第106話 不思議の国のブルーの件
「─────私、大丈夫でしょうか?」
久眠が危険かもしれないルバーブジュースを飲んだことで心配してオドオドしている。
「────死ぬんじゃない?」
「────え!?」
「………百年後位には」
「────いじわる言わないでください………」
────久眠が涙目だ。
あ、しまった、泣かせてしまう。
───この辺が俺のデリカシーの無さだよな。
────な、何とかせねば。
──────で、でもどうしようか??
───え~い!ヤケクソだ!
「───ちょっと貸して」
俺は久眠の持っていたルバーブジュースの瓶を取り上げた。
「───それをどうするんですか?」
心配そうに俺を見つめる久眠。
「どうするって?────こうするんだよ。」
────俺は久眠の持っていたルバーブジュースをゴクゴクと一気に飲み干した。
「あ!」
「───ぷはぁ!これでなんか体に起こるとしたら俺の方がいっぱい飲んだから先に症状がでるだろ」
────少しでも久眠の心配を取り除いてやんないとな。
これが俺が今出来る精一杯の配慮だな。
「でも………」
久眠が上目遣いで俺の方をみて何か言いたそうだ。
「────でも、何?」
「────間接キス………」
────────あ。
なんかちょっと俺も慌ててたから、そんなのあまり考えずにやってしまった。
………一気に俺の顔が赤くなったのが自分でわかってしまった。
「────ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ショック受けてたからなんとか和らげようと咄嗟にやってしまった………気分を悪くしたらごめん」
「────いえ、大丈夫です。ただびっくりしただけです」
───うう、恥ずかしくて久眠の顔が見れないぞ。
「────と、とりあえず先を急ごう!」
「───そ、そうですね!」
───いやぁ、なんか意識してしまう。
何か話を振ろうと思うけど何も出てこない。
でも、あれだ、きっと気分害してるはずだ。
───想像してみ?
中学生位と設定したとして、自分がかわゆい女子だとする。
休み時間、同じクラスの親しくもないキモメンが高らかに自分のリコーダーを吹き鳴らしていたのに出くわしたら?
───哀れ、リコーダーはヤツの唾でベトベトだ。
──俺なら殺意しか湧かないね。
───でもそこはか弱い女子。
───だから俺はトイレのつまりを直すあのスッポンを手に、油断しているヤツに襲いかかるだろう。
まぁ、これについては、その他にも色々ストーリーが考えられるのだが、今日のところはここで勘弁してやろう。
で、何が言いたいのかと言うと………
────だから久眠だって俺に殺意を抱いたとしても不思議ではないと思う。
「あ、あの─────」
「────な、なに?」
「────別に気分は害していないです!」
「────そ、そうか、ははは、気を使わせてごめん」
「───そんなに謝らなくても良いですよ!──気にしてますけど、気にしてません!!」
とりあえず、なんかよくわからないけど、怒ってないみたいで良かった。
お陰でなんか心に余裕がでてきた。
「───あと、さっきはあんなこと言ったけど、このジュースは多分大丈夫だよ。」
「どうしてですか?」
「さっき言っただろ?君のお母さんが止めなかったんだからきっと大丈夫だって」
「────あ、そうですね」
久眠に笑顔が戻った。
───そしてまた俺達はしばらく歩いた。
「────あの辺は道の脇の草丈が高いな~」
………これだけ繁っていると向こうに何があるかもよくわからんし、紫苑とか勿忘草見つけられるのかな?
「あ、ちょっと待ってください………やっぱり!────この草丈の高い草、紫苑ですよ!」
久眠が草の葉を見て言った。
「あ、そうなんだ………花が咲いてないとその辺の雑草と区別つかないな」
「そうですね、私もここに紫苑が生えてるって聞いていなかったら、多分わからなかったと思います」
「────あ、やっぱりそんなもの?」
「────まぁ、私も花屋さん初心者なので………」
「────いや、それでもわかるだけすごいぞ。俺なんか植物興味ないから、花が咲いてたとしてもきっとわからんね」
────まぁ、ここがとりあえず目的地だな。
来たところで何をするわけでもないがな。
ここにきたら何か進展が有るかもと思ったけど、特に何も無いな。
「────あ、あそこにベンチが有りますね。少し座って休みませんか?」
「───そうだな、結構歩いたもんな」
俺達は道路の車のすれ違いの退避スペースの脇に設置されたベンチに腰を降ろした。
「────相変わらず霧は晴れないけど、もしかしたら、霧が晴れたらここって景色良い場所なのかもな」
「────私も同じ事を考えてました!」
生まれも育ちもお嬢様の久眠と、生まれも育ちも適当な俺が同じことなんか考えることが有るんだなぁと、何か面白いと言うかなんと言うか、不思議な感覚だった。
────さて、これからどうしようか。
ここに来てみたものの、やることもないのでルバーブの瓶に書かれた文字を読んでみた。
「────ルバーブは西洋フキなどと呼ばれる事もありますが、フキはキク科でルバーブはタデ科と全く別の種類です………へぇそうなのか。タデ科ってあれだろ?タデ食う虫も好き好きって言葉の語源だろ?ヤバイの確定じゃん。───でもまぁ、俺としては嫌いではなかったな、あのジュースの味。」
────そう、実は俺的にルバーブジュースはアリだと思ったのだ。
なんか独特な味って賛否が別れる時あるじゃん?
────今回のは俺的にアリだね。
「────俺的にはルバーブジュースはアリだとおもったけど、久眠さんはどうだね?」
俺の味覚が特殊なのかどうか確認したくなってしまったので久眠に聞いてみることにした。
────久眠からの反応が無いな。
久眠の方を見ると何か一点を見るような感じで固まっている。
────何か様子がおかしい。
"────どうした!?"
俺はそう声を出そうとしたが、声を出すことが出来なかった。
────それだけではなく視界がぼやけてきた。
─────ま、まずいぞ、あのルバーブジュース何か入っていたのか?
俺はルバーブジュースの瓶を持っていられなくなり、瓶は地面へと落ちた。
俺は何とか立とうとしたが力が入らず、ベンチから滑り落ちるように地面へと転がった。
────ルバーブの瓶のラベルの裏書きが見えた。
『Drink Me!』
"Drink Me!"って不思議の国のアリスかよ!?
俺が小さい頃買ってもらった絵本じゃ、アリスはピンクの液体を飲んで小さくなったが、このルバーブの緑の液体は一体何が起きるんだよ………
────遠のく意識のなかで、白ウサギの代わりにチョッキを着たおっさんが『遅刻する!』とズラを逆に被りながら走って行った。
───おいおい、今回は走馬灯じゃないのかよ!?
そこで俺の意識は途切れた。
はい、今回も長いですね。
私のこの作品のコンセプトがどんどん崩れていっております。
次は初心に返り、短い文章目指します。
目指すは5・7・5で17文字くらい?
これ以上は怒られるので、適当なのはこれくらいにしといて、真面目な話、ちょっと今回は一話一話がどうしても今までより多くなっちゃうかもしれません。
シチュエーション?
そう言うのを少しいつもより説明しないと伝わらないのかなぁと。
やりくりが下手なのかもしれないですが、今回は心の葛藤もいれつつ、ふざけて行きたいと思います。
ハッピーエンドはいつも通り目指します。