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主人公ならピンチに覚醒するんですが?

昼の投稿に間に合わなかった。

ようやっと清書版で本来やりたかった話の統廃合ができた。

下書き版の07と08を合わせた部分の内容となります。

07

 一瞬気のせいかとも思ったが、気のせいだと思ったのが気のせいだった。

 ズシンズシンと徐々に大きくなる足音と僅かな地面の揺れは続いている。

 これを気のせいだと思うのは、現実逃避だな。

 現実逃避したくもなるだろう。

 僅かにとは言え、地面が揺れるほどの巨体が動いているのだ。

 どう考えてもゴブリンやコボルトなんて弱い魔物ではない。

 戦いは数だが、物語において主人公の多くは数を頼りとしない。

 物語フィクションだからこその虚構フィクションだと言えばたしかにそうかもしれないが、現実でも時として圧倒的な個の力が数を凌駕することだってあると思う。

 倫理的な問題は無視して、普通の幼稚園児30人に囲まれた身長2メートル越えのプロ格闘家が負けるか? と、そんな話だ。

 園児は素手で、格闘家が武器を持っていたら、なおさら覆しようのない差が広がるだろう。

 そんな風に数を上回る個はありえないわけではない。

 魔物なんて物語みたいな生き物がいるこの世界で、地面を揺らして歩くような巨大生物相手に、この戦力で勝てるわけがない。

 俺は慌てて板垣さんたちに指示を出し、自らも木と藪を盾にして姿を隠した。


「うわぁ…………」


 案の定と言うべきか、間一髪と言うべきか。

 俺たちが姿を隠してすぐにソイツは姿を現した。

 まるで人間が藪をかき分けるように木々をかき分け歩くのは15メートルはあろうかという巨大な鬼だ。

 ゴブリンを餓鬼だとすれば、コイツは鬼の親玉だ。

 ゴブリンは貧相な体つきで、腕も細く身体も小さいし武器だって木の枝だった。

 それに対して、コイツは腕周りだけで相撲取りの胴回りぐらいありそうな太さがあり、体つきも全体的にゴツゴツしている。

 武器に至っては、太い木の枝とかじゃなくて引き抜いた木をそのまま持ち歩くとかおかしいだろ。

 ゴブリンやコボルトのネーミング的に考えるとコイツはオーガか?

 だけど、ゴブリンからオーガでこうも違うんだろうか?

 少なくともこれは無理だ。

 勝てそうにない。

 板垣さんを何人ぶつけようとも倒せないどころかダメージを与えられる気すらしない。

 それほど圧倒的な化け物である。

 そうとなれば、この場は息を殺して嵐が過ぎ去るのを待つしかない。


「………………」


 必死で自分の気配を殺すように身を縮こまらせながらオーガに気づかれないよう唯々祈る。

 オーガが一歩進む度に地面が揺れ、こっちに来るんじゃないかという不安が大きくなる。

 頼むからそのまま通り過ぎてくれ……

 ねぇ……何で足を止めてるのかな?

 さっきまでは真っ直ぐ歩いていたじゃないか。

 キミが足を止めたのは俺たちのすぐ近くなんだけど、見えてないよね?

 ちょうど頭が葉っぱの生い茂る位置にあるから、木の陰と藪を利用して隠れている獲物おれたちの姿が見えるわけがない。

 確かに俺たちの姿は見えていないのだろう。

 動きも止めて音も立てないようにしているので、そう言った気配はほとんど殺せていると言っていい。

 だがしかし、あろうことかオーガは鼻をスンスンと鳴らしているようだった。

 見るからにお前はコボルトの進化形などではなく、ゴブリン系統の見た目だ。

 到底嗅覚なんて発達しているようには見えない。

 そうは見えないんだから、発達してないと言って欲しい。


「ゴアアァァァァァァァッ!」


 俺の願いは空しく適わなかったのか、それともただの偶然なのか。

 オーガは突然咆哮すると持っていた木を振り回して周囲の木をなぎ倒した。

 見た目は普通の木と変わらないはずなのに、なぜかオーガの持っている木はそのままなのに地面から生えている――俺たちを隠していた木だけが半ばからへし折れて倒れていく。

 ヤバい。

 オーガの視界を遮っていた木が軒並み倒され、俺たちの姿が丸見えになってしまった。

 表情筋が死んでいるようにピクリとも顔つきが変わらない板垣さんたちも、この時ばかりはビビっているように見える。

 っげ! 倒された木の下敷きになって板垣さんが何人か昇天召されてる……

 残りは……30人きったぐらいだな。

 板垣さん30人と俺でこの化け物みたいなオーガと戦うなんて不可能もいいところだ。

 ゴブリンとの戦いが楽勝だったからって油断していた報いなのか?

 それにしたってこれはないだろう。

 そもそもこの森にはゴブリンやコボルトしかいないはずだ。

 それなのにこんな化け物が出るっておかしいだろ!

 どうする? どうすればいい? って、考えても答えなんて1つしか無い。

 諦めて死を受け入れるか逃げるのかの二択だ。

 前者は当然却下だから、実質1つなので間違いではない。


「板垣さん、順次突撃! 俺が逃げる時間を稼げ!」


 板垣さんにそう指示を出して、俺は一目散に逃げ出した。

 デカいってのは遅いのと同義だとどこかの動画で見た気がするので、それを信じるしかない。

 俺が逃げ出した直後に最初の板垣さんが指示通りオーガに突撃した。

 板垣さんをぶつけることで、オーガの意識を板垣さんに向けさせる。

 野生動物なら目の前にいる30匹の獲物と逃げ出した1匹なら、目の前を優先するのが普通だろう。

 板垣さんを尊い犠牲にすることで、俺は無事に逃げ出せるはず――そう自分に言い聞かせながら走る。

 そこで突然何かが目の前に落下してきた。


「え?」


 何かと思えば、板垣さんだ。

 いつの間に板垣さんは瞬間移動能力を手に入れたんだろうか、などと馬鹿なことを一瞬考えるが、次の板垣さんが降ってきたところで俺は振り返って後ろの様子を確認した。

 当たり前だが瞬間移動ではない。

 板垣さんが突撃すると、オーガは板垣さんをサッカーボールのように蹴って俺の進路上に落としているのだ。

 ナイスコントロール。

 フリーキックの精度が高すぎるんじゃないのか?

 HAHAHA! と笑いながらオーガの肩を抱いてそう言えば案外仲良くなれ――ないな。

 ここで現実逃避したら死ぬから辞めておこう。

 それにしても、どうやらオーガは逃げ出す1匹である俺も逃がすつもりはないらしい。

 例の名言を口にしながら背後で光になっていく板垣さんを尻目にその場を逃げ出し、走りながらもどうすればいいのか必死に考えを巡らせる。

 板垣さん1人では1秒の時間稼ぎすらできない。

 30人でも30秒に届かないのだからオーガから逃げ出せるかは難しいと言わざるを得ない。

 なにせ30秒と言ったら、俺の足では200メートルの距離すら稼げないのだ。

 200メートルの距離を稼いだ後に隠れることも考えたが、それが無意味なのはさっきの様子から間違いないだろう。

 隠れるぐらいなら逃げ続けている方がまだマシだ。

 隠し通路の出口があった洞窟まで逃げることができれば、サイズ的にオーガは入れないので命が助かる可能性が高い。

 問題は、どう考えても1キロ以上先にある洞窟まで逃げられるとは思えない点ぐらいだな。

 走りながら召喚するという器用な真似ができればまだマシかもしれないが、生憎とそれができないことは感覚的に理解できる。

 召喚にかかる時間は10秒かからないぐらいで、同時召喚は5人が限界だ。

 そうすると差し引きはマイナス5秒とどう考えても足を止めて板垣さんを追加するのは割に合わない。

 もうこれは、至極単純な答えを採用するしかないか。

 30秒を兎にも角にも必死で走る。

 息が切れても走る。

 死にたくなければ走る。

 30秒が過ぎても追いつかれないように必死で走る。

 目覚めろ! 俺の火事場の馬鹿力!


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」


 無理でした。

 体育の授業以外でめったに運動しないインドア派の俺に体力を期待する方が無茶な話だ。

 危機的状況では人間の持つ100%の力が解放されるって言うけどありゃ嘘だな……

 20秒も過ぎた時点で全力疾走のつもりがジョギングぐらいの速さしか出なくなってしまった。

 それでもなんとか距離を稼がないといけないからとにかく走る。

 歩くような速さだけど走っている。

 板垣さんはすでに全滅しているだろう。

 先ほどからドシンドシンとオーガがこちらに近づいてくる足音が聞こえている。

 その場でへたり込みたい衝動に駆られるが、オーガの足音が聞こえる度、死の恐怖から逃れるために足を動かし続ける。


「あ……」


 すでに体力は限界まで絞りきっており、足が思うように上がらない。

 そんな状況で森の中を進んでいるものだから、少しばかり地面から顔を出していた木の根に足を取られてしまった。

 脳に十分な酸素が送られていないのか、判断力も低下しているようで手を前に出すことすらできずに地面を転がった。


「あぁ…………はぁはぁ……くそっ!」


 息が乱れて身体に力が入らない。

 それでもなんとか立ち上がって再び逃げようとするが、木々の間から僅かに差し込む月明かりを遮って俺の周囲を影が包んだ。


「マジか……」


 肩を上下させながら振り返ると死を体現したような化け物――オーガがそこに立っていた。

 必死で逃げていたけど追いつかれてしまった。

 転けて多少は時間を無駄にしたとは言え、30秒ほどのアドバンテージをこうもあっさり埋められてしまえば、今更逃げ出したところで逃げ切ることなど出来はしない。

 それを理解してしまい、身体から力が抜けるようだ。

 なんとか木を背中にして身体を支えてへたり込むのを防ぐが、立っているからと何かが出来るわけでもない。

 これは完全に詰んでしまった。

 木を乱雑になぎ倒して顔を見せたオーガは、俺を追い詰めたのがよほど嬉しいのか厳い顔を喜色に歪めているように見える。

 この状況を打開できるような手段がない。

 板垣さんを召喚したところで時間を稼ぐことすら出来ず、逃げ切れるような体力もない。

 英雄召喚で召喚できる2人の内、武蔵に至っては魔力の消費が多いくせに能力は板垣さんと大差ないのだ。

 仮に今ここで3人目を召喚できるようになったとしても、詳しく知っている英雄など1人もいないためにこの化け物を倒せる英雄など召喚できはしない。

 あぁ……くそっ!

 なんで俺のアビリティにはこんな条件があるって言うんだ。

 詳しい知識を持っていればいるほどに強くなるなんて、歴史嫌いの俺に対する嫌がらせなんじゃないのか?

 どうせなら、歴史上の人物とかじゃなくてアニメや漫画のキャラクターを召喚できる能力にしてくれよ。

 それなら……それなら、魔王どころか神だって殺せるキャラクターを召喚してやるよ。


「ムサたんなら……」


 ムサたん、宮本武蔵のことだ。

 ただそれは、俺が召喚できる歴史上の宮本武蔵ではなく『侍学園サムライハイスクール』に登場するキャラクターの宮本武蔵・・・・である。

 俺が召喚できるのが、そのムサたんであったならこんなことにはなっていなかった。

 召喚できるのがムサたんであれば、作中の能力を限りなく完全に近い形で召喚できただろう。

 そして、そのムサたんの力があれば、目の前にいるオーガも雑魚と言っていい。

 なんで俺のアビリティは歴史上の人物しか召喚できないって言うんだ。

 どうせなら宮本武蔵を召喚したらムサたんが出てきてくれよ。

 俺を助けてくれよ……なぁ……


「宮本武蔵ぃっ!」


 叫ぶのと同時にごっそりと身体の中から魔力が抜けていく。

 召喚するつもりなどなかったが、魔力の消費があったということは召喚が実行されると言うことだ。

 案の定、目の前の地面に光り輝く紋様が浮かび上がる。

 昼間に召喚した時よりもさらに多くの魔力が持って行かれたのか、走って体力を消費した時以上に身体に力が入らず、思わず膝をつきそうになる。

 強烈な光を放つ紋様に驚いているのか、オーガが動こうとしないのは幸いだ。

 いや、どうせ動くことも出来ないから武蔵がやられるまでの短い延命にしかならないだろう。

 徐々に光が収まり、そいつは姿を現した。 


本当は01と02を統合させる予定だったのに、加筆が多すぎて両方合わせると1万文字近くなりそうだったから、結局統合は見送られ、ここに来てようやく本来の目的の1つが達成できました。

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