第105話 俺の名推理の件
――――――とりあえずルバーブジュースとジャムを購入した。
それでおばさん達に、もしこの後青い車に乗った人間が来たら、俺達は向こう岸の紫苑と勿忘草が群生してる所に向かったと伝えて欲しいとお願いして移動を開始した。
「────とりあえずこれでアオマルが助けを呼んで来ても合流出来るだろうし、とりあえずこの道を歩いていけば群生地に行けるみたいだからそこまでは行ってみよう」
「────相変わらずスマホは電波入りませんね~」
「────その事も気がかりなんだけど、ちょっと聞きたいことが有るんだ………」
「────なんですか?」
「あの旧札─────普段から持ち歩いてるの?」
「いえ、今日の朝仕事に行く前に母に持っていくように、と渡されました。────多分必要になるから………と」
「そっか………君のお母さんは何か知っていたのかな?」
「────そうかもしれません。もしかしたら、この状況を予見していたのかも」
「────そっか。なら心配無いな」
「────どういう事ですか?」
「君のお母さんはきっとこの状況を予知した上でお金を持たせたのだろうし、娘に危険がないから送り出しているんだろう。────もし、危ないのなら仕事に行くなと止めただろう」
「───あ~、そう言うことならそうかも知れませんね」
「────お母さんは他に何か持たせたり、何かアドバイスみたいな事は言わなかったの?」
「────いえ、特に………何も無かったと思いますけど………」
「───それならそれでいいよ。あと、俺の今の状況を整理した話を聞いてくれる?」
「────はい、聞かせてください!」
「────まず、今回の件、オカルト路線か現実路線かでかなり違ってくるんだ。とりあえず話が簡単なオカルトの方から説明するよ」
「オカルトですか………ちなみにオカルトってなんですか?」
「────あ、そこからか。え~と、オカルトって非科学的っていうか神秘的なものって言ったら良いかな。例を上げれば君の一族の話もオカルトに分類されるかな」
「あ、そう言うことですか!」
「そうそう!俺の周りでも最近はオカルトについても色々有ったから、これも否定は出来ないと思う」
「────わかりました!」
「────まずはオカルトで説明するなら現在の俺達は過去にタイムスリップした状態だと思う。」
「────タイムスリップですか?」
「まず、わかりやすいのがさっきのお金。あれは1960年代前半から1970代後半まで使われていた紙幣だ。もう半世紀位前の通貨って事になる。あと、思い起こせば缶ジュースの飲み口の部分でも気づくべきだった。あの封を開けると缶から分離するタイプはプルタブ型って言うんだけど、1960年後半から出回り出して、1980年代位まではあれが主流だったんだけど、今では封を開けても缶から蓋が分離しないステイオンタイプに置き換わってるよね?」
「────ってことは………タイムスリップで説明すると、今は1960年後半から1970年後半位の時代と特定できますね!」
「────うん、そうなるね。理由はわからないけど、過去に飛ばされたとしたら、そんな感じかな。ちなみにGPSもスマホもそれより後の発明だから、過去に飛ばされたとしたら使えなくて当たり前ってことになる」
「良くわかりました!では現実路線な場合はどういう事ですか??」
「まずはこれは個人レベルでは実現不可能な事はわかるよね?少なくともかなり強力な電波妨害は必要だよ。GPSやスマホを使えなくするくらいだからね。次に、あのぐるぐる同じ所を回る状態を作るには、事前に入口を残してぐるぐる回るコースを作っておいて、あの中に入ったら入ってきた入口を五分以内にわからないように塞いでしまえば、ぐるぐる回るコースの完成だ」
「────なるほど!」
「────ただ、その場合はそこに俺達を誘い込む必要がある」
「────そうですね!」
「────そうだとしたら、この仕掛人は君のお店に紫苑の花を注文したお客さんである可能性が高い」
「あ、そうか!私達をそうやってここに誘導したわけですか!」
「────だとすると、さっきのおばさん達も仕掛人の仲間という可能性がある」
「───あ!そうなんだ!」
「────だから、ルバーブジュースとジャムは念のため手を付けない方がいいな」
────しかし、一体何のために俺達を………
────相手の目的がわからない。
────チョンチョン
俺の後ろを歩く久眠が俺の背中をつつく。
「あの─────」
「────なんだね?久眠さんや?」
後ろを振り向くと申し訳なさそうにしている久眠がいた。
「────すみません……もうジュース少し飲んじゃいました」
────久眠が俺の知らない間にもうひとつルバーブジュースを買って飲んでいた。
お気付きかもしれませんが、久眠さんは食いしん坊です。