第103話 ショートサーキットの件
「────アオマルが向こうから走ってこないことを祈るよ」
俺は歩きながら久眠に最悪の結果の話をした。
「アオマルちゃんが向こうから走ってくることってそこまで悪い結果でしょうか?私、良く考えてなかったですけど────でも、この場合の最悪のケースってなんですかね?」
「────そうだなぁ、良く考えたらそうだな。アオマルが向こうから走って来るってことは、少なくとも今は完全に繋がったサーキットの円の中を走っているみたいな状態ってだけはわかるしな」
────そうなると、なにが俺達にとってまずい結果だろうか?
「────アオマルちゃんとも会えず、しかも、どちらも脱出できない状況に陥っちゃう場合は?自分達は堂々巡りつづけているけど、相手がきっと助けを呼んでくれるはずだって思い込んで、お互いにずっとその場で待ち続けて……」
────あ、よく考えてみたらそれはヤバイな。俺達とアオマルはお互いに相手の状況わからないからな。
一度別れた俺達とアオマルが再会できない理由が『どちらかがこの閉鎖空間を脱出したから』とは言いきれないものな………。
『お互いに別々の閉鎖空間』をぐるぐる回ってしまうループに別れてしまうことだって想定必要だったかも。
────アオマルと別れたのは早まったかな?
「────アオマルちゃんが向こうから走って来ないのを時間で判断して、ある程度の時間で来ないなら、アオマルちゃんは違う所に移動したって判断して何か別の方法探しますか?」
「───そうだな、今いる所はとりあえずアオマルが五分位で一周出来るループと考えて、二十分位してもアオマルが来なかったら次の手を相談しよう。まだまだ手はあるから、悲観しないで行こうか!」
「────アオマルちゃんが脱出して助けを呼んできてくれる事だってまだ可能性がありますし、それと同じく私達が脱出して助けを呼びに行けるかもしれませんしね!」
「───そうそう!希望は持ちつづけよう!」
「────希望ですか!それじゃあ、脱出したら何がしたいか言い合いっこしましょうよ!」
────そうだな、そう言うことやってたら気も紛れるし、良いアイデアだな。
「────それじゃあ、俺から。"カップラーメンを食べる"」
「────あ~ズルい!私が言おうと思ってたのに!」
「はっはっは!世の中弱肉強食、焼肉定食なのだよ!」
「う~ん、それじゃあ、それじゃあ────え~っと………私の手料理を振る舞う!」
「────振る舞う?振る舞うって誰に?」
───聞かなきゃ良いことを思わず聞いてしまった。聞いてから後悔。
────自意識過剰とか、勘違い男とか思われなかっただろうか?
「────誰にって………カップラーメンのお礼ですって言ったら………」
久眠が少し下をうつむいているから表情が読み取れない。
────ひょっとしたら俺に食べさせてくれるの?
────え?え?え?
恥ずかしさで俺の顔が火照った。
───俺の免疫力を越えてきたな!!
過去にこういうのに遭遇してないから、こう言うのは俺には免疫が付いてない未知のウイルスみたいなもんだ。
───だ、駄目だ!勘違いするな俺!
久眠としてはカップラーメンばっかり食ってる栄養物足りない男に仕方ないから恵んでやるか位のつもりのはずだ!
────勘違いすると恥をかくから気を付けろ、俺!
「────お弁当とか持ってアオマルに乗ってドライブをやり直しするのも良いな!」
「────それなら!私がお弁当作ります!」
「────よし!それなら、まだまだそれを楽しみに頑張れそうだ!」
「────そうですね!」
………ふう、なんとか持ち直したようだ!
やるじゃん、俺!
コミュニケーション能力少し上がったんじゃね?
―――そんな事を考えて話をしながら歩いていたら、あっという間に時間は30分も経っていた。
「────気づいたら大分時間オーバーしていたな。こっちは全然霧は晴れないし景色も変わらない。この感じだと俺達が脱出出来たとは思えないし、アオマルが前から来ないと言うことは、このループからアオマルが脱出したか、アオマルがまた違うループに移ってしまったか………そのどちらかって判断できるな」
「────助けを呼びに行ってくれてたら嬉しいのですけど………」
「────とりあえず俺達は違うアプローチをしようか」
────俺は少し辺りを見回した。
………あの辺が良いかな?
「────このループからとりあえず抜け出せないか足掻いてみようか」
俺はポケットからマジックを出した。
またガードレールに落書きをする。
キュッキュッキュ~
「↑アオマルへ、お父さん達は……ここから林を抜けてみます───と。」
マジックでガードレールにアオマル宛の伝言を残した。
「────道路を外れて、ガードレールの向こう側、ここからなら林を抜けられそうだ」
「────ああ、なるほど!」
「アオマルに伝言も残したから、アオマルが助けを呼んで戻ってきたとしても、気づいてもらえるだろう」
「────そうですね!良いアイデアだと思います!」
───久眠の同意を得て、俺達はガードレールを乗り越えて道路脇の林に分け入った。