第101話 五里霧中の件
「────なんか、さっきもここ通った気がする………」
「なんか霧も相変わらずで景色も代わり映えしないし、ずっと同じ所走ってるみたいですね」
─────そうなのだ。
ず~っと同じところ走ってる気がする。
「────相変わらずナビも全然動かないし。」
「音楽でもかけたいとこだけど、スマホが電波拾わないからか俺のじゃ音楽聞けないしなぁ………」
────そうなのだ。車にCDプレイヤーは有ってもCD持ってきてないし、俺の契約してるスマホのサブスクはどうもアプリ立ち上げ時に一度契約状況確認するのか、音楽が聞けなかったのだ。
─────がっくし。
────会話が途切れたら俺の音楽プレイリストが炸裂するはずだったのに。
こんな事もあろうかと、日頃色んなジャンルでプレイリスト作りまくっていたというのに。
────それはもう、浪花節から浪曲まで幅広いジャンルで!
………ん?ジャンルが片寄ってるって?
────ちっちっち!わかってないなぁ!………浪花節も浪曲も同じ意味だ!
────いつも通り、適当に言っただけだ。
浪曲プレイリストは俺のフォルダには存在しないぜ。
────濃い霧の中で同じような道を走っているから気になることが。
「………多分あの特徴的に曲がったガードレール、何度も見た気がする。いや、絶対に何回か通った!」
俺はその場でハザードを出して車を停めた。
「―――ちょっと車で待ってて!」
俺は久眠にそう言って車を降りてガードレールに近づいた。
――――――おもむろに俺は上着のポケットからマジックを出した。
「────キュッキュッキュ~」
俺はマジックでガードレールにおっさんの落書きをした。
※良い子のみんな!公共物への落書きは絶対に駄目だぞ!こんな事すると、大人になった時俺みたいな友達がいない大人になっちゃうぞ!
「――――――あれ、なんの絵ですか!?」
車に戻ってきた俺に久眠が素朴な疑問をする。
「――――――ウチのアホ上司が風で飛ばされたカツラを追いかけているところ」
「―――――な、なんか悪意を感じます!」
――――――悪意?有るに決まってるさ!
あのマジックはいつかウチのおっさんのまぶたに目を描いてやろうと肌身離さず大事に持っていたものだ。
―――――でも油性マジックはかわいそうだから、顔ペイント用のマジックだ。
――――――ちなみに水で落ちる。
スポーツ観戦で日本代表応援してる人がよく使うやつ。
―――――俺も心まで鬼になり切れなかったようだ。
俺もなんだかんだ言って善人だったって事さ………。
――――――遠ヒ目ヲスル。
「――――何を格好付けてるんです?」
「───いや、特に別に何も。でも、あえて言うなら俺はいつでも、どこでも、どの角度でも、どこを切り取っても格好よく見えるように出来てるんだ」
………そう言ってマジックを鼻に突っ込んだ状態で真顔で久眠の方を向く。
「────ぷぷぅ!反則です!」
久眠が吹き出す。
「────また俺はガチンコ勝負に勝ってしまったようだ。負けと言う言葉の意味を知りたいぜ………」
………とかバカな事を言っているが、実は自分自身が動揺していることを久眠に悟らせない様にやったちょっとした演技だ。
────多分俺達は何かしらの事件か何かに巻き込まれているのだと思う。
───今の現象はあり得ないのだ。
スマホやナビが同時に電波やGPS信号を見失った。
────その状態がすでに30分以上続いている。
本来はT.O.F.U.の独自の高高度衛星、低軌道衛星、静止衛星の衛星群と地上の通信網の組み合わせで、地球上全てのエリアで5分以上電波を見失う事は理論上無いはずなのだ。
携帯電話の電波で昔よく使われた『人口カバー率◯◯%』とかいうワケわからん数字じゃないぞ。
100%───少なくとも地球上でアオマルが5分以上通信手段を失うことは無いはずなのだ。
────そのあり得ないことが今起こっている。
アオマルが今ネットと繋がらなくなったため、サーバーに溜め込んだ学習情報が使えないようなのだ。
アオマル事態は本体メモリー容量に余裕があるから現時点での活動には支障ないらしいが………。
(どのみち久眠がいるから喋られないけど)
────原因は大規模な電波妨害の線が濃厚だが、ひとつ気になる事がある。
────ずっとここまでの間は曲がり角がなく、真っ直ぐ30分走り続けている。
正確ではないが、少なくとも走行距離にして20キロ以上走ったはずだ。
………その間対向車と一度もすれ違うことがなかった。
しかも、何度も似たような景色を堂々巡りしているように感じる。
───錯覚であると信じたいが、それが錯覚か現実なのかを確かめる為にガードレールに落書きをしたのだ。
頼むぜ、おっさん!(────の落書き!)
────やってから思ったが、絵でもおっさんに頼み事するの嫌な気分になるわ。
………………一生の不覚。