似してやってみた。
開いた!開いた!ウィーンって開いた!
もうほんと、ちょっと昔のスパイ映画の世界だぜ。
ちょっとテンション上がったよ。
────でも気を付けなきゃな、おっさんは上げて落とすから。
12話にしてまだ敵も出てきませんし、戦闘もありません。
いたって平和ですね。
………主人公はどんどん殺伐として、やさぐれていきますが。
どうか皆様生暖かな目で見守ってやって下さい。