第10話 秘密基地の件
「まぁ、気を落とすな、ブルー!」
おっさんがなんか俺が気落ちしてるのに気づいて、俺の肩に手を乗せる。
────気安く触んな。
とか冷たいことは言わない。
なんせ俺の命の恩人みたいだからな。
おっさんは俺の肩に手を乗せたまま、温かい表情で、無言で俺を見つめる。
「─────気安くこっち見んなや」
あ、ぽろっと言っちゃった。
また冷たく突き放しちゃった。
おっさん、メンゴメンゴ!
俺、自分に嘘付けないタイプなんだわ。
でも、あれだぜ?
おっさんも悪いんだぜ?
人には他人との距離感ってもんがある。
パーソナルスペースって言うんだっけ?
ほら、50センチ位のスペース以内に入ってくると不快におもったりするって奴。
おっさんはその中に、ずけずけ入ってくる。
流石は外国人ってとこだろうけど、そのコミュニケーション能力は俺には通じないんだわ。
もう、おっさんが半径一メートル以内に、いや、俺の視界に入ると不快になるぜ。
でも、まだ俺なんかマシだぜ?
俺の知ってる "デューク・T"さんなんか、後ろ全部パーソナルスペースだぞ。
(しかも、後ろに回ろうもんなら銃で撃たれちゃうんだぞ)
おっさんが俺に与える不快感の原因は実はっきりしてるけどね。
不自然なヅラとサングラスに顎マスク。
さっさと正体バレたんだから取れっつの。
こんな格好のままで俺の肩に手を乗せるんだから、俺にも抗議する権利位あるよな。
俺が女性だったら、こんなおっさんに肩に手をかけられたら即セクハラで訴えるか、スタンガン押し付けるね。
────駅員さーん、変態がいまーす!
………まぁ、俺がそんな事考えてるうちに、おっさんは肩から手を離し、涙目からも回復しつつある。
「それではブルー、これから君にこの秘密基地を案内しようか」
────え?秘密基地?
今いるのって秘密基地なの?
病院じゃなくて??
「今いるのって病院じゃなかったってこと?」
おっさんはニンマリと笑って頷く。
───頼むからせめてズラだけは外してくれよ、と思ったが、話が進まないのでここは飲み込んだ。
ちょっと秘密基地って事でテンションあがる。
秘密基地って言葉にテンション上がらない男子はいないでしょ。
俺も小学生のころ友達とみんなでさ、秘密基地ごっことかしたことを覚えてるよ。
あの時は楽しかったなー。
廃材集めて基地作ったんだっけ………。
友達同士、お菓子食べたり、拾ったエッチな本見て騒いでたなー。
そんで『ここは俺達だけのひみつな』って………。
───あ、思い出した、俺達だけの秘密だったのに次の週知らない奴が来てたよな。
最後あの秘密基地乗っ取られて終わったんだった。
────ここに来て走馬灯にも出てこなかった過去を思い出しちまったぜ。
これで秘密基地が期待はずれだったら変身して暴れてやるぞ。
「まずこれが全体図だ」
あ、こりゃかなりすごいぞ。
線路の様に複雑にいりくんでいる。
ん?でも、なんかこれ見たことある図だな………。
「この地下鉄の路線を掻い潜って我々の基地は作られているんだ」
………やっぱ路線図か。
………そんな事だろうと思ったよ。
そっと変身ベルトに手をやる。
「ブルー、名乗りの音声登録しないと、ボタン押しても変身できないよ」
………ちっ、勘がいい奴だ。
「ちなみにトイレとか大丈夫?案内ルート結構長いけど、トイレとかないから今のうちに済ませておいて!」
「いや、大丈夫だから案内して」
俺はぶっきらぼうにそう急かした。
おしっこしたくなったら、その辺で立ちションしてやるつもりだ。
おっさん、俺に立ちションされたくなければ、ちゃんと案内するのだぞ!